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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-12 閑話 女子部屋が出来たので、恋バナをしてみる




 鈴音さんは大きく目を見開き絶句しました。そして徐々に頬が紅潮して、両手で顔を覆って伏せてしまいました。


 鈴音さんには珍しい反応でちょっと――いえ、かなり驚きました。怜那にも見せてあげたい気もしますけれど……、写真に撮るのは止めておきます。後が怖いので。


「鈴音さん?」


「そっかぁ~、知ってたのか。いや、そりゃあ知ってるよね。真行寺と御子紫の関係を考えれば、知らないわけはないよねぇ……」


 表面上は冷静さを取り戻した鈴音さんが顔を上げます。ふふっ、まだ耳が赤いですよ?


「そう、私と秀は婚約者同士なの。正式な発表は一八歳になってからってことになってたけど、もう決定してたわ。内定じゃなくね。……もしかして舞依にも秀との婚約話があったとか?」


「いいえ。私には無かったと聞いています」


 真行寺家は今のご当主様――秀くんのお祖父じい様です――の代で急速に影響力が拡大し、これから先数代は権勢を誇ることになるだろうと言われています。その後継者にと指名されていた秀くんと、御子紫家の娘(わたし)が繋がりを持つのは、政界財界のパワーバランスを大きく崩しかねません。


 しばらくの間は良好な関係は保ちつつ、ある程度距離を置いておくのがベターであると、お父様やお祖父様は考えていました。そしてそれは真行寺家側も同様だったようです。


「なるほどね。……じゃあ私は運が良かったってことね」


 鈴音さんがちょっと照れ臭そうに微笑みます。


「ええ、家同士が決めた婚約者ではあるけど、私は秀の事が好きよ。秀の気持ちを確かめたことはないけど……、少なくとも好意は持ってくれてる……ハズ」


 そこは自信を持って断言しても良いと思いますけれど(笑)。


「だからまあ、その、こんなことになって婚約も何も無くなっちゃったけど、将来的にはそういう風になれたらいいなー、とは思ってる」


「分かりました、ありがとうございます。……それなら部屋とかは――」


「だから将来的には、だってば! まだその、ちゃんと確かめた訳でもないし? 私の心の準備もあるし? 将来設計も出来て無いし? それから……、それから……」


 焦って妙なことまで口走っていますね。こういう鈴音さんは珍しくて、思わずクスリと笑ってしまいます。


「あ、も~……、からかったのね? それじゃあ私も聞くけど、舞依の方はどうなのよ?」


「私、ですか?」


「実は結構心配してたのよ。怜那と離れ離れになってこの世界に降りるって分かった時、舞依は精神的に不安定になるんじゃないかな……って」


「それは……」


 その点については自分のことながら私も不安だったので、そう思われてしまうのも仕方ないと思います。


「蓋を開けてみたら割と大丈夫そうだったから、安心したんだけど」


「忙しさで気が紛れていたというのもあるでしょうね。それに私の方は一人ではありませんでしたから」


「そうね。……あ、でも夜寝る前とか、スマホの写真を見てるでしょ? 気付いてるわよぉ~」


「……っ!?」


 上手く隠しているつもりだったのに! 先程の逆襲をされてしまいました。


「あはは、別にそれで前向きになれるんならいいんじゃない? 写真を見て泣いてるわけじゃないんでしょ?」


「それは……、まあ……」


 会いたくてたまらないのは本当の気持ちですけれど、写真を見て切なくなることはありませんね。今日一日にあったことを思い出しながら、再会した時に何を話そうか考えています。


 そうすると不思議と元気が湧いてくるのです。怜那の事だから、異世界に来てからも様々なことを吸収して成長しているはずです。私も頑張らないとという気持ちになるのです。


 想像ですけれど、会社勤めの方がデスクに家族の写真を飾っているのと同じような感覚なのではないでしょうか。


「……でも、そんな風になるかもしれないって思ってたの。で、振り返っていろいろ思い返してみたら、そういえば中学までと高校に入ってからじゃあ、印象が変わったなって気付いたのよ」


「そんなに違うでしょうか?」


「うーん、微妙な違いね。相変わらず年がら年中一緒に居るし、隙あらばベタベタしてるし」


 心外ですね。その表現ではまるで、私と怜那が交際を始めたばかりの恋人同士のように聞こえてしまいます。


「鈴音さん、私たちは別にベタベタなん――」


「し・て・る・で・しょ! まったくもう、これだから無自覚は……」


 被せ気味に否定されて、その上呆れられてしまいました。


 ……ベタベタ、ですか? 手を繋いだり、寄り添って本を読んだり、お弁当のおかずを交換したりは日常的にしていましたけれど……、その程度です。普通ですよね。


 首を傾げる私に、鈴音さんが諦めたように溜息を吐きます。


「まあ、いいわ。そういう表面的な部分は変わらないけど、高校に入ってからの方が取っつきやすくなったわね。二人の間に入っていけない空気が減ったっていうか」


「それほど排他的だったとは思わないのですが……」


「そうね。でも中学までのあなたたちって、極論すれば世界に二人だけでもいいってそんな風に思ってなかった? 両手をギュッと強く繋ぎ合って、この手を離すくらいなら二人で死ぬ方を選ぶ……みたいな?」


 ドクン!


 表情には出なかったと思いますけれど、心臓が大きく跳ねました。


「ずっとそうだったから全く変に思わなかったけど、今になって考えてみると、ちょっと危うい関係だったわよね。それはそれで尊いとも思うけど。今はそういう良くない感じの必死さは消えて、でも逆に熱量は上がってるみたいだから、何かあったのかなって」








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