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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-19 どんな時でも美味しいは正義




「えーっと、食料に余裕はあるんで、良ければ提供しますか?」


「むっ! あ……、有難い申し出だが、こうして乗せてもらってる上に食事までは――」


「……コダンさぁ~ん」


「……ここは恥を忍んで頼るべきかと」


 ティーニさんとシェットさんにうるうると目を潤ませてコダンさんに訴える。な、なんかすごく必死だね、特にシェットさん。そんなに虫が嫌だったんだ。


 まあ生理的に受け付けない類のものって誰にでもあるから仕方ないけど、護衛としてはちょっとメンタルが心配かも? ああ、戦闘なら大丈夫なんだ。むしろ嫌いだから攻撃力が増して、ちょー強くなる? ――それはそれで大丈夫なの?


「分かったから! だから縋りつくのは止めろ。なんだか俺が凄く悪い男みたいじゃないか、まったく。レイナ殿、申し訳ないがよろしく頼む」


 コダンさんが膝に手をついて頭を下げ、シェットさんとティーニさんもそれに続くようにペコリと頭を下げる。


 ――礼儀正しい人たちなんだよね。


 というか普通に話してる時は気さくなんだけど、ところどころに堅苦しさというか規律正しさが顔を覗かせる。ミクワィア商会の船長さんやワガリー商会の副長さんにはあった、良い意味での粗雑さが無い。


 商会の護衛と言うよりも、むしろ規律の厳しい組織でちゃんと訓練された――いや、これ以上考えるのは止めておこう。


 なぜって、コレはヒッチハイクだから!


 そう、私たちは旅の途中でたまたま方向が一緒なだけ。「よう、王都に行くのかい? いいぜ、乗ってきな!」「サンキュー、助かる!」みたいな、ドライな関係であるべきなのだよ。


 こう……なんていうのかな。消息を絶った大切な人を探して旅に出て、親切な人が拾ってくれて馬車に乗せてくれて、別れる時には連絡先とかを交換して、目的を達成した後に手紙を出したり訪ねたりする――みたいな、人情味のある話も悪くないと思うよ? 感動するしね。


 でも私のイメージするヒッチハイクとは違うんだよ。


 分かんない? チッチッチ。分かる分からないじゃない、こういうのは雰囲気なんだよ。ニュアンスなんだよ。


 想像するんだ! 暑く乾いた(ドライな)空気と、舞う砂ぼこりと、排気ガスと、まっすぐに伸びるハイウェイを!


 ――まあ、今は冬だし、この辺には草木もたくさん生えてるけどね(笑)。







「いや美味かった! レイナ殿は料理も上手いんだな!」


「本当に美味しかったです。ありがとうございました」


「うう~っ! お、おいじがったでずぅ~。やっ、やっぱり、お食事はぁ~、ヒック、美味しく、楽しく頂きたいでずぅ~……」


「ど、どういたしまして……」


 シェットさん、号泣ですね(笑)。


 ちなみに夕食に出したのは特別な――っていうか、カレー粉とか醤油とか日本から持ち込んだ物は使ってない、こっちの世界でも再現できるごく普通の料理ね。


 お肉をリクエストだったから牛肉――正確にはバッファローっぽい魔物の肉――の厚切りステーキサンドに野菜スープ、これだけだと足りなそうだから大皿に山盛りフライドポテトを足した。


 いや、それはもう“ポテトは飲み物”な勢いで減っていったよ(笑)。評判が良いからストックを増やしておこうかな。


 お酒も勧めてみたけど、仮にも任務中だからとキッパリ遠慮された。やっぱりお堅い――おっと、また詮索するところだった。


 そういう訳で今日は私も付き合ってお酒は控えておきます。そもそも毎日呑んでる訳じゃあ無いからね。むしろ最近は造る方の試行錯誤が楽しい。


 だから今日はキミもお酒は無し。――そうガッカリしないの。ゲストが素面なのにキミだけ呑んでもあんまり楽しくないでしょ? その代わり、頑張ってくれたご褒美にフルーツは多めにあげるから。え? だったらメロンが欲しい? 調子に乗ってるなぁ~(笑)。ま、いいか、今日は特別ね。


 メロンを一玉取り出して四等分にして、二つをカーバンクルに、もう二つはさらに半分にして私と三人で分ける。


「キュゥキュゥ~~~~!!」


 あはは、すごい勢い。あーあー、そんな顔を突っ込むようにしちゃ、ベタベタになっちゃうよ。あとでちゃんと綺麗に拭いておくように。


 では私も自分の分をムシャリと。うん、やっぱりこのメロンは最強だね。


「ん? 食べないんですか、美味しいですよ?」


「いや……、しかし、こんな高級品……」


 あ、そう言えばミクワィア夫人も固まってたっけ。ちょっと失敗。


「まあ旅の途中でたまたま自生してたものを見つけただけなんで。元はタダですから、どうぞ遠慮なく。……ああ、お礼を気にしてるならこれはノーカンで。サービスサービス」


 三人はしばらく互いに目配せをしてどうするか迷ってたけど、シェットさんが最初に欲望に負けたみたい。


「そ、それじゃあ、遠慮なく……」


 カプッ


「ん~~~~~~~~~~っ!!」


 おー、エミリーちゃんみたいな反応だね。でも流石は犬型獣人さん、脚をパタパタさせるだけじゃなくて尻尾もブンブン揺れている。うん、かわいい。


 そして続いて一口食べたティーニさんはというと、目を閉じてうっとりしてる。あ、耳がちょっとピコピコしてるかな。うん、こっちもかわいい。


 私は別に久利栖みたいなケモ耳&尻尾大好き人間じゃないけど、可愛いものは可愛いよね。どこぞのカフェのウェイトレスみたいな偽物カチューシャはピンとこないけど、本物はとてもイイと思う。新たな発見だね。








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