死体を生き返らせるバイト
「死体を生き返らせるバイト」
新卒で入社した会社は、労働時間は長く、残業は当たり前。
給料は少なく、ボーナスもない。いわゆる、ブラック企業だった。
優子の夢は、作曲家だ。
作曲始めるにあたって必要なものは、pcや、電子キーボードなどだ。
だが、両者とも、手に取りずらいほどに値段が高く、今の企業で働いていては、60歳まで働いても手に入るものでは無かった。
優子は「このままではいけない」と内心感じていた。
求人のサイトをスクロールしている指の動きは、段々と速くなっていった。
そして、一番下に一際目立つ文字で書いてある言葉が目に止まった。
「急いで稼ぎたい方募集、死体を生き返らせるバイト」
最初見た時は、嫌悪感を抱いた。
人間の死と関わる仕事はあまりいい印象がなかったからだ。
そのとき、優子は自分の将来の夢を思い出した。
...震える指で、その仕事の申し込みページへと移動を進めた。
*
優子はある施設の前で待ち合わせを約束された。
周りは、畑ばかりで、民家も少ない。ド田舎のような場所だ。
周りを見回していると、こちらへと続く道に、異様なオーラを放った黒い高級車が近づいてきているのがわかった。
その高級車は、私の前で停止すると、ドアが開き中から人が降りてきた。
40代ほどの普通のサラリーマンと言った顔だが、高級時計や、高そうなスーツから、普通のサラリーマンでは無いことがわかる。
男はこちらに歩み寄って「こんにちは、優子さん」と言った。
優子も挨拶を返すと、男は、施設の中へ案内してくれた。
施設の中は薄暗く、嗅いだことの無い異臭が漂っていた。
そんななか、奥へ進んでいくと、アクセントのように設置された白の綺麗な扉が目に入った。
「あの部屋は何ですか?」と質問すると、男は中を案内してくれた。
入ってみると、ガラスに、網を持った少年が固まっていた。
私は呆気に取られ、困惑していると男は、説明をした。
「この男の子は30年前に死んだんだ。それを受け入れられない親が、死体のままでも生き返らせて欲しいと頼んだんだ」
その少年を後に、先に進むと、今度はうずくまって泣いている女の子がいた。
「この子は20年前に餓死で死んでしまった。普段仲良くしている近所の人が大金をはたいて生き返らせたんだ」
他にも無数の子供、若者、ご老人などがいたが、どれもなんらかの動作をして固まっており、魂が抜けた入れ物だということが手に取るようにわかった。
私が驚いてぼけーっと口を開けていると、男は近寄ってきた。
「死体を生き返らせるということは、その人の思い出を一生かけて守るという意味なのです。だから皆さんから支援もされます。決して完全悪という仕事では無いのですよ」
男は少し笑いながら話した。
早速仕事をする様で、私たちは仕事場へと向かった。
いざ仕事部屋に入ると、嗅いだこともない異臭に強烈な吐き気がした。
俗に言う死体臭というやつだろう。
無数の死体がブルーシートの上に寝転ぶように並べられていて、頭には張り紙が貼ってある。
ここにある死体はどうやら、「保留」の状態のようだ。
金が支払われておらず、そのままの状態で保管されている。
だが、死体は、死んでから2日以内じゃないと仕事は受け付けないと決められている。
何故かというと、腐敗した肉体には、ハエが湧き、ウジが生まれる。
見るも無惨に蝕まれた死体は、見栄えが悪いから復活させないそうだ。
そして、その部屋の右に行ったところのドアは、強力な冷房がかけられている。
冷蔵庫のような場所だ。
ここの死体は、「認証済み」という状態で、もう復活するのが確定している死体だ。
さっきも言った通り、死体は腐敗すると仕事に出せないので、しっかりと冷房で冷やすことが大切なのだ。
基本的に、仕事はこの認証済みの部屋でやる。
最初にやることは、死体を清潔に洗う。
もちろん、身につけている服も洗濯して綺麗にする。
老人を介護しているような気分になったが、死体を扱っていると思うと、腹の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。
その次にやることは、針金を入れるという作業だ。
死んだ者は、立つことや、歩くことなどといった動作をとることが難しい。
なので、関節に針金を入れたりすることで、美術の人形のような形にするわけだ。
そして、最後にすることは、顔を固定することだ。
精一杯笑っている表情だったり、少し悲しんでいる表情だったり、色んな表情を作っていく。
ここは、依頼者からの要望もあるが、大抵はこちら側が作る。
そう聞かされた。
この作業は、死体1つ分だけでも、8時間ほどかかり、展示するとなると、2日程かかる。
それまでは、認証済みの部屋で体を冷やされる。
「あの、少しいいですか?」
「優子さん。どうしましたか?」
「この死体って1人何円ほどなんですかね」
「あぁ...これはだいたい...200万くらいかな」
「にっ!?」
私は驚いて猫のような悲鳴をあげた。
今までの仕事の比にならないほどの利益だったからだ。
「はは、驚きすぎだよ。今日のところはこれでおしまいだから、もう帰っていいよ」
時計は、午後4時を指していた。
私は感謝を伝えると、歩いて駅まで行き、上りの電車に乗って帰路へと着いた。