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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-23 閑話 正しいあざとさの使い方(←聞かなければよかったかもしれない……)

本編とは全く関係の無い、本当に本当の閑話です。

読み飛ばしてしまっても問題ありません(笑)。




 それにしてもこのカーバンクルは本当に賢いと言うか器用と言うか、魔物とは思えんな。今は小動物サイズだから料理を自力で取ってくることはできないが、子供用の高い椅子に座って、器用にカトラリーを使いこなして食事をしている。レイナ殿が首に巻いてあげていたナプキンが似合っているな。


 ただでさえ珍しいカーバンクルだ。そんなことをしていれば注目も浴びようというもの。少々意外なのは、男性客からも注目されているところか。妻や恋人、娘へのプレゼントにとでも考えているのだろうか?


 キュルン コテン


 ……いや、これは普通に自分で飼いたいと思ったという可能性もあるな、うむ。しかし独身でペットを飼い始めると、結婚が遠のくという話も聞く。難題だな。


「キュウ?」


「む? ワインを飲みたいのか? そういえば昨夜はレイナ殿が酒を禁じていたな」


 よし、そういうことなら俺がちょっといいワインを頼んでやろう――


「ダメ、〇点、落第。そういうあざとさの使い方は許しません」


 ――と思ったところで、レイナ殿がバッサリ切り捨て、カーバンクルが愕然とした表情で仰け反る。


 テシテシ ぶっすぅ~


 そうだな。いったい今の何がいけなかったのか、俺にも疑問だ。……ん? いつの間にかカーバンクルが何を言いたいのか、なんとなく分かるようになっている、だと!?


「いい? 可愛さだって一種の才能よ。だからそれを武器にすることは何の問題も無いわ。でもあざとさっていうのはちょっと違う。

本来の語意はさておき、ここで言うあざとさっていうのは要するに“意図的に”可愛さを振りまいて、相手から“一方的な譲歩”を引き出すテクニックね。つまり、全くフェアな取引じゃないの」


 な、なるほど。


「で、ある以上、使う側にも通すべきスジってものがあるわ。まず『あざとくて何が悪いの?』なんて開き直っちゃうのは三流ね」


 ギクッ!


「フェアじゃない取引っていう“悪い事”をするんだから、最低限罪悪感は持っていないと。

それから『あざとさってなんですか? 私は普通にしてるだけです……』みたいにカマトトぶるのもダメ。もはや論外。素知らぬ顔で相手を騙すんじゃあ、それはもう詐欺師と同じよ」


 ビクンッ!


 どうもさっきから肩が跳ねている女性が数名いるんだが、もしや……?


 いや、しかし本当に天然で、無意識にそうしているという可能性だってあるのでは? と、カーバンクルが目で訴えているような気がする。俺もちょっとそう思うのだが。


「フッ、何を言うかと思えば……。思春期を過ぎた女に、本当に天然モノの天然なんて……、いるわけないでしょ!(カッ)」


 ピシャーンッ! うんうん


 な、なんだ、雷が落ちた? いや、いつの間にか耳をそばだてて聴いていた周囲の客の内、男性陣が一様に衝撃を受けたからそんな風に感じただけか?


 一方で女性陣の多くが深々と頷いている。


 まさか、本当にそういうもの……、なのか?


「女社会っていうのは、とても複雑かつ繊細なバランスの上で成り立ってるの。マウントを取ったり取られたりしながら自分のポジションは確保しつつ、全体の関係が崩壊しないように気を配らなくちゃいけない。そんな場に身を置いていて、純粋無垢な天然でいられるわけがないでしょ」


 シェット、ティーニ、そんな実感のこもった溜息を吐くな。ほら、肉を食え、ワインを飲め。おっとボトルが空だった。もう一本これより良いのを頼むか。おーい、ウェイターさーん。


「で、天然っていうのは、そういう面倒から逃れる方法の一つ。要はキャラづくりね。

極極稀に元々本人がそういう性格で、かつ周囲もそれを許容して大事に育ててあげるような環境が揃う場合もあるけど……。それはもう純粋培養だから、やっぱり天然モノとは言い難いわね」


 うーむ。箱入りで過保護に育てられた天然お嬢様は俺も幾人か知っているが、彼女らは純粋培養という事なのか。なかなか奥が深い。


 ……いや、待てよ。それすらも装っているという可能性もあるということなのか? い、いかん。疑心暗鬼になりそうだ。


「ちょっと話が逸れたけど、重要なのは自分があざといことをしているのをちゃんと分っていると、相手に伝えることね。それとなく匂わせて悟らせるんでもいい。その上で具体的な要求や催促をしない」


 レイナ殿が組み合わせた両手の上にあごを乗せ、無邪気に可愛らしく、同時に微かな妖艶さも漂わせつつ微笑む。


「私はあざといことをしているけど、あなたは乗ってくれますか? ってね」


 …………な、なるほど。確かにそんな風に迫られては、あざといなと分かりつつも思わず――


「は、はい……(ポッ)」「乗っちゃう、かも……(ポッ)」


 おいぃ、二人とも! なんかおかしな感じになってるぞ、正気に戻れ~。


「ふふっ、ありがとうございます。ああ、付け加えて言うと、ここぞという時に使うだけにして、そう連発しないこと。やり過ぎは価値を下げるからね。一度使った相手には、成功しても失敗しても二度と使わないくらいでちょうどいい」


 次に会った時、何事もなかったかのようにケロッと普通の態度でいたら、妙に気になってしまうかもしれんな。つまり、一度しか使わないことが次への布石になるという訳か。


 レイナ殿……、おそろしい子だ。


 それから周囲の女性陣よ。いそいそとメモ書きするのは止めてくれないだろうか?


「さっきのキミは、本性をよく知らないコダンさんに使ってたでしょ? ただでさえ奢って貰ってるんだから、それ以上はダメだよ」


「キュゥ~」


「よろしい。ま、部屋に戻ったらテキーラでも出してあげるから」


「キュキュッ!(バンザーイ)」


 レイナ殿とカーバンクルのやり取りは可愛らしいし和むのだが……。


 はぁー……。英気を養うつもりがとんでもない話を聞いてしまった気分だ。


 まあ聞いてしまった以上は、聞く前の俺に戻ることは出来ん。取り敢えずこれからは、もっといろいろなことに警戒するとしよう。


 そう、いろいろなことに、な。









次から第七章になります。

怜那も王都入りして、再会まであと少し――のハズ。


面白い、続きが気になるなど思って頂けましたら、評価・いいね・ブックマークなどして下さると作者のモチベーションが上がります!


では引き続き、よろしくお願いします。

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