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ラグラジェント ストーリーズ  作者: 月野片里
絶望の中大
26/30

虎の威を借る

「食い逃げだー」

食事時で少しだけ賑わう、小さな村の通りを。

悲鳴と怒声が飛び交う中を。

「あぁ!? 待ちやがれ!!」

「誰かそいつを捕まえてくれ!」

「逃がすな! 追え!」

男は必死になって走り抜ける。

後ろから追いかけてくる別の男の声に食い逃げ犯は後ろが気になりつつも、前を走る村人より先に町の外に出た。

「待てぇい! このクソガキがっ!」

「げっ! もう追いついてきたのかよ!?」

だが、その先には新たな男が一人待ち構えていたのだ。

食い逃げ犯は息を切らしながら、前方に立ちはだかる虎を連れている男を見つけた。その男はたたずんでおり、どこか冷静な表情を浮かべていた。

「ガウ〜!」

「ひぃ!? お助けぇー!!」

食い逃げ犯はその顔を見て、さらに焦り出す。

その男の放つ威圧感も尋常ではないほど凄まじかったのである。

「くそ、フーガルか、俺もここまでか……」

食い逃げ犯は自分の運の悪さに嘆いた。

しかし次の瞬間には、食い逃げ犯は昏倒しその場に崩れ落ちる。

それは、虎を連れていた男が一瞬にして距離を詰め、首元に手刀を落としたからだ。

そして食い逃げ犯は意識を失い、倒れ込む前に虎を連れた男が抱きかかえた。

「さすがフーガルさんです」

「ふぅ……、大丈夫かい? 怪我は無い?」

虎を連れた男は、食い逃げ犯を抱えながら話しかける。

結局、食い逃げ犯はフーガルと呼ばれた男によって兵士の詰所に連れられ

ていった。

虎を連れた男はその後ろ姿を見送りつつ、安堵のため息をつく。

こうして一人、悪いヤツをつかまえてウンウンと1人頷き悦に浸ってると、後から虎がシバキ倒す。

「フーガル、あなたは一体何をしてるんですか……」

なんと、虎が流暢な人語を喋るではないか。

「かーちゃん、何で殴るんだよぉ〜」

しかも、虎がフーガルと呼ばれる男を叱っていた。

そう、この2人は虎と人間でありながら親子なのだ。

虎を連れた男の名はフーガルといい、年齢は10代半ばといったところだろうか。虎を連れているのは、虎は彼の育ての母親であり、彼のお目付け役でもあるからだ。

フーガルは生まれて間もない頃、両親と村落から街へ農作物を売りに行っていた際に巨獣の森で野盗に襲われてしまう。その時に両親は殺されてしまい、まだ赤ん坊だった彼だけが生き残った。

そんな時に偶然通りかかった森の主でもある金毛赤眼の虎サルマに助けられ、そのまま保護されたのである。

この、サルマと言う虎はゾディアックと対をなす存在といわれる十二聖天と呼ばれる神子を守護する12の聖獣の一体である。サルマがほかの聖獣と違うところは人語を喋ることだ、サルマはフーガルを保護した時はまだ幼獣であったが、他の聖獣と違い人の言葉を解し話せるだけでなく、知能も高い。

