はじまり。
ー 2054年8月27日 ー
『おはようございます。今日私は秋葉原
に来ています。見てください、すごい人の数です!これは大人気ゲーム"ジンロー"のVR版の購入列です。』
心臓の鼓動の音がする。
『私も買ったんですけど、遊ぶのがとても楽しみです。早くやりたいなぁ、現地からは以上です…』
(もう7時50分か…)
リビングにある5分遅れた時計をみる。
急がなくては。予定していた時刻に間に合わない。
「まひと ご飯は?いらないの?」
「いいや、昼食べる!」
朝飯など食べている暇はない。
俺は急いで、古くなった階段を駆け上がる。
(8時53分!良かった、ギリギリ間に合った。)
机にずっと放置されていたVRゴーグルをとってベッドに寝転がる。
(あと5分か、そろそろかな。)
心臓の鼓動、鳥の声、親が食器を片付けている音、すべての音が俺の耳にきれいに入ってくる。
落ち着いている。集中できている。これなら、大丈夫そうだ。
「VRゴーグル、起動!」
さあ、ここからが俺の時代の幕開けだ!
『あなただけのオリジナルアバターを作成します。体型を選んでください。』
体型は少し細め、
『次に顔、目の色、髪、を選んでください。』
顔は…自分の顔でいいや。目の色は赤、髪はまあ無難に黒かな。
『最後にあなたの名前をお願いします。』
ん?人狼ゲームなのになんで種族とか決める必要があるかって?
それはおいおい説明していくよ。
名前…か、どんなのがいいかな。
長考の末、
「GM.で。」
後藤 真人 それが俺の本名だ。その頭文字をとってGM.だ。どうだ?地味だけと猛者みたいな名前してるだろ。
システム:本当にその名前でよろしいですか。一度決めた名前は二度と変えられません。
はい
ゲーム起動中……、画像読み込み中……、
アバターを生成……、完了
ようこそ。
「懐かしい。」
目の前には子供の頃を思い出すかのような懐かしい景色。
大きな広場、もう動かない古時計。独特な世界観、そのすべてが俺を没頭させる。
「やっぱ最高だわ、このゲーム。」
大広場をみるとたくさんの人が集まっていた。
ざっと千人ぐらいだろうか。先行体験版の時の三倍はいるな。まあいい。
「ホーム!」
システム:ホーム画面の起動を確認
Name:GM. Age:16 Status:HP100.
MP100.KP100.SP100.Skillなし
Level.1
ステータスは役職によって定まるのでまだ決まっていない。初期値は100に設定されている。
ステータスはレベルが上がればそれだけ上がる。というシステムだ。
ホーム画面をじっくり見ていたら、あることに気づいた、いや気づいてしまったのだ。
「あれ、ログアウトボタンがない…。どういうことだ?」
ログアウトボタンがなくなるというミスを運営がするはずない。多分何か違う形でログアウトできるだろう。
と俺は思っていた。その時は。
「皆さんこんにちは。」
ホーム画面に謎の人物がうつる。
「私の名前は、???このゲームの製作者だ。」
「このゲームの製作にはとても苦労した。世界観の作成から、役職の設定、デザイン、機能。長い時間をかけてやっと完成させた。」
何が言いたいのか分からない。
だが何故か悪寒がした。
「おめでとう。君たちは選ばれしプレイヤーだ。改めて歓迎しよう」
どっと歓声がわく。それもそのはず、みんなこのゲームが発売される日を待ち望んでいたのだから。
だが、彼の次の言葉で俺たち参加者は絶望することとなる。
「さて、気づいているものもいるだろうが、ログアウトボタンが消えているのは知っているかな?」
「結論から、あれはバグではない、他の方法でログアウトできるわけでもない。私が意図的に消した。」
大広場全体を壊してしまうほどの歓声が一瞬で静まり返る。
"えっ、それってどういうこと?!"
"ログアウトできないってことか?"
"それって私達どうなっちゃうの?"
そしてそこらじゅうから不安の声がする。
「私がこのゲームを作った意図は、絶望的状況下に置かれたとき人はどのような行動をするのか興味があったからだ。」
「私たち制作陣は、君たち一人一人のVRゴーグルをハッキングし、外部からの情報を遮断している。君たちは自由に現実世界に戻ることはできないのだ。」
「また、仮想世界で死ぬのと実際の死をリンクさせてある。人狼に殺されたら本当に死んでしまう。くれぐれも用心しておくように。」
「それでは頑張りたまえ。」
反応は様々なものだった。顔を青ざめ呆然と佇んでいるもの、逆に冷静になって解決法を考えるもの。
気持ちがこみ上げてきてわんわんと泣きわめくもの、暴れ出すもの。
システム:あと30秒でゲームを開始します。
後藤真人 彼だけは落ち着いていた。なぜならば彼は歴戦の猛者これぐらいのことで絶望していたら話にならない。
彼は思う。
ログアウトボタンは意図的に消した。そんな事が起こっていいとおもっているのか。
絶望的状況下のとき人は何をするのか何をするのか見たかった?冗談じゃない。ふざけるな。
このゲームはそんなことをするためのものではない。俺が保証する。
だからこそ勝たなければならない。このジンローというデスゲームに。
そして考えなければならない。なるべく多くの人が生き残る方法を。
猛者という称号を鼻にかけるだけではなく、人のために用いるそれこそが今必要なことである。
「時間になりました。それではゲームジンローを開始します。」
そしてついにジンローというデスゲームがはじまってしまった。