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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-20 異世界ブラック事情




 焚火を囲んで話をしながら夜は徐々に更けてゆく。私からは旅をしている事情カバーストーリーとか立ち寄った場所とかを話し、三人からは主に王都の情報を聞いた。


 このスピードで移動すれば、王都には明日の夕方には到着するらしい。王都には国の運営する銀行のような組織があり、外周市の支部に行けばお金を引き出すことができるから、そこでお礼を支払うとコダンさんは約束してくれた。つまり同行するのはそこまでってことね。


 ぶっちゃけ今の私は結構なお金持ちだから、お礼はいらないんだけどね。でもコダンさんにしてみれば、商会として貸し借りが無いようにきちっとしておきたいんだと思う。


 あ、そうだ王都と言えば――


「最近、何か王都で噂になってることはありませんか?」


「……噂、というと?」


 ん? なんか三人に微妙に緊張が走った……かも?


「例えばさっき食べたフライドポテトに凄く驚いてましたよね。そんな感じの今までに無いタイプの料理が流行り出した、みたいな話ですけど。知りませんか?」


「あー……、そうか、食べ物な。いや、特に聞いたことはないな。と言っても、バンラント書房のある東地区ではって話だが。王都はとにかく広いからな」


「フライドポテト、美味しかったですね~。サクサクでホクホクでシンプルな塩味なのに、手が止まりませんでした……。じゅるり」


 シェットさーん、トリップしてますよー。帰ってきてくださーい。


「ハッ、すみません、つい。……ええと私、美味しいものが大好きなのでそういう情報は結構仕入れてるんですよ。最近は南西から西地区の方の屋台がアツいみたいです」


「屋台が熱い? なんだそりゃ? 火を使ってりゃ普通に熱いだろう」


「コダンさん……(ジトーッ)。流行の中心とか、激戦区とか、そういう意味です」


「あ、ああ、そういう。だがまあ、西地区はもともとお隣から入って来た食材やら料理人やらで賑わってただろう?」


「ええ、そうなんですけど、今回はちょっと話が違ってて、これまで王都の食文化は主に富裕層を中心に流行が決まってたんですけど、今回は庶民層から広まっていったんです。そこが大きな違いなんです!」


 おおっ、熱弁ですねシェットさん。そう言えば夕食の時も食レポ的な感想を言いつつ食べてたっけ。


「休暇があれば直接調査に行けるんですけど……(ジトーッ)」


「私もプライベート用に冬物のコートを新調したいと、だいぶ(・・・)前から思ってるのですが……(ジトーッ)」


「い……今は無理だ。襲撃の件もある。諸々の問題が片付くまで休暇はお預けだな。お前たちだってそのくらい分かってるだろう」


「分かってはいますけどー」「いつまでなのかを具体的に示して欲しいです」


「うーむ、それは俺にもなんとも……。だいたいお前たち、商会の食事だって普通に美味いし、コートだってこの間着てたので十分だろうに」


 あっ、コダンさん。その言葉はNGです。


 ほらぁ~。二人の目が三角になって、ギラリと物騒に光ってるじゃない。あ、私は関知しませんよ。なんせほら、ドライな関係の傍観者ですから。


「はあっ! 何を言っているんです、流行に乗り遅れちゃうじゃないですか! モタモタしてたら幻の屋台がどっかに行っちゃうかもしれないんですよ! そもそもコダンさんは食に無頓着すぎです。人生損してますよ!」


「護衛と言う殺伐とした仕事をしていても、プライベートでは可愛いお洋服を着たい……、いえ、着るべきなんです。仮に今年のトレンドが気に入らなくて買う物が無かったとしても、ショッピングに行ってそういう空気に触れることが重要なんです。というか、コダンさんは私服選びが雑過ぎます。人生損してますね」


 ――どうやらコダンさんは人生を損しまくっているらしい(笑)。


 まったく、休みが無くて趣味の時間が取れないって不満を言ってるのに、デリカシーの無いことを言うから……。


 仕事の上司としては尊敬できるし人間的にも好感が持てても、彼氏には向かないタイプなのかな。悪気は無さそうだし性格も悪くはないんだろうけど、ちょっと残念って感じね。ま、秀みたいなスパダリがそうそう居るはずがない。


 ちなみに結婚相手パートナーとしてならまた話が変わるから、コダンさんがモテないとは言っていないよ。その辺、女性の評価基準はシビアだからね。


「いやー、護衛っていうのも、なかなかブラックなお仕事みたいですね」


「ブラック?」


「ああ、私の故郷のスラングで、福利厚生がしっかりしていて報酬も正当で、気持ちよく働ける環境が整った職場をホワイト。逆に労働者を安い賃金で酷使して、かといって簡単に辞められないように精神的に追い詰めて囲い込むような職場をブラックって言うんですよ」


 本当は“企業”が付くんだけどね。どうもこっちには企業に相当する言葉がまだないみたい。


 あれ? シェットさんとティーニさんの瞳のハイライトが徐々に消えて……


「ブラックな職場……」「ブラック書房……」


「待て! ブラック書房じゃない、バンラント書房だ! それにブラックじゃあないだろう? 確かにホワイトとは言い難いかもしれんが、ブラックとまでとは言えない。せいぜいグレー止まりだ。休みが少ない時期は確かにあるが、報酬は十分以上に貰ってるだろう」


「お金を使う暇がない……」「貯蓄だけが増えていく……」


「あー、もういいから、今日は休め。最初の見張りは俺がする。……レイナ殿、あんまり変な言葉を吹き込まないで頂きたいのだが?」


 いやー、それは申し訳ない。


 でも環境に問題が無かったら、二人がこんな風にはなってないと思うよ?







 夜明けとともにブラック――もとい、バンラント書房さん御一行を乗せ、再び王都へ向けて出発!


 ――到着しました!


 え? 早すぎる? そうは言っても特に描写するような事件は無かったからねぇ。


 幸いなことに王都までの道中で、賊に襲撃されるようなことはなかった。コダンさんたちの警戒は杞憂だったね。なお、ちょっかいを掛けて来そうな魔物に関しては、速度を上げてぶっちぎるか、魔法で適当にあしらった。


 なんていうかね、王都の壁――っていうか外周市ね――が近くなってきたらテンションが上がったっていうか、もうとっととゴールしてしまおうって思っちゃったんだよね。


 そんなこんなで予定よりも若干早めに王都外周市に入った。そのお陰で銀行もギリ開いてたから、お礼の清算も今日中に済んだのは良かったね。ちなみに値段交渉はしていません。言い値で即決。


 外周市を出て王都中心部に向かうには時間が遅いから今日はここで一泊することになり、折角だからと一緒の宿に泊まることになった。


 ドライな関係のヒッチハイクとはズレてきてる気もするけど……、まあいいか、もうちょっとくらいなら。


 ――なんかフラグを立てた? いや、気のせいか。うん、気のせい。








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