#06-10 竜を酔わす花
それじゃあ本命の調査に取り掛かろう。もちろんアロエの事ね。
見たところ実が生ってる株は見当たらないから、花を食べてたってことだよね。蜜が美味しい、とか?
とりあえず湖に筏を浮かべて、沢山の花が咲いてるアロエに寄せてと。
肉厚でトゲトゲのある特徴的な葉が、こんもりと球状に幾重にも重なり合ってる。遠くからだとサボテンにしか見えない。
――あれ? でもアロエってもっと縦に伸びてたはずだよね。こんな風に球にはならない。それに葉のトゲトゲもなんだか鋭いし、やっぱりサボテンかな?
花は一つ一つが大きさ的にも形的にもチューリップに似てる。ちょっと細長いくらい。それが茎を中心に斜め上を向いて沢山咲いている。ラベンダーの花みたいな感じかな。スケール感はまるで違うけど(笑)。
スゥー……
「うーん、いい香……り……? あれ? なんかちょっと、酒臭い?」
爽やかな中にほんのり甘さの混じる花の匂いに、少しアルコールの刺激臭が混じってるような気がする。
え? なんで?
慎重に花を一つもいでっと。あ~、花弁のカップの底に透明な液体が少し溜まってるね。匂いは――やっぱりちょっとアルコールっぽい。
例えば朝露とかが花の中に溜まって、花の蜜と混じって自然に発酵してお酒になる、とか? いや、考えてみればここはファンタジーな世界なんだし、そもそも花の蜜がお酒っていう植物があっても不思議じゃあない。――かも?
クイクイッ ヘイヘーイ カモーン
ん? ああ、キミも見たいの? 分かったから、そう催促しないの。一個の花に溜まってる蜜(?)は少しだから、コップにでも一旦集めるからさ。――綺麗な布で簡単にろ過もしておこうかな。
作業中…… 作業中……
取り敢えずコップ一杯分集めてみました。
色はほぼ無色透明。微かにオレンジ色っぽい気もするけど、ほぼ無色と言っていいレベルでしょう。ちょっととろみがあってガムシロップに似てる。
で、やっぱりアルコール臭がする。でも全然嫌な匂いじゃあない。
コップに集めたことで甘い香りが顕著になって、それにハーブ系の爽やかな匂いとアルコールがアクセントで混じる感じ。嗅いでるとぽわんと心地良くなってくるような――
んん? もしかしてヤバイ系のブツじゃないよね!?
可食判別の魔法は――白! ふぅ~、大丈夫みたいだね。一安心。
では盃くらいの小皿を用意して、スプーンでそれぞれに一杯ずつ。一つはカーバンクルに渡してと。
「じゃあ、味見をしてみよっか」「キュ(へへ~)」
小皿の蜜を口に含み、舌の上で転がすようにして味を確かめる。
甘っ!
コレ、想像以上に甘い。水とかソーダ水で薄めて飲む、梅シロップ(梅酒に非ず)とかカル〇スとかの、原液そのままの甘さって感じ。――好奇心でちょっと舐めてみたことって、誰にでもあるよね?
香りはやっぱりハーブ系のスーッとする爽やかさがある。癖があるとも言えるから苦手な人もいるだろうけど、私は好き。
舞依が小さい頃からハーブティーを好んで飲んでて、実は最初ちょっと苦手だった――というか、良さがイマイチ分からなかった――んだけど、いつの間にか慣れて好きになってたんだよね。
うん、水やソーダ水だけじゃなくて、冷たいお茶に入れても美味しいかもしれない。今度試してみよう。お酒入りになっちゃうけど。
私は気に入ったけど、カーバンクルは――
ペロペロペロ…… キュピーン☆ サッ!
美味い、もう一杯! って? 気に入ったみたいね。まあ、甘いし、魔力も良く含んでるから、そりゃあ大好きだよね。知ってた。ただ――
ゆ~らゆ~ら ふ~わふ~わ
ぽわんとした表情で、体は前後左右にゆっくり揺れている。見事にほろ酔い気分ね。
基本カーバンクルは体の小ささもあってお酒に弱い――以前、飲みたがったからワインをちょっとあげたことがある――んだけど、それだけじゃなくてこの蜜のアルコール分が結構高い。少なくとも私謹製のワインよりも強い。そういうところも割って飲むのにちょうどいいね。
まあ今はそれだけにしときなさい。キミは酔うとすぐに寝ちゃうでしょ?
ショボ~ン……
そうガッカリしないの。夜ご飯の時に、ちょうど良いくらいに水割りかソーダ割りにしたのを出してあげるから。分かってるって、ソーダ割りの方が好きなんでしょ。
パァァーッ! ありがたや~
ホント、キミは現金だよね。分かったから拝むのは止めなさい。……いつの間にか、色んなリアクションを覚えてるんだよね。毎度のことながらミステリー。
――それはさておき。
ここで問題です。ドラゴンさんがだらしないポーズでグースカしてた理由は?
答えはズバリ、酔っぱらって寝落ちしてたから(笑)。
あの巨体が酔うなんてどんだけ花を食べたのやら。それとも単に酒に弱い?
確か八岐大蛇が酒に酔っぱらったところを、アッサリ討伐されちゃったんだっけ? 洋の東西を問わず、竜っていう生き物は酒で失敗するのかもね。
竜……?
あっ、そうか思い出した! これってアロエより竜舌蘭に近いんだ。
まあこの花の場合は竜が酔っぱらうっていう方が合ってるよね。さしずめ竜酔蘭ってところかな。
うん、これは割といいネーミングでしょ。(自画自賛)