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ラグラジェント ストーリーズ  作者: 月野片里
黒き魔人と勇者の目醒め
13/30

悪党退治1

「嗚呼、来るよ、ここに来るよ、覇龍の神子が。」

暗い室内に幾つも吊る下げられた鳥籠の檻が揺れる。

鳥籠の中で、小さな影が揺らめいた。

ゆらりゆらりと、影はゆっくりと伸び縮みしながら近づいてくる。

やがて、その輪郭がくっきりと浮かび上がり、一人の少女の姿が現れた。

少女は大きな瞳を輝かせながら、辺りを見回した。

そして、鳥籠の中で宙に浮かんだ。

長い黒髪が風もないのにはためく。

彼女は楽しそうに笑い声を上げた。

すると、鳥籠の中の影がざわめき始めた。

「覇龍の神子だけなの?賢狼は?他の神子はいるの?」

「いないわ。ここには覇龍の神子が一人だけよ。」

少女の言葉に応えるように、暗闇から声が聞こえてきた。

「まあ、いいわ。どうせすぐにわかるものね。」

窓から差し込む月明かりが雲にさえぎられ、部屋は闇に溶け込み静寂が支配した。


一方、アベルに率いられた部隊はモンティーヌの案内により安全な通路を選び着実にシデリウスの執務室へと向かっていた。

「あの角を曲がればもうすぐです!」

息を切らしながらもモンティーヌが指差す先に目的の扉が見えてきた。アベルとモンティーヌは扉を開けようと扉に近ずいた時だった、扉の一部が朱に染まったのは……。

一瞬の出来事で何が起きたのか理解できなかった。だが、目の前に広がる光景を見てようやく状況を理解することができた。

アベルの部下である兵士が胸から血を流して倒れていたのだ。その兵士の背後には漆黒のローブに身を包んだ男が立っていた。

男の手には赤く染まった短剣が握られていた。

男はアベルたちに気づくとニヤリと笑みを浮かべた。

アベルは咄嵯の判断で腰に差している剣を抜き放ち構えをとった。

だが、それは悪手であった。

男の背後から現れた数人の兵士たちによって退路を塞がれてしまったからだ、

「初めましてアベル殿、私はシデリウスといいます。ですが、私の安寧の為に死んで下さい。」

シデリウスは、ナイフの切先をアベルに向けると無造作に投げつけた。

投げられたナイフは一直線に進みアベルの首筋目掛けて飛んできた。

しかし、アベルはその動きを捉えており首を僅かに傾けることで避けた。

(よし!このまま一気に距離を詰めて斬りかかれば……)

