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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-08 スペランカーは遭遇する




 筏に腹這いになって、ゆっくりと洞窟の先へと進んで行く。手のひらサイズのLEDライトで先を照らしてみた限りでは、洞窟はほぼ真っ直ぐに、広くも狭くもならないで先に続いているようだ。


 魔法で明るくすればいいじゃないかって? それじゃあ風情が無いでしょ。


 やっぱり洞窟探検っていうのは、ライトの頼りない明りで周囲を確かめつつって感じじゃないとね。強力な照明で全貌を明らかにしてしまっては、視聴者(?)が興醒めしちゃうよ。


 それにしてもこう、ワクワクするね! 探検というか冒険というか、そういうのをしている感じが凄くする。


 いやまあ、ミクワィア家にお邪魔していた一時期を除いて、こっちの世界に来てからはずっと冒険みたいなものだったんだけどね。魔物がそこら中に居る世界で一人旅なんだから。


 ただそれは旅であって冒険じゃあないというか……。舞依たちと合流するっていう明確な目的がある以上、それは仕事に近いものというか……。


 つまり“しなければならないこと”っていうのは、探検とか冒険とかとはニュアンスが違うと思うんだよね。


 言い換えると、趣味的であるからこそ探検や冒険たり得るってこと。


 だから利益を求めるトレジャーハント――例えば沈没船を探して積み荷を回収するとかね――は冒険とは言えないし、逆に廃病院で肝試しは――良し悪しは別問題として――冒険と言える。あくまでも私の個人的見解に基づく分類ではね。


 そう、明確な寄り道であるこの洞窟探索は、こっちの世界に来て初めての冒険なのである!


 ……コホン


 ま、まああんまり寄り道に気を取られ過ぎちゃうと、後で舞依に叱られそうだからほどほどにね。そう、ほどほどに。


 クイクイッ 


 ん? ちゃんと前を見ろって? はいはい。おー、遂に洞窟の出口みたいだね。しかも結構明るい。光は太陽光っぽい印象だから、天井の無いところに出るみたいだね。ライトは消してしまっておこう。


 そうして出たところは湖――というには狭く、池や泉というには広いくらいの大きさの――だった。まあ川を遡って来たんだから、水源に出るのは当たり前。でもちょっと変な湖で、パッと見の印象は湖っていうよりも畑……かな?


 湖面に無数のサボテン――じゃなくて、これはアロエかな? アロエっぽい植物がプカプカと浮いていて、なんだか水耕栽培をしているみたいなんだよね。


 一つ一つの株は、葉っぱが球状の塊になってる部分が私の腰の高さくらいあって、結構大きい。で、その塊の中心部分から真っ直ぐに茎が伸びて、その先には花が縦に連なって沢山咲いている。色はほんのりクリーム色。


 遠くから見ると可愛らしい花だけど、近くで見ると一つ一つの花が私たちの良く知るチューリップくらいあって、これまたかなり大きい。なんかちょっとスケール感がおかしい気がする(笑)。


 魔力の影響なのか多くの株に花が咲いていて、この湖一帯いい香りがする。花というよりもハーブに近い匂いかな。爽やかなスーッとする匂いの中にほんのり甘さが混じってるような――そんな感じ、なんだけど。


 スンスン


 う~ん、花やハーブとは違う、どこかで嗅いだことのある匂いが混じってるような……? なんだろう、コレ。


 ――クイクイッ あっちあっち


 アロエっぽい植物に気を取られてたけど、この場所自体もちょっと変わってる。


 日が差し込んできてるから当然天井はないんだけど、ぐるっと壁に囲まれてる。しかもその壁が内側にせり出してて、開口部の広さは湖よりも小さい。岩山の中にドーム状の空間があるって感じかな。


 もしかすると気球で上空を飛んでたら、角度的に湖に気付かなかったかもしれない。そう考えると、中々の秘境に辿り着いたと言えるね。洞窟を通ってきた甲斐があるというものだ、うん。


 湖と群生するアロエ(仮)の花が差し込む光に照らされて、中々幻想的な光景だ。是非とも写真を撮っておきたいところだけど、今は(・・)シャッター音が気になるから自重しておこう。


 ――グイッ! ビシッ、ビシッ!


 あっちをちゃんと見ろって? うんうん、分かってるから。ちょっとペンディングしてただけだって。


 フッと鼻で笑って……、両手を上にしてヤレヤレと首を振る? そんな逃避に意味はないぜって? ハイハイ、それはその通り。


 さて、では気を取り直して。


 洞窟の壁際にね、いるんですよ。ヤツが。




 ――ドラゴンが。




 と、勿体付けて紹介したんだけど、少なくとも現段階では危機的状況じゃあない。


 なぜならばこのドラゴンさん、お休み中なんです。運が良かったような、ちょっと拍子抜けのような。


 もっとも探知魔法は使ってるから、何か大きな魔力反応があることは分かってたんだけどね。ただ魔力が活性状態じゃない――静かで動きがほとんどない――から、ああ、これはたぶん寝てて危険はないだろうなと。


 でもまさかドラゴンだったとは……。流石にこれは驚いたよ。


 ちなみに色は青みがかったグレー。頭には角と牙があって、コウモリっぽい皮膜の翼がある。フワフワの羽毛に覆われてて翼も鳥っぽいタイプも私的にはアリだけど、こっちの方が正統派の西洋竜ドラゴンって感じだよね。


 それにしても豪快に寝てるなぁ~。だらしないと言ってもいい。


 こう……うずくまって尾と首を丸めて寝てるのを想像した? いやいや、このドラゴンさんは壁に背中を預けて両脚と尾を手前に放り出し、グースカと眠りこけているんですよ。


 これがマンガだったら、きっと鼻提灯が付いてるだろうね(笑)。


 さておき、この場所は色々と興味深いから調べたいんだけど、さすがにドラゴンさんを起こさないようにコソコソと探索はしたくない。


 というわけで、さっさと片付けてしまいましょ。








サブタイトルの“スペランカー”は、英単語としてのspelunkerです。

史上最弱の主人公として有名な某ゲームの事ではありません(笑)。

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