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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-09 竜の塒(ねぐら)




 筏を静かに岸辺まで進めて上陸。音を立てないように抜き足差し足で、ちょうどいい角度の位置まで移動し――


 カランカランカラン…… ポチャン!


 振り向くと、口を両手で抑えたカーバンクルが、目をキュルンとさせて首を傾げていた。


 ――って、石を転がしたのは私じゃないんだから、キミしかいないでしょ? まったく。そんな無駄なあざとさで誤魔化そうとしないの。


 ドラゴンさんの様子を窺ってみると、今の音で起きる様子はないみたいだから一安心か。でも不安だからカーバンクルは抱えていくことにしよう。


 失敗失敗。この子の芸人適性を忘れてたよ。「音を立てるなよ? 絶対だからな」なんてフリ――じゃあないけど、そういうシチュエーションがあったら、まず確実に音を立てる。そういう天性の素質(?)があるからね。


 よし、ちょうど良いポジション。


 トランクを呼び寄せてハンマーモードにチェンジ。柄をスルスルと伸ばしてほんのちょっと尾の先に触れた瞬間に収納。そして時間を止める。


「ふぅー」「ぷひゅぅー」


 これでオッケー。この場の探索が終わったら元の場所に戻して、さっさと逃げてしまおう。


 単純な魔力量差から考えると、たぶん斃せる。まあ戦闘能力は魔力だけでは決まらないけど、こっちには切り札(トランク)もあるし、少なくとも負けることはないと思う。トランクがトランプ(切り札)とはこれ如何に? なんて。


 でも積極的に斃す理由がないんだよね。お金にも困ってないし……、というか素材を売り捌くのに難儀しそうな予感がする。トナカイよりもレアな素材だろうしね。


 それ以上に、このドラゴンさんが居なくなってしまったら、その影響がどう出るのかが怖い。


 大峡谷地帯に入ってから遭遇したドラゴンは、この居眠りドラゴンさん一体だけなんだよね。もしかすると山から遠目に見たドラゴンの影も、このドラゴンさんだったのかも。


 それなりの個体数が居てその中で強弱や序列がある上で、ドラゴン族がこの大峡谷地帯を支配しているっていうなら、一体くらい素材目的で斃してしまうのもアリだろう。


 でもたった一体が文字通り頂点に君臨しているとなると話が変わる。


 その頂点が突然いなくなった時、この大峡谷地帯の食物連鎖・生態系が大きく変化する可能性もあるんじゃないかな? と思う。で、こっちの世界の場合は魔物の分布が変化すると魔力のバランスも変化するし、それが魔物の暴走を誘発する可能性だってあるかも? とも思う。


 まあ全部推測に過ぎないけど。そもそもドラゴンが一体だけって言うのも考え難いし。ただ積極的に斃す理由が無くて戦闘を回避できる手段があるんだから、そういうことを考慮してもいいんじゃなかなってね。




 危険物ドラゴンが片付いたところで改めて湖の周辺――というかほぼ洞窟。ちなみに鍾乳洞ではない。ちょっと残念――を見回すと、気になるところがいくつか。


 ここは居眠りドラゴンさんのねぐらだったらしく、それらしい痕跡があった。


 その一。鱗・角・牙・爪なんかを無雑作に纏めてある場所がある。


 たぶん色やサイズ的に本人(竜)のものだと思う。鱗はなんとなく分かるけど、角とか牙も生え変わるのかな? うーん、興味深い。


 その二。何やら蒐集物が積み上げられてる場所がある。


 こっちは割と丁寧に積み上げられてる感じかな。ドラゴンがお宝(光り物)を集めるっていうのはファンタジーの定番だけど、こっちの世界でも似たような習性があるのかもね。


 それにしても宝石に鉱石は分かるけど、使うはずもない剣や盾なんかの武具に、果ては彫像に絵画なんかまである。どこから持ってきたのかも謎だけど、あの巨体で傷つけないように運ぶ方法も割と謎だ。


 なお、全体的な傾向として、自分の色に近いものが多い。これまた興味深い。


 その三。食べカスらしきものがドラゴンさんの居た周辺に転がってる。


 これが面白い。食べカスって言っても動物の骨とかじゃなくて花。そう、湖に沢山浮かんでるアロエ(仮)の花なんだよね。その茎部分が何本も転がってる。


 ということはアロエの株自体は残して、茎から上をわざわざ採集して花を食べてるってことになるよね。栽培してる――は、言い過ぎかもだけど、居眠りドラゴンさんがアロエの花をいたく気に入ってるっていうのは間違いない。


「美味しいのかな、花?」「キュウ?」


 私の呟きに応えるように、カーバンクルも腕を組んで首を傾げる。


 まあ取り敢えず、貰える物は貰っておきましょう。


 ということで山積みになってる鱗や角なんかの中から、傷の少ないものを選別して確保していく。考えてみれば素材的にはこれだけで十分な収穫だよね。骨とお肉が手に入らないのはちょっと残念だけど。


 ドラゴン肉……。美味しいのかな? うーん、気になる。とても気にはなるけど……、今は止めておく。――残念だけど。


 まあ、皆と合流した後でひと狩りしに行くこともあるでしょ。たまたま立ち寄った村で、小さい子がドラゴンの生贄に捧げられそうになってるところに遭遇するとかね。


 ――いや、そういうのは勇者パーティーの仕事か。私たちのキャラじゃなかったね。


 よし、素材の回収はこのくらいでいいかな。


「キュッ?」


 蒐集物こっちは――って? それには手を付けないよ。丁寧に扱ってるところから察するに宝物なんだろうし。キミも怒れるドラゴンさんに追っかけられたくはないでしょ?


 鱗とかの方はたぶん大丈夫。適当に脇に寄せておいたって感じだからね。腐る物でも無いし、捨てに行くのも面倒だから置きっぱなしにしてるってとこかな?


 趣味(=お宝)に関しては几帳面だけど、それ以外はズボラという……。耳が痛い人が結構居そうだよね。


 私? 私は割と整理整頓好きだから。お部屋もスッキリしてたよ。だってほら、綺麗好きな女子ですから。


「プププ~ッ!」「成敗!(弱デコピンショット)」「プギャッ!」


 まったくこの小動物ときたら、またビミョ~にハラ立つ笑い方を。しかもなんかバリエーションが増えてるし。ホント失礼しちゃうね! ぷんぷん。








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