アリュカン
狆 鋒吼は、絶望していた。
もうすぐ自分の命が尽きる事を理解しているからだ。
そして彼は今にも死にそうな体で、自分の体に突き刺さった無数の剣を見る。
(ああ……俺は死ぬのか……)
その目は何処か遠くを見ているようだった。
自分が何と戦ったのか、黒い影の様な男は自分の攻撃を敢えて避けようともせず、真正面から受けた。
何故なのか? 狆 鋒吼には理解出来なかった。
あの時、自分は確実に仕留めたと確信していたのに……。
それが今はどうだ? 全身を剣で貫かれ、虫の息である自分に対して相手は何事も無かったかのように立っているではないか。
一体何者なんだ、自分は中大でも上位に入る剣士のはずだ、それをここまで一方的にやられるなんて有り得ない! そう思うと同時に、心の中に諦めが生まれた。
俺では勝てない……と。
そんな彼の前に一人の男が立つ。
それは、先程まで戦っていた黒い影の様な男であった。
男は静かに口を開く。
―――お前はよく戦った。
その言葉を聞いた瞬間、狆 鋒吼は笑みを浮かべる。
――フッ……ようやく現れたな。……待ってたぜ。
それを見た男は、手刀を狆 鋒吼の首元に当てると、そのまま一気に引いた。
首から血を吹き出しながら狆 鋒吼の目からは光が消えていく。
最後に彼はこう思った。
――満麿様....お力に...なれな..くて...す..
勇者二一番近いと言われた男、狆 鋒吼はこうしていきたえたのであった。
黒い影の様な男は、狆 鋒吼に対してゴミを見るかの様に興味をなくし、邪魔だとばかりに踏み砕き聖宮内に入ろうとする。
だが、その時。
「行かせると思う?」
背後から声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には目の前に現れた一人の男によって阻まれてしまった。
男は、金色に輝く髪を揺らしながら手に持った細身の長剣を振るう。
しかし黒い影の様な男はそれを片手で受け止めた。
「ほぅ、今のを止めるんだな」
「…………」
「まぁいいか、貴様の名前は?私はこの国の教皇ことカイン・オースティアだ」
黒い影の様な男の手を弾きながら、自己紹介をするカイン。すると黒い影の様な男は、小さく呟くように言う。
「我が名はアリュカン・ノフェス、ザルガネス様の影から生まれし戦士」
「ふむ、アリュカンと言うのか。それにしても不思議な名前だな」
「……」
「おっと失礼したね。それよりも早くそこを通してくれないかな?」
「断る」
アリュカンの言葉を聞いて、カインは溜息をつく。
「やれやれ、君もしつこいねぇ~」
「……」
無言のまま立ち塞がるアリュカンを見て、カインは再び大きなため息をついた。
そして、少しだけ目付きを変える。
「仕方がない、私自ら相手をしようじゃないか!」
カインはそう言って地面を思いっきり蹴った。
凄まじい速度で迫るカインに対し、アリュカンは無表情ながらも両手に魔力を込めて迎え撃つ。
二人の剣と拳がぶつかり合うと衝撃波が発生し、周りの壁や床を破壊していった。
それから数秒後、二人はお互いに距離を取る。
「驚いたよ、まさか私の攻撃を受け止めるとは……」
カインは額に汗を流しながら言った。
対してアリュカンは、やはり無表情のまま口を開く。
「そちらこそ、なかなか良い一撃だったぞ」
それを聞いたカインは、苦笑いを浮かべる。
「フッ……嬉しい事を言ってくれるじゃないかい。ならばもっと本気で行くとしよう!!」
そう言い放つと同時に再び地を蹴り、アリュカンへと迫った。
激しい攻防が繰り広げられている最中、一人の男がその様子を見ていた。その者は、銀色に輝く髪を持ち美しい顔立ちをしているものの、どこか冷たい印象を受ける。
「教皇カインか良い素材に成りそうだな」
そう呟いた彼は、ニヤリと笑みを浮かべるとその場を後にする。
こうして、それぞれの思惑が入り乱れた戦いが始まったのであった。
一方その頃、レイモンドは蠍の尾っぽを両手に持った手斧で辛うじて受け止めていた。
戦いの中、レイモンドは息を切らせながらも執念で蠍の攻撃に対抗していた。彼はその力強い手斧を振り回し、蠍の尾を一撃で切り落とすことを目指していた。しかし、蠍の巨大な体躯と鋭い毒針の攻撃に苦戦していた。
「くっ…まだなのか!」
レイモンドは自身の力を最大限に引き出すため、内なる闘志を燃やした。彼はラガスから教わった、剣士としての技術と筋力を駆使し、蠍との戦いに集中した。
その頃、レイモンドの戦いを見守っていた人々は、彼の勇敢な姿に感嘆の声を上げていた。レイモンドは彼らの期待に応えるべく、力強い一撃を放つたびに敵に迫りました。