そのことから彼はサルマから文字や算術などを教えてもらい、また狩りの仕方なども教わったのであった。

「まったく……、あなたの行動はいつも危ないんですよ! もう少し慎重に行動しないと」

「ごめんなさい、かーちゃん。でも、今回は悪いヤツを捕まえたんだよ」

とフーガルは申し訳なさそうに答えた。

サルマは溜息をつきながら言った。

「それはわかっているけれど、危険な目に遭わないように気をつけなさい。私はあなたを失いたくないのだから」

フーガルは少し反省した表情で頷いた。「わかったよ、かーちゃん。もうちょっと慎重に行動するようにするよ」

二人は再び街の通りを歩き始めた。人々は彼らが通るたびに驚いた表情を浮かべながら、一礼したり声をかけたりする。

フーガルはこの町の人々にとっては英雄とも言える存在だった。彼は聖獣の一体であるサルマと共に、村を襲う盗賊や怪物たちから人々を守っていた。

彼らが通りを進むと、村の広場に大勢の人々が集まっているのが見えた。何か特別なイベントでもあるのだろうか。

フーガルは興味津々で広場に近づくと、そこには村の長老や村の子供たちが集まっていた。彼らは何かを楽しそうに話している。

フーガルとサルマは近づいて聞き耳を立てると、話題は村の祭りについての準備だとわかった。

「今年の祭りは特別に盛大にするそうですよ。村の守り神であるフーガルとサルマの活躍を祝うために、豪華な催し物や競技が行われるんですって!」

「ほんとうに!?それは楽しみだな。ぜひ参加したいなとフーガルは興奮しながら言った。

サルマも微笑んで言った。

「私たちも一緒に祭りに参加しましょう。村の人々と一緒に楽しむのはいい経験になるはずだ」

フーガルとサルマは祭りの準備を手伝いながら、村の人々と交流を深めていった。

祭り当日、村の広場は賑やかになった。色とりどりの飾りや屋台が並び、人も多く集まっていた。その中には、フーガルとサルマの姿もあった。

「すごい賑わいですね、フーガル。こんなにも多くの人が集まるなんて!」

「そうだね、かーちゃん。俺もびっくりだよ」

「おーい、フーガルの兄貴〜!!」

フーガルとサルマは声のする方を振り向くと、そこにいたのは村の若者達だった。フーガルよりも年上の若者たちだが、皆フーガルのことを慕っていた。

その若者たちは、どうやら祭りのあいだフーガルとつるんで騒いで遊びたいようだ。

すると、若者とフーガルとの間に割り込んでくる少年がいた。

「ちょっと待った!フーガルの兄貴と遊びたいのは分かるが、今日はノンビリと楽しんでもらおう。」

彼の名前は金兵斗といい、フーガルの弟分にあたる存在である。悪さをしてはフーガルやサルマに叱られ、兄弟のように育ってきた彼なりの気遣いであるが、周りには通じないようだ。