勝利を確信するアベルだったが次の瞬間には驚愕することになる。

なんと、投げたはずのナイフが再び軌道を変えて襲いかかってきたのだ。

アベルは瞬時に危険を感じ取り身を捻ることで辛うじて避けることに成功した。

だが、それこそがシデリウスの狙いだった。

ナイフを避けたことで体勢が崩れたところを狙って魔法を放ったのだ。

アベルに向かって放たれたのは火球だ。それも一つではない、複数の火球が同時に襲い掛かってくる。

それを見たアベルはすぐさま魔力障壁を展開し防御を試みる。

火球がぶつかると同時に爆発が起こり衝撃が走る。

爆風が収まるとそこには無傷のアベルの姿があった。

その姿を見てシデリウスは苦虫を噛み潰したような表情になった。

何故ならアベルの魔力障壁を破ることが出来なかったからである。

本来であれば中級クラスの攻撃でも簡単に貫くことが出来たはずなのだ。それが出来なかったということは、アベルの実力が高いことを示している。

だからこそ、この場で確実に仕留める必要があると判断した。

再び火球を放つべく呪文を唱えようとしたその時、突然シデリウスの動きが止まった。

否、正確には止められたという方が正しいだろう。

なぜなら彼の首元に短刀が突きつけられていたからだ。

いつの間にかモンティーヌが接近しており、アベルの援護をしていたのだ。

そして、彼女の後ろではアベルも同じようにシデリウスに向けて剣を突きつけていた。

二人の視線が交差し、数秒の間沈黙が流れた。

最初に口を開いたのはアベルの方だった。

彼はゆっくりとした口調で話しかける。

一方のシデリウスは焦りの色を見せていた。

というのもアベルたちがここに来ることは想定外だったのだ。

本来であれば、アベルたちが来る前に暗殺者を送り込み始末させるつもりだったのだが、思いのほかアベルたちの行動が早く対応が遅れてしまったのである。

そして、この状況に歯噛みしていた。

アベルたちを退けても暗殺者が控えているため、こちらに勝ち目はないだろう。

つまり、シデリウスにとって絶体絶命の状況なのである。

シデリウスは何とか打開策は無いものかと考えを巡らせていたが何も浮かんでこなかった。

すると、アベルが静かに語りかけてきた。

その言葉を聞いたシデリウスは愕然とした。

まさか、そんなことがと思いつつも確認せずにはいられなかった。

そして、シデリウスが口にした内容とは……。

「神徒ザルガネス様が、私とクラリオール様を神徒にしてくださると言われたのです。」

シデリウスの言葉を聞いてアベルたちは呆気に取られていた。

彼が言った内容は到底信じられるようなものではなかったのだ。

だが、嘘を言っているようには見えず、シデリウスの顔は真剣そのものだったので信じるしかないと思った。

そこでアベルはあることを思いついた。

それは、シデリウスを此処で処刑しクラリオールにプレッシャーをかけようというものだ。そうすれば、彼女が動くかもしれないと考えたのである。

しかし、アベルの考えとは裏腹に事態は思わぬ方向へと進んでいった。

なんと、アベルの部下である兵士がシデリウスの前に出て庇うように立ち塞がったのだ。

それを見てアベルは戸惑っていた。

なぜ部下がシデリウスを守ろうとしているのか理解できなかったのだ。

だが、その理由はすぐに判明した。

兵士は懐から短剣を取り出すと自らの胸に深々と突き刺したのである。

その光景を目の当たりにしたアベルは驚愕のあまり固まっていた。

一方、シデリウスは目の前で起きている出来事が信じられず、ただ唖然として見ていることしか出来ずにいた。

兵士達は自らの命と引き換えにシデリウスを守るという決意を示したのだった。

その結果、シデリウスは命拾いをした。

もし、兵士たちが止めに入らなければシデリウスは間違いなく殺されていたことだろう。

だが、シデリウスは感謝などしなかった。

むしろ、邪魔をする兵士たちに対して怒りを覚えていた。

シデリウスはアベルたちに背を向けると急いで執務室へと戻り、扉を閉めた。

扉を開けたままにしておけば、すぐにアベルたちに侵入されてしまうだろう。

そうなってしまえば、自分の身が危ない。

(なんとか、この場をやり過ごさないと……)

そう考えたシデリウスは、机の引き出しから一冊の本を取り出そうとしたところで、動きが止まる。

(何故だ、身体が動かない、声も出ない、誰かghgっydxc....)

