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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-05 まっさかさーまーにー♪




 ペットと一緒の旅っていうのも存外楽しいね。ペットと言ってもれっきとした魔物ではあるけど。


 もしかすると自分でも気付いてなかっただけで、長い一人旅に寂しさを感じてたのかもしれないね。つまり、それは私も繊細な乙女であることの証左でもある。うん。


「プー、クシュシュシュ!」「成敗!(弱デコピンショット)」「プギャッ!」


 またつまらぬものを撃ってしまった……。


 まったくこのカーバンクルときたら、乙女に対する礼儀がなってない。


 さておき。一人旅もそれなりに楽しんではいたけど、お伴が一匹増えたことでちょっと旅が賑やかになったのは確かだ。


 しばらく観察してみて、やっぱりこのカーバンクルはかなり知能が高いことが分かった。こちらの伝えたいことは概ね理解するし、学習能力も高い。――アホっぽいのはアホっぽいんだけど。


 さっきのちょっとハラ立つ笑いも、このくらいで私が本気で怒ることはないと理解しているからこそやっていることだ。――ちょっとは痛い目を見るんだから、止めとけばいいのにね。


 他にも分かったことがいくつか。


 見た目に反して基本雑食性で、肉も魚も野菜も何でも食べる。調理したものもしっかり食べる。というか、素材そのままの例えば生肉なんかよりもステーキにした方が美味しそうに食べる。


 しかも味を占めたというか舌が肥えたというか、料理の良し悪しについても学習したらしくて、微妙な出来になった思いつき料理を出すと文句を言う(ブーたれる)ようになってしまった。――そして成敗されるというオチが付く。


 まあ出されたごはんはちゃんと平らげるんだけどね。いただきますとごちそうさまの時には毎回手を合わせるし、可愛いところもある。悪い子じゃあないんだよねー。……アホっぽいけど。


 ちなみに料理もおいしそうに食べるけど、それ以上にお気に入りなのはフルーツ。それも私が家庭果樹園で魔力をジャブジャブ注いで育てたヤツね。もしかすると魔力を取り込んでるのかもしれない。――これからはちょっと注意して魔力量を観察してみよう。


 戦闘能力については、総合的に見れば大きさ相応ってところかな。大きな爪や牙を持たないから攻撃力は低めだけど、身体能力が高くフットワークが軽い。なお、二本足で立って戦う。


 この間、ちょっと遊びでボクシングをざっくりと教えたら気に入ったのか、暇な時間――私が趣味に充ててる時とか――があればシャドーっぽいことをしてる。得意技はジャブで牽制してからの……跳び蹴り(笑)。


 魔法も結構上手く使う。身体強化はもちろん、手や足に魔力を纏わせるような使い方もする。属性的には水と風、それから光と相性がいいみたい。


 ――並べてみると、どの属性も綺麗で清らかなイメージだよね。ビミョ~に釈然としないけど……、まあそれは置いておこう。


 ただ遠距離攻撃の類、例えば水の矢とか風の刃とかを飛ばすといった魔法は苦手らしい。たぶんこれまでは隠れた状態からの不意打ちで獲物を仕留めるスタイル――キャンプに乱入してきた時もそう――だったからなんだろうね。何事も慣れは大事だ。


 魔法と言えば、カーバンクルって額の宝石から、破壊光線ビームをぶっ放すんじゃなかったっけ? もちろん物語の中の話だけど。そういう技って無いの?


 ある? へー、やっぱりあるんだ。


 でも、使えない? ……じゃなくて、普段は使わないと。ビームを使っちゃうと……、疲れて動けなくなる? 魔力を全部消費しちゃうってことか。


 つまり非常時の最終手段的な? なるほど、蜜蜂の針みたいなものか。魔力切れで即死んじゃうことはないけど、戦闘時にそれで決着を付けられなかったら同じことだからね。







 そんなこんなで一人と一匹それなりに楽しく旅を続け、今日中に大峡谷地帯に到達するというところまでやって来た。


 ――後から思ったことだけど、この時はちょっと気が緩んでいたというか注意力が足りてなかったんだろう。山越えしてからはゆるファン(ゆる~いファンタジー)が長らく続いたからね。反省して、気合を入れ直しましょう。


 あ、探知魔法は常時展開してるから、魔物の不意打ちを受けたとか、強い魔物に不用意に遭遇したとかじゃあないよ。そこまで油断はしていない。


 では何が? それは……


「こんなとこに谷~!?」「キュッ、キュウゥゥーーー!!」


 そう、地形の罠に嵌ったのでした。


「キャア~(棒読み)…………なんてね」


 異世界こっちに来てから何度となく紐なしバンジーをやってきた私だよ? 今更この程度で狼狽えたりしないって。カーバンクルは……ああ、ローブに捕まってるね。こういうちゃっかりしっかりしてるところは、この子の真骨頂ってとこかな。


 トランクの中に入ってしまえば問題無いけど、谷底から上がるのは面倒だし――さて、どうしようか?


 ま、取り敢えず。


 カーバンクルの首根っこをむんずとつかんで、トランクを足元で筏モードに変形。念動の魔法で空中に固定する。差し当たりこれで大丈夫でしょう。


 大峡谷地帯を目前にして、こんな谷があるとは予想外だった。幅が一〇メートルほどの切り立った崖で、もしここに吊り橋がかかってて名探偵が渡ってしまったら、夜には確実に橋が落ちてしまうことだろう。(偏見)


「プヒュゥーー……」


 ビシッ! タンタンタン! フンス!


 崖下を指差して? 足踏みからの腕組み? 要するにもっと気を付けろ、何をやってるんだってとこ?


 いやー、ははは。まあ油断してたのはそうかも。面目ない。まさか森を抜けて視界が開けたと思ったら、足場がないとは思わなかったよ。


でもそういう地形の変化なんかは、野生動物(魔物)の方が敏感に察知するものなんじゃないの?


 ピンッ スススーッ


 盛大に目が泳いでるよ? やっぱり気付いてなかったんじゃないの。


 それにしても日に日にリアクションのバリエーションが増えてるね。もうちょっと役に立つ方向性の努力を……、いや、この子はこれでいいか。面白いし。








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