「なんだと? 金兵斗、てめぇは引っ込んでろ」

「お前こそ邪魔すんな」

金兵斗と若者達は睨み合い、険悪な雰囲気になりつつあった。

その時、サルマが割って入った。

「まぁ待ちなさい、二人とも。せっかくのお祭りなのに喧嘩は良くない。それにフーガルは私と回る予定があるのです。」

「かーちゃん、俺は大丈夫だよ。みんなで遊ぼう」

「でも、フーガル……」

「大丈夫だって、心配しないで」

フーガルが笑顔で答えると、サルマは安心したのかホッとした様子で笑っていた。

「わかりました。では、皆さん仲良く遊ぶように。」

「うん、ありがとう。かーちゃん」

フーガルは嬉しそうに答えた。

その後、フーガルとサルマは二人で祭りを見て回った。

「ねぇ、かーちゃん。次はどこに行こう?」

「そうですね……、あっ!あそこはどうかしら」

そう言ってサルマの視線の先にあったのは、大きいテントの出店だった。

「ここは何のお店だろう……?」

フーガルは不思議そうに近ずいて看板を見た。

そこには『見世物屋敷』と書かれていた。

中に入ると、そこには一人の胡散臭そうな男たちがが座っており、客が来るのを待っていた。

男は、フーガルとサルマを見てカモと思ったのかいやらしい笑みを浮かべ揉み手で話しかけてきた。

「ようこそ、見世物小屋へ。さあさあ、寄っとくれ。珍しい動物や芸をする妖精たちがいるよ〜」

男の声に反応したかのように、鳥籠のひとつが激しく揺れる。

男は敢えて鳥篭を無視をし檻からイノシシに似た獣を取り出すと、それをフーガルに見せつけた。

「こいつはイノシシに似ているが そんじょそこら居る獣と違いナイム僧国にしか居ない珍獣"オバタン"だ!」

「うわっ、気持ち悪い獣だな」

思わずフーガルは顔をしかめる。

そんなフーガルの反応に気を良くしたのか、さらに饒舌に語り始めた。

「このオバタンは、この額にある立派な1本の角と長い鼻が特徴で温厚な獣でね。普段は大人しいが、怒ると突進してくるぞ。」

「へぇー、そいつは面白いな。」

フーガルは興味津々といった表情を浮かべている。

「そして、こっちのトカゲみたいなヤツは砂漠に住むサラマンダーだ。」

フーガルが見世物屋敷で楽しんでいる頃、中大の関所では

「この通行証では入れない!?」

「はい、申し訳ありませんが、今忙しくて通せないですよ」

関所の役人は、通るものがまばらな関所を見渡し笑みを浮かべながら言った。

「しかし、私はパイノーグの教皇の署名入りの通行証を持っています。これなら入れるはずですが……」

「確かに署名は本物みたいだけど、ダメなものはダメですよ。今、この国は大変な時期なんです。だから、あなたを通すわけにはいかないんですよ。」

「そこをなんとかお願いします!」

「ダメなもんは、ダ・メ!」

「どうしてもと言うのであれば、それなりの対価を払って貰わないといけませんな」

「対価ですか? 一体何を払えばいいんですか?」

「ふむ、そうだな。例えば……」

そう言うと、彼は部下に合図を送った。

すると、二人の男が彼の元にやってきて、片方の男を指差して命令を下した。

「おい、コイツを連れて行け!」

「はい、承知しました」

もう一人の男は返事をして、連れて行こうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

エドは慌てた振りをして抵抗するが、無駄だった。

「うるさい!黙れ!」

役人は血に濡れた槍をエドに向けるが、力なく崩れ落ちる。

その様子を見て、もう一人の男は驚いていた。

「あれ? 死んじゃいましたかね。まぁいいや、早く運びましょう」

そう言いながら、本当はただ眠っている役人を抱え上げようとした時だった。

「おやおや、これはどういうことかな?」

声の主は、この関所の管理を任されている役人充苡蘊(チョン・イーユン)であった。

その顔には、笑みが浮かんでいたが目は笑っていなかった。

エドは、これ以上ややこしくしたくなかったが事の次第を話そうと口を開いた。

「実はですね、この国の商人の1人がパイノーグのレイノス教司教から売買を禁止されている妖精を買い取りまして、そのせいで我々はここに足止めされているのです。」

エドは必死に訴えかけるが、 その訴えは虚しく響いていた。

その言葉を聞いた充は、呆れたようにため息をつく。

そして、 エドに向かって冷たく言い放った。

「この国の役人に金を渡さない重罪、役人に危害を加える、死刑」

それは、とても残酷で救いのない現実を突きつける一言だった。

だが、エドは信じたくない一心で反論する。

「死刑って嘘でしょ!」

それでも、充は容赦なく事実を伝える。

それを聞いてもなお認めようとしない彼に、 もう用はないとばかりに充は告げた。

「お前は、ここで死ぬんだよ。」

と その言葉を耳にした瞬間、エドの顔は絶望に染まった。

(どうしてこんなことに……?)

そう思いながらも、最後の望みをかけて助けを求める。

しかし、誰も助けてくれないのかと思っていたら

「エド殿ではござらんか、教皇カイン様直筆の追加依頼書をお持ちしましましたぞ!」

後ろを見ると、アベルと護衛の騎士が中大の役人に詰め寄り追加の依頼書を見せていた。

「なんだと!? 貴様ら勝手に入ろうとしただけでなく、この関所を通ろうというのか!!」

中大の役人は怒り狂っていた。

「ああ、もちろんだ。私達は急ぎの要件があるのだ。通らせて頂こう」

「ふざけるな!! この関所を通ることは許さんぞ」

「ほう、ならばどうするというのかね?」

「決まっておるわ、力ずくでも押し通るまでよ!」

中大の役人は剣を抜き放つと、騎士達めがけて斬りかかった。

しかし、その攻撃はあっさり避けられてしまう。

「愚か者め、返り討ちにしてくれるわ!」

そう言って、騎士は剣を振り下ろす。

しかし、相手は腐っても中大の役人だ。すぐに体勢を立て直し反撃に出た。

「舐めるなよ、小僧ども!」

激しい攻防が続くなか、一人取り残されたエドは目の前の光景を唖然としながら見ていた。

すると、背後から肩を叩かれた。

振り返るとそこには、アベルの姿があった。

「さあ、行きましょう!」

そう言うと、彼は手を差し伸べた。

「えっ?あっ、はい」

戸惑いつつも差し出された手を握り返す。

「では、出発!」

こうして、エド達は中大の関所を後にした。

一方その頃、フーガルは見世物小屋で珍しい動物や芸をする妖精たちを楽しんでいた。

「うーん、どれも面白いなぁ〜」

フーガルは目を輝かせていた。

すると、突然 大きな音を立てて檻が揺れ始めた。

フーガルは不思議そうに見ていると、一匹の妖精が檻の中からフーガルを見つめていることに気付いた。

フーガルはその妖精に興味津々だった。

そして、フーガルは話しかけようとしたが、サルマに止められてしまった。

仕方なく、フーガルはおとなしくすることにした。

しばらくして、フーガルは飽きてきたので帰ろうとすると、一人の男が近づいてきた。

男はフーガルに話し掛けてくる。

その男の名は、仠无司(ハンウースー)といった。

彼は、パイノーグの商人であり、レイノス教司教から動物の売買の代理人としてこの国に来ていた。

「その、言葉を喋るトラを売ってくれないかい?嫌とは言わせないよ!」

充は威圧的な態度で言う。

しかし、フーガルはそれに臆することなく答える。

すると、仠は懐から笛を取り出し吹こうとする。

しかし、その前にフーガルは仠に噛み付いた。

その痛みに耐えきれず、仠は笛を落として倒れ込んだ。

「ワシに、こんな事してただで済むと思うなよ!」

仠は怒りに震えながら、フーガルを睨みつける。

すると、どこからか声が聞こえた。

それは、紛れもなく先程まで聞いていたあの虎の声だった。

しかし、その言葉の意味を理解することはできなかった。

ただ、本能的に恐怖を感じて逃げ出そうとしたその時だった。

いつの間にか、仠の後ろには二人の人影がいた。

その二人を見た瞬間、仠の顔は青ざめた。

そこにいたのは、エドとアベルだった。

エドは、仠に向かって告げる。

「妖精の不当な売買と所持をパイノーグの教皇の代理として捕縛に来た。」

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