シデリウスが混乱している間にも、彼の全身から血が噴き出してきた。

やがて、彼の目や鼻、耳からも血液が流れ出てきた。

そして、最後に口から大量の血液が吐き出されたところで、シデリウスは息絶えた。

こうして、一人の男がこの世を去り、後に居るモンティーヌは突き刺さような冷たい目でシデリウスの死体を見下ろしていたが、涙がひとすじ流れると、

「お父さん、お母さん敵を取れたよ、私もそちらに行くね.....」

モンティーヌは、躊躇うことなく自分の胸にナイフを突き立てる。

「.....」

高い金属音と共にナイフが弾き飛ばされる。

どうやら、アベルがナイフを蹴り飛ばしたようだ。

アベルは、ナイフを拾おうとするモンティーヌの腕を掴むとそのまま引き寄せ抱きしめる。

そして、優しく語りかけた。

アベルの胸の中でモンティーヌは涙を流しながら何度も謝っていた。

両親を殺した犯人への復讐のためとはいえ、多くの人を殺めてしまったことに対する後悔の念が溢れ出したのである。

モンティーヌが落ち着くまでアベルは何も言わずに彼女の頭を撫で続けた。

しばらくして、落ち着いたのを確認したアベルは彼女を連れてその場を離れた。

二人が訪れたのは、シデリウスの遺体がある部屋だった。

アベルはまずシデリウスに祈りを捧げた後、遺体を火葬することにした。

そして、火魔法で遺体を燃やしていく。

その様子を見ていたモンティーヌは、アベルが何をしようとしているのか察したようで、何も聞かずに黙って見守っていた。

数分後、遺体は完全に燃え尽き灰となった。

アベルは手を合わせると、シデリウスの冥福を祈った。

そして、次の目的地へと向かうべく歩き始めた。

その後ろを、無言で付いていくモンティーヌの姿があった。

シデリウス邸を出たアベルたちは、屋敷の外を警備していた兵士の一人を捕まえると、街外れにある一軒家に向かうように指示を出した。

兵士はアベルの指示に従い、馬車を走らせる。

しばらくすると、目的の家にたどり着いたのか馬車が止まった。

兵士に礼を言うと、アベルは家の前のに集まってくる一団に近ずいて行った。

そこには、エドとミトが居てアベルを見つけると駆け寄ってきた。

アベルたちもエドたちの元へと歩いて行く。

そして、お互いの距離が数メートルといった所で歩みを止めた。

先に口を開いたのはエドだった。

彼は、アベルたちを見ると苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべている。

一方のアベルは、そんな彼を見ても特に反応せず平然とした様子で話しかけてきた。

アベルの話によると、シデリウスの殺害を指示したのは、自分でありモンティーヌは、ただ従っただけということらしい。

アベルたちは、モンティーヌの両親がシデリウスによって殺されたことを知っており、シデリウスに対して強い恨みを抱いていた。

そのため、シデリウスを殺害する機会を狙っていた。

だが、シデリウスには護衛が付いていたため中々手を出せなかった。

そこで、今回の襲撃を利用して暗殺を計画したのである。

アベルは、ある程度の人数が集まったところでクラリオールの捕縛する為の細々とした作戦を指示し、音を立てないように静かに民家に入っていく、パッと見は普通に見える外見とは裏腹に地下へと続く階段があり、そこを下っていくと牢屋のような場所に着いた。

その部屋の隅で膝を抱え座っている女性がいた。

その女性は、アベルたちが部屋に入ってきたことに気付くと顔を上げた。

その瞳からは生気が感じられず、まるで死人のようだった。

彼女は、アベルたちを視界に入れると僅かに眉を動かしたが、すぐに興味を失ったかのように視線を逸らすと俯いてしまった。

その姿を見たアベルは、一瞬哀れみの感情を抱いたがすぐに振り払うと、 彼女に近づき話し掛けた。

「どうして、牢屋にいるのですか?」

アベルの質問に対して女は、ぼそりと一言呟くだけだった。

しかし、アベルはその言葉を聞き逃さなかった。

それは、彼女が異教徒であることを示していたからだ。

アベルは、彼女の言葉から彼女がクラリオールが無理やり連れてきたのを確信を得た。

だが、同時に疑問も浮かんだ。

何故なら、彼女からは一切魔力を感じなかったからである。

アベルは、彼女に興味を抱き色々と聞き出そうと試みた。

だが、結局は無駄に終わった。

いくら話しても、会話が成立しないのだ。

その為、最終的には彼女を放置して立ち去ることにした。

アベルが去った後も、女の独房の前には見張りとして兵士が一人残された。

そして、アベルたちは牢屋を通り越して暗く長い地下通路から上階に繋がる階段の前に辿り着いた。

アベルは、ここで一旦足を止めると、全員の顔を見回した後、真剣な面持ちで口を開く。

これから行うことについての説明を行うつもりなのだ。

アベルが考えた計画とは、シデリウスの言っていた神徒ザルガネスの情報を、出来るだけクラリオールの屋敷で手に入れる事だった。

もし、ザルガネスの情報を手に入れた場合、それを持って急いで対策を練らなければならない。

ザルガネスがどのような手段を使ってくるのか不明のためだ。

そこで、まずはザルガネスに関する情報を集める事にしたのである。

集めた情報を元に、今後の行動を決める。

これが、アベルの立てた計画の全てであった。

アベルの話が終わると、一同は無言のまま考え込む。

そんな中、最初に口を開いたのはエドだった。

彼は、アベルの計画に賛同したようだ。

続いて、ミトも賛同の意を示した。

そして、最後に兵冒険者たちが賛成すると、全員が同意するように首を縦に振った。

こうして、アベルたちは、ザルガネスの信奉しているクラリオールの元へ向かうことになった。

アベルたちは、クラリオールの屋敷の1階へと、早速ザルガネスについての情報収集を開始した。

だが、得られたのはクラリオールが、ザルガネスの信者だという事だけであった。

また、クラリオールはザルガネスに関する重要な秘密を隠しているという事も分かった。

その話を聞いたアベルたちは、クラリオールにザルガネスの弱点を吐かせるために拷問を行おうと考えていた。

アベルが部屋を出て行こうとすると、ミトが声を掛けてきた。

どうやら、アベルが一人で部屋から出て行くことが心配らしい。

ミトの言葉を聞いたアベルは、苦笑しながら大丈夫だと答えると部屋を出た。

その後ろ姿をミトは不安そうな表情を浮かべながら見送った。

アベルは、廊下に出るとそのまま通路の奥の部屋へと行くのであった。

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