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死体を生き返らせるバイト

作者: FIRSTED ZOMBIE

「死体を生き返らせるバイト」


新卒で入社した会社は、労働時間は長く、残業は当たり前。

給料は少なく、ボーナスもない。いわゆる、ブラック企業だった。

優子(ゆうこ)の夢は、作曲家だ。

作曲始めるにあたって必要なものは、pcや、電子キーボードなどだ。

だが、両者とも、手に取りずらいほどに値段が高く、今の企業で働いていては、60歳まで働いても手に入るものでは無かった。

優子は「このままではいけない」と内心感じていた。

求人のサイトをスクロールしている指の動きは、段々と速くなっていった。

そして、一番下に一際目立つ文字で書いてある言葉が目に止まった。


「急いで稼ぎたい方募集、死体を生き返らせるバイト」


最初見た時は、嫌悪感を抱いた。

人間の死と関わる仕事はあまりいい印象がなかったからだ。

そのとき、優子は自分の将来の夢を思い出した。

...震える指で、その仕事の申し込みページへと移動を進めた。



優子はある施設の前で待ち合わせを約束された。

周りは、畑ばかりで、民家も少ない。ド田舎のような場所だ。

周りを見回していると、こちらへと続く道に、異様なオーラを放った黒い高級車が近づいてきているのがわかった。

その高級車は、私の前で停止すると、ドアが開き中から人が降りてきた。

40代ほどの普通のサラリーマンと言った顔だが、高級時計や、高そうなスーツから、普通のサラリーマンでは無いことがわかる。

男はこちらに歩み寄って「こんにちは、優子さん」と言った。

優子も挨拶を返すと、男は、施設の中へ案内してくれた。

施設の中は薄暗く、嗅いだことの無い異臭が漂っていた。

そんななか、奥へ進んでいくと、アクセントのように設置された白の綺麗な扉が目に入った。

「あの部屋は何ですか?」と質問すると、男は中を案内してくれた。

入ってみると、ガラスに、網を持った少年が固まっていた。

私は呆気に取られ、困惑していると男は、説明をした。


「この男の子は30年前に死んだんだ。それを受け入れられない親が、死体のままでも生き返らせて欲しいと頼んだんだ」


その少年を後に、先に進むと、今度はうずくまって泣いている女の子がいた。


「この子は20年前に餓死で死んでしまった。普段仲良くしている近所の人が大金をはたいて生き返らせたんだ」


他にも無数の子供、若者、ご老人などがいたが、どれもなんらかの動作をして固まっており、魂が抜けた入れ物だということが手に取るようにわかった。

私が驚いてぼけーっと口を開けていると、男は近寄ってきた。


「死体を生き返らせるということは、その人の思い出を一生かけて守るという意味なのです。だから皆さんから支援もされます。決して完全悪という仕事では無いのですよ」


男は少し笑いながら話した。

早速仕事をする様で、私たちは仕事場へと向かった。

いざ仕事部屋に入ると、嗅いだこともない異臭に強烈な吐き気がした。

俗に言う死体臭というやつだろう。

無数の死体がブルーシートの上に寝転ぶように並べられていて、頭には張り紙が貼ってある。

ここにある死体はどうやら、「保留」の状態のようだ。

金が支払われておらず、そのままの状態で保管されている。

だが、死体は、死んでから2日以内じゃないと仕事は受け付けないと決められている。

何故かというと、腐敗した肉体には、ハエが湧き、ウジが生まれる。

見るも無惨に蝕まれた死体は、見栄えが悪いから復活させないそうだ。

そして、その部屋の右に行ったところのドアは、強力な冷房がかけられている。

冷蔵庫のような場所だ。

ここの死体は、「認証済み」という状態で、もう復活するのが確定している死体だ。

さっきも言った通り、死体は腐敗すると仕事に出せないので、しっかりと冷房で冷やすことが大切なのだ。

基本的に、仕事はこの認証済みの部屋でやる。

最初にやることは、死体を清潔に洗う。

もちろん、身につけている服も洗濯して綺麗にする。

老人を介護しているような気分になったが、死体を扱っていると思うと、腹の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。

その次にやることは、針金を入れるという作業だ。

死んだ者は、立つことや、歩くことなどといった動作をとることが難しい。

なので、関節に針金を入れたりすることで、美術の人形のような形にするわけだ。

そして、最後にすることは、顔を固定することだ。

精一杯笑っている表情だったり、少し悲しんでいる表情だったり、色んな表情を作っていく。

ここは、依頼者からの要望もあるが、大抵はこちら側が作る。

そう聞かされた。

この作業は、死体1つ分だけでも、8時間ほどかかり、展示するとなると、2日程かかる。

それまでは、認証済みの部屋で体を冷やされる。


「あの、少しいいですか?」


「優子さん。どうしましたか?」


「この死体って1人何円ほどなんですかね」


「あぁ...これはだいたい...200万くらいかな」


「にっ!?」


私は驚いて猫のような悲鳴をあげた。

今までの仕事の比にならないほどの利益だったからだ。


「はは、驚きすぎだよ。今日のところはこれでおしまいだから、もう帰っていいよ」


時計は、午後4時を指していた。

私は感謝を伝えると、歩いて駅まで行き、上りの電車に乗って帰路へと着いた。

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