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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-22 閑話 問題は山積みだ




 俺はバンラント書房で護衛の任に着いているコダンだ。現在の(・・・)肩書はそういうことになっている。


 警戒はしていたが、まさかあれ程の戦力で襲撃されるとは想定外だった。


 さらには自爆をしてまで証拠隠滅を図るとは……。そこまで覚悟があるということなのか、或いはどこからか現場を見ていて自爆の魔法を起動させた者が居るのか。


 いずれにしても厄介な連中だ。しかも一度直接的な手段を使って来た以上、これから先はより過激にエスカレートしていく可能性が高い。本隊が無事王都に戻っていればいいのだが。


 もっとも王都が安全という訳でもない。合流した後は、安全な潜伏先(セーフハウス)を確保しなければならないな。


 ――いや、隊長ならば既にそれを考えているはずだ。であれば、潜伏先を探さなければ合流自体が出来ない。かと言って下手に合流を計れば、所在を敵に教える事にもなりかねない。まったく、痛し痒しだな。


「コダンさーん、考えることが多いのは分かるんですけど、そういうことは後回しにしても今は良いと思うんですー」


「そうですね。目下の最重要課題は、私たちが王都に辿り着くことです」


 焚火を挟んで向かいに座っているシェットとティーニに現実に引き戻された。


 そうなのだ。自爆で騎獣を失ってしまったのが痛い。普通は徒歩で移動するような距離では無いくらい、王都から離れた地点で襲われたからな。


「確かに、お前たちの言うとおりだな。だからほら、ちゃんと食える時に食っておけ。水だけではもたんぞ」


 ちょうどいい焼き加減になったイモムシの串焼き(プレーン味)を手に取って差し出すと、二人は揃って「うえぇー……」と嫌そうな顔をした。


 そ、そんな目で俺を見るな。仕方ないだろう? 俺たちには小動物を狩る技術は無いんだから。一応、挑戦はしてみたのだが、気配を察知されて逃げられるか、過剰攻撃で爆散するかのどちらかだったからな。


 だからほら、食え。味はさておき、栄養価は高いんだ。――と聞いたことがある。


「コダンさ゛ぁ~ん、王都行きの馬車に会ったら乗せてもらいましょうよぉ~。ズビッ」


「ああ、もう泣かないの。美味しい物好きは知ってるけど、今は任務中なんだから我慢しなさい。……とはいえ、ヒッチハイクには賛成ですね。試してみて下さい」


「(コレがそんなに嫌か?)……試すのは構わんが、停まってくれたとして乗せてくれるかどうか……」


 身分証はあるが現金の持ち合わせは無い。旅の準備などしていない風の武装した三人組。自分が馬車の側なら、乗せようとは思わないだろう。


 というか、ヒッチハイクなど物語の中の話だ。旅をするなら馬や騎獣、馬車は必須と言ってよく、それらを準備できなければ旅などそもそも考えないからな。


 更に言えば時期が悪い。基本的に王都へ向かうキャラバンが多いのは、社交シーズンが始まる前だ。稀に雪が降る時期でもある。擦れ違う馬車が居るかどうかさえ怪しい。


 ――と、思っていたのだが。


 結果的にヒッチハイクは成功した。そして想定していたよりもずっと早く王都に戻ることが出来た。


 親切にも馬車――の、はずだ。少なくとも乗った時点では馬車だった――に乗せてくれたレイナ殿は、我々の素性や事情を訝しんでも敢えて追求しようとはしなかった。それどころか、この状況を楽しんでいる風にも見えた。なかなか豪胆なお嬢さんだ。


 正直に言えば、色々と問い詰めたいのはこちらの方だ。


 そもそも年端も行かない少女が、しかも貴族のご令嬢と比べても見劣りしない少女が、一人旅をしていることが有り得ない。いや、魔物を適当に(!)あしらっていた魔法の技術から察するに、それだけの強さはあるのだろう。それもまた有り得ない話だが……。


 そしてあの謎の馬車。伸びたり縮んだり、入り口などどこにもないのに中に入れるだと? 移動スピードも速い上に揺れも少なく快適。挙句の果てに、実は馬車じゃなくてトランクだった? なんなんだそれは……。


 それに騎獣も。カーバンクルは基本的に自然豊かな高原に棲息していて、生まれ育った地を離れることは滅多にない。愛らしい姿だからペットに欲しがる者も多く、貴族が金と権力で捕獲部隊を送り連れ帰ったという話をたまに聞くが、大抵は懐くこと無く死ぬらしい。というかアレは本当にカーバンクルなのか? うーむ……。


 恩人には違いないが、本来の職務であれば追及せざるを得ないところだ。まったく、問題が積み上がっていくばかりだな。やれやれ。







 王都外周市に到着した俺たちは早速預金所で当面の資金を引き出し、レイナ殿へ謝礼を支払った。そして会話の流れで同じ宿に泊まることになった。ほんの一日余りの旅だったがシェットとティーニはすっかり打ち解けていたようだ。


 レイナ殿には食事もご馳走にもなったし、野営の時には寝具まで貸してくれたのだから、もう少しお礼をしたいところだったから、宿代をこちら持ちにしてちょうどいいくらいだろう。まあ、二人はもう少し警戒心を持った方がいいとも思うが。


 日も暮れたし、あまり焦っても仕方がない。今日くらいは英気を養うとしよう。


 風呂で汗を流してから夕食にしようということになり、俺たちは一旦分かれた。


「コダンさん……」「お待たせ、しました……」


「ああ、ずいぶんゆっくりしてた……な?」


 な、なんだ? シェットとティーニが妙に上気して、息が上がっているが? それにいつもより髪や耳と尻尾の毛並みがツヤツヤでフサフサだな。よく見ると、足元に居るカーバンクルもフッカフカだな!


 レイナ殿はあまり変わらないか。出会って時から旅をしているとは思えないほど清潔感があったからな。いや、なんか頬の辺りが妙にツヤツヤしているような?


 …………


 何があったのかは、うむ、聞かないでおこう。なんとなくその方がいい気がする。察しが悪いとかデリカシーが足りないとか言われることもある俺だが、この判断は間違っていない――はずだ。


「それじゃあ夕食にするか。テーブルは確保して貰ってるから、すぐに入れるぞ」


 この宿には予約が必要なコース料理を出す高級レストランと、ビュッフェ形式のくだけた雰囲気のレストランがあり、俺たちが向かったのは後者だ。予約も取っていないし、気楽に沢山食べたい気分だったからちょうど良かった。


 めいめい好きな料理を取ってテーブルに付き、乾杯をして食事を始める。今日に限っては酒も解禁だ。多少酔ってもこの宿はセキュリティも万全だからな。









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