しかし、蠍もまた容易には倒れなかった、蠍は両肩からハサミを苦し紛れにはやすと、レイモンドの攻撃を跳ね返す盾がわりに自身の守りに利用すると、その頑強さに対してレイモンドは驚きを隠せなかったが、それ以上に彼の心には使命感が湧き上がっていた。
「このままでは終われない…!」
レイモンドは自分の中に秘められた力を解放しようと試みた。心の奥底から湧き上がるようなエネルギーが全身を駆け巡り、彼の身体を淡く力強いオーラが纏われていく。
その瞬間、彼の手斧がオーラに耐えきれず砕け散る、蠍はレイモンドの隙をつき尾っぽの攻撃で吹き飛ばす。蠍はレイモンドが起き上がれぬ間にとどめを刺そうと突進を仕掛けるが、突如として飛来した何かによって阻まれてしまう。
それは狆 鋒吼がどさくさに紛れ持ち出した神器であった。神器は、レイモンドの傍らに落ちると淡い光を放ちながらレイモンドを浮かび上がらせる、そしてそのまま彼の手に。
神器を手に握ったレイモンドは、静かに着地すると軽く頭を振る、そして左手に握られている神器を確認する、神器はレイモンドのオーラに呼応するかのように諸刃の龍槍上に変化する。その力を感じながら自信に満ちた笑みを浮かべた。彼の周りには輝くオーラが踊り、蠍はその光景に圧倒されて一瞬たじろいだ。
「終わりだ、蠍!」
レイモンドの声が響き、彼は神器から受け取った力を解放した。一気にエネルギーが彼の体を駆け巡る、再び神器にエネルギーが溜まりレイモンドは弓を射る様に構える。
レイモンドが構えると1本の光の矢が生じる、レイモンドは蠍に狙いを定め光の矢を放つ
蠍は恐怖に満ちた表情で後ずさりし、レイモンドの攻撃を避けようとするが、そのスピードと威力に抗うことはできなかった。光の矢が空気を切り裂き、蠍の装甲を容易に貫いていく。血しぶきが舞い散り、蠍は倒れた。
息を切らせながら、レイモンドは蠍の倒れた姿を見つめた。彼は勝利を手にした喜びよりも、使命感が深く心に沁みていた。彼はこの戦いが終わるまで安心することはできなかった。
レイモンドは神器に感謝の意を込めてつぶやいた。その後、彼は急いで蠍が守っていた場所に向かい、大事な人々の安否を確認するために走り出した。
アリュカンとカインの激しい戦闘が続く中、聖宮内にいる人々の多くはこの事態を収拾しようと動き出していた。
まず、この場にいた教皇であるカインの元に向かったのは騎士団長のレヴァン・ファラーだった。彼女はカインの元へ駆けつけると、状況を確認しながら尋ねた。カインは彼女の姿を見て、少しだけ微笑む。
しかしすぐに真剣な表情になり、彼女にめせんを送り一声オルバ種を探せと伝える。
それを聞いたファラーはカインに一礼すると、部下たちを引き連れてオルバ種の捜索に出て行った。
カインは、彼女を見送った後アリュカンと再び対峙する。カインはアリュカンに語りかける。
アリュカンは、カインの言葉に耳を傾けようとはしなかった。
しかし、カインは諦めずに話し続けた。
アリュカンは、カインの言葉を聞き流しながら戦い続けた。
しかし、カインはアリュカンに言葉をかけ続けながら戦いを続けた。
アリュカンは、カインの話に聞き入りながらも戦い続けた。
カインは、アリュカンの心を開こうと必死に話しかけた。
アリュカンは、それでも無言を貫き通しながらもカインと向き合った。
カインは、アリュカンの心が少しでも開くようにと思いを語りかけた。
アリュカンには、カインの思いを汲み取ること無理である、アリュカンには良心というものが一欠片も存在しないのだから。
カインは、それでもと想いを胸に抱きつつ戦い続けた。
アリュカンには、カインの思いは理解できない、アリュカンには心が存在しないのだから。
二人の激しい攻防は続く、お互いが一歩も譲らず戦い続ける。
やがて、カインが徐々にではあるが押され始めていく。
そして、ついにその時が訪れる。
カインは膝をつくと荒く呼吸を繰り返した。
そんな彼に、アリュカンは無慈悲にも拳を振り下ろす。
しかし、間一髪のところでアリュカンの攻撃を受け止めたのはファラーだった。
「教皇様、ご無事ですか!!」
「ああ、助かったよ」
「ここは私に任せて早く避難を!」
「分かった!」
そう言うと、カインは立ち上がりその場を後にしようと向きをしていると、アリュカンは怒りに満ちた目でファラーを見つめた。彼はカインの逃亡を許すつもりはなかった。
「女よ、お前は邪魔をするのか!」
ファラーはアリュカンの視線に動じず、冷静な声で答えた。
「私は聖宮の騎士団長だ。教皇の命令に従い、聖域を守ることが私の使命だ。あなたを止めるのもその一環だ」
アリュカンは笑みを浮かべ、手に剣を持ち振り上げた。ファラーも身構え、剣を構える。
二人の間には緊迫した空気が立ち込める。アリュカンは凶暴な攻撃を繰り出し、ファラーは巧みな剣技でそれをかわす。
