予兆
夢を見ていた。
その夢は血生臭い夢だった。
夢の中の私は草原の中の小さい集落にいた。
私は、挨拶をしてくる女性に対してナイフで切りかかる。
女性が血を流しながら倒れる、周りから聞こえてくる悲鳴と絶叫が私の耳に入る。
そんな私を見ている男がいた。
男は手に持った剣で私に斬りかかってきた。
私が避けるとその先には別の男がいて、そいつもまた私に斬りかかった。
それからしばらく、何人もの男達が私に向かって襲い掛かってきた。
私は、襲いかかる者達を斬り殺す。時折足元に絡みつく小動物みたいなものを蹴飛ばし殺して、逃げようとする奴も殺した。
そうして、最後に残ったのは私を殺そうとした男だ。
そいつだけは特別だった。
他の連中と違って強かった。
何度殺しても蘇って立ち向かってくるのだ。
だが、それももう終わりだ。
私は男の首を斬った。
すると、今まで何度も見た光景と同じように、男の首から上が無くなって地面に転がった。
そこで目が覚めた。
体を起こして部屋を見回す。
誰もいない。当たり前だ。ここは私の私室なのだから。
私はベッドから出て服を着替えた。そして重い気分のまま執務室の扉を開ける。
誰も居ない執務室に入る、私は、デスクに座ると今日の予定を思す。
「教皇様、一大事です。中大のローレン自治区で、草原の王ローレン様が暗殺されました」
朝早く、まだ日も昇らない時間に執務室に入って来た枢機卿の一人の言葉を聞いて、私の意識は完全に覚醒した。
「それは本当なのか?」
「はい、昨夜遅くにローレン様、他100名以上の住民が殺された様です。目撃者も多数います」
報告に来た若い枢機卿の話を聞きながら、私は頭の中で状況を整理していた。
まず最初に思った事は、なぜこんな事が起こったのか?という疑問だ。
中大草原に住む遊牧民達は平和を愛する善良な人々だ。彼らは争い事を好まないし、そもそも戦い方が分からないはずだ。
では誰がやったのか? 考えられる可能性としては、魔人族だろう。
魔王復活の兆しがある今の状況で、彼らが何を考えて行動しているのかは不明だが、何かしらの目的があって草原の住民達を殺したと考えるべきだ。
しかしそうなると、次は何故そのような事態になったのかと言う疑問が出てくる。
もし仮に魔人族の目的が魔王の復活にあるとしたら、それこそ目立つような真似はしないはずだ。わざわざ住民を殺す必要はない。
だとしたら、これは計画的な犯行ではないのではないか? あるいは衝動的に起こした殺人でたまたま目についたから殺してみたとか……
どちらにせよ、放っておくわけにはいかない。
このまま放置すれば間違いなく、草原の民は動き出す。
その時真っ先に狙われるのはここだ。
魔人族と知られるようになったクリシュバナのいる、このパイノーグに違いない。
だからと言ってどうするか? 草原の民は強い。今の我々では泣けはしないが勝てないだろう。
ならば戦うのではなく交渉した方がいいのだろうか、私にとって決断を下すのは悩ましものだ。
そんな時、ふと思い出した。
まだ、私は今回の事件の詳しい内容を把握出来ていない事に気づいたからだ。
私は、報告に来た若い枢機卿に尋ねることにした。
草原の王は死んだ。
これで草原の民は混乱するだろう。
草原の民とは、あの広大な草原地帯を領土とする騎馬民族の事だ。
彼らの文化レベルは高くないが、戦闘能力は高い。その気になれば都市を落とす事も出来るほどだ。
もちろん、彼らも馬鹿じゃない。
自分達の住む土地が、いかに危険か理解している。だからこそ彼等は常に警戒心を持っている。
その証拠として、彼らは独自の技術体系を持っていた。
カインが色々とこれからどうするかと思案し決断を迫られる頃、枢機卿が詳細なあらましを調べてやって来た。
枢機卿が言うには、ローレンを襲ったのは全身が真っ黒なオルバ種らしい、そして被害にあったのは、住民が約200人とローレン王とゾディアックの1人トルノデスだったそうだ。
ちなみに、ローレン王が暗殺された件については伏せられている。民衆はまだ王の死亡を知らないようだ。
さすがに情報統制が完璧すぎると思ったのだが、おそらくは対オルバ種対策だろうと推測した。
これから中大は荒れていくだろう、我が国以上の悲劇が起きるのであろう。