戦闘が激化する中、アリュカンはファラーに対して次第に圧倒的な力を見せつけていった。しかし、ファラーは屈しない意志で立ち向かい続けた。
その頃、カインは騒乱の中から聖宮の中へと逃げ出していた。彼は呼吸を乱しながらも、一刻も早く援軍を求めるために走り続けた。
聖宮内ではアリュカンとファラーの壮絶な戦いが続いていた。アリュカンの攻撃はますます激しさを増し、ファラーも疲れを感じ始めていた。
しかし、ファラーは決して諦めなかった。彼女は騎士団の誇りを胸に、最後の力を振り絞ってアリュカンに立ち向かった。
やがて、ファラーの身体に疲労が襲い、力尽きてしまった。アリュカンは勝利を確信し、最後の一撃を加えようとした。
しかし、その瞬間、レイモンドが駆けつけ、剣を交えた。彼はファラーを助けるために戦場に飛び込んできたのだ。
アリュカンは苛立ちの表情を浮かべながらも、レイモンドに立ち向かった。彼はますます凶暴さを増し、圧倒的な力でレイモンドを押し潰そうとする。
「負けるわけにはいかない……!」
レイモンドは覚悟を決めると、神器の力を解放した。神器は眩い光を放ち、レイモンドを包み込む。
神器から溢れるオーラはレイモンドの全身を纏い、彼の身体能力を飛躍的に上昇させた。
その力は凄まじいもので、レイモンドの攻撃に耐えきれずアリュカンは大きく吹き飛ばされてしまう。
アリュカンは起き上がると、レイモンドの姿を見つめた。
「貴様、何者だ?」
「俺は、ただの狩人だ」
レイモンドは答えると、アリュカンに向かって突進を仕掛けた。
レイモンドの攻撃は止まらない、彼はアリュカンの装甲を次々と貫いていく。
アリュカンは反撃を試みるが、レイモンドの動きを捉えることができない。
アリュカンは焦りを覚え始める。
(この男、強い!)
一方、カインは聖宮内の入口までたどり着くことができた。彼は息を切らせながら、外へ出る扉に手をかける。
しかし、扉は固く閉ざされていた。
「くっ、開かないか……」
カインは何度も扉を押すが、一向に開く気配はない。
すると、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。
カインは音に気づき、音のする方へ顔を向ける。
そこには、ファラーが戦っている姿があった。
彼女は、騎士団長としての最後の務めを果たすため、命をかけてレイモンドと共にアリュカンと戦っていた。カインはその姿を見ると、拳を強く握りしめ、決意を固めた。
「私がやらねば、誰がやるんだ!」
カインは声を上げると、自らの体に鞭を打ちながら、再び走り出した。
彼は、自分がこの戦いを終わらせるのだと心に誓った。
そして、彼は遂に中に入ることに成功した。ファラーとレイモンドアリュカンは激しい戦いを繰り広げている。
ファラーとレイモンドとの戦いにアリュカンは苦戦していた。
アリュカンはレイモンドの強さに脅威を覚えた。
一方のファラーはアリュカンの猛攻を受け続けるが、レイモンドのサポートのおかげで、決して怯むことなく攻撃を防ぎ続けていた。ファラーは、カインが聖宮の中に入ってきたことに気づくと、すぐに声をかけた。
カインは、二人の姿を見て安心感を抱いた。
そして、彼は自分の使命を果たそうと、神官の元へエントランスを抜けステージの方へ歩み寄っていく、カインは神官に近づいていくうちに、異様な雰囲気に気がついていく、神官たちの白目の部分が、黒く染まっていくのを。
カインは神官たちの殺気を感じ取り、すぐにその場を離れようとしたが、時すでに遅しだった。
黒い瞳をした神官たちは、一斉にカインの元へ向かってきた。
「まさか、お前たち、私を襲うつもりなのか!?」
カインは驚きの声を上げた。
しかし、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、神官たちはカインの行く手を阻もうとする。
「くそっ!」
カインは、仕方なく剣を抜き応戦しようとした。
だが、その時、アリュカンの遠距離攻撃がカインの右腕に命中した。
カインは痛みに悶え苦しんでいると、アリュカンは薄気味悪い笑を浮かべながら言った。
「ザルガネス様、御命令を完遂しました。」
アリュカンはそう言うと、ファラーとレイモンドの戦いに再び目を向けた。
ファラーはアリュカンの言葉を聞き、悔しそうな表情を浮かべた。
「教皇様、早く逃げてください!」
ファラーは必死になって、カインを庇う体勢にはいる。
アリュカンはその一瞬の好きを見逃さず、無音で転移し消えていくのだった。ファラーはアリュカンが消えたことに動揺した。
「奴め、一体どこに!!」
ファラーは周囲を見渡すが、アリュカンの姿は見当たらない。
一方、カインは傷を負いながらも、アリュカンの狙いを理解した。
「ファラーよ、私は大丈夫だそこの彼と聖女候補を守れ」




