#06-04 魔物でも、(あざと)可愛ければ好きになってくれますか?
シンプルアウトドアご飯もたまには良いよね。素材の味が良いからこれでも十分に美味しい。外ご飯効果については――最近はノウアイラを出てからずっとだから、もう有効期限切れかな(笑)。
二巡目の魚が程よく焼き上がって来たタイミングで――
ムクリ キョロキョロ……
「あ、起きた。……それで? 人の食事を邪魔するとは、一体どういう了見なのかな?」
言葉が通じるわけはないけど、ちょっと殺気を込めて話しかけてみる。さあ、どういうリアクションを返してくるのか。
「……キュ?」
カーバンクルは何度か瞬きをすると、つぶらな瞳をキュルンと輝かせて小首を傾げた。
カ、カワイイ!
……なんて、私が思うとでも?
まあ可愛いことは可愛いよ、確かにね。パチクリとゆっくりめに瞬きするとか、位置的に自然な上目遣いになるところとか、大きな瞳がちょっと潤んでるところとか、さも「私、何も状況が分かりません」とでも言いたげな首の傾げ方とかね。小動物という体格も活かした、ちょっと感心するくらいの自分演出力だ。
だけどさぁ~。「キシャアァーー!」で飛び掛かって来ておいて、いまさら可愛さアピールをしてもしょうがないでしょ。そういうのは最初っからやらないと、ねぇ?
つまり評価するならば。
「二〇点、赤点、不合格。もっと面白い芸を見せなさい」
焼きたての鮎を手に取りつつ宣告する。
ムシャリ。うん、美味しい。今度は塩加減もバッチリ。
「……チチッ!?」
半歩後ろによろけて愕然として? 何、その芸風にそんなに自信があったの?
ギンッ! ダンダンダンダン!
おー、怒ってる怒ってる(笑)。目を三角にして地団駄を踏むなんて。アハハ、そっちの方が面白いんじゃないの?
「グルルルゥー……」
顔を伏せて唸って……で、どうするの? ついさっきアッサリ返り討ちにされて、まさか実力行使ってことはないよね?
ピョ~ンッ! ガバッ! へへぇ~
ま……、まさか!
「ジャンピングDO・GE・ZA……なんて!?」
両手を挙げてのジャンプからの着地、そこからスムーズに体全体を伏せる所作。垂れた耳とフサフサの尻尾も真っ直ぐ伸び切っている、それはもう見事としか言いようのない、美しい(?)土下座だった。
っていうか、こっちの世界にも土下座ってあるの? いや、仮にあるとしても、なんで人里離れた渓谷に居るカーバンクルが?
まあ、でもさっきの可愛さアピールよりも面白い。これなら合格を――
クルッ クイックイッ
――と思ったら、土下座のまま手のひらを返して小さく上げ下げをし始めた。たぶん食べ物を催促してるんだよね? これはまたイイ性格というか、すぐ調子に乗るというか。
じゃあまあ、ホイッと。
ガバッ パァァ~…… ガビーン
なんでそんなに悲しそうな顔するのよ。結構美味しいよ? バナナの皮にくるんで丸ごと蒸し焼きにした人参。ちゃんと魔法でちょっと冷ましてあげたんだから、感謝しなさい。ウサギと言えば人参でしょ。――まあこの子はカーバンクル(魔物)だけど。
あ、でもちゃんと食べるんだ。しょんぼりと背中を丸めてモソモソと口を動かす様がカワイソカワイイ。まあ、魚の塩焼きにチラチラ視線を送ってるからそれも演技なんだろうし、そういう分かり易すぎるフリもまたコントっぽい。
なかなかの逸材だね。将来的に久利栖とコンビを組ませよう。
「うん、まあなかなか面白い芸だったよ。はい、じゃあご褒美」
パァァッ! キラキラキラ~ ふかぶか~
鮎の塩焼きを渡すと、カーバンクルは目を輝かせて両手で捧げ持って深々と頭を下げた。物語で王様とか主君とかから、褒美を下賜されるときにするようなあのポーズね。
いや、本当にどこでこんな芸を覚えて来るのやら。
ちゃんと両手で串を持って鮎を美味しそうに頬張るカーバンクルを眺めながら、私も焼きおにぎりをパクリ。
さっきまでよりもちょっと美味しい気がしたのは……、まあ気のせいだろう。うん。
翌朝。日課を終えてからテントの外に出ると、カーバンクルの姿はなくなっていた。
――と、思ったら、テントの上で気持ちよさそうにスピスピと寝ていた。本当、イイ性格をしてる。一応、半分は褒め言葉です。
でもまあ、真っ白な毛玉がうずくまるように寝ているところは普通に可愛いね。
昨夜トランクに保管しておいた鮎の塩焼きを串は外して皿にのせて、茸のシンプル味噌汁をちゃちゃっと作る。ご飯と一緒にちゃぶ台くらいのローテーブルに並べれば、日本の朝ご飯が完成! まあ卵焼きかお浸しか、あともう一品くらい欲しいところだけど、それはしょうがない。
匂いに誘われて起きたカーバンクルが、ちゃっかりちゃぶ台の反対側に着いたから、皿を用意して人参一本|(ショボ~ン)と、魚の塩焼き|(キラキラ~)を乗せる。
では、いただきまーす。
…………
ごちそうさまでした。
さて、普通のキャンプ――妙な闖入者はいたけど――でかなりリフレッシュできた。
山越えはなんだかんだでメンタルが擦り減ったからね。トランクとローブに魔法もあるから身体的な負担は問題無いけど、山頂付近で吹雪いて視界が真っ白になった時なんかは流石にちょっと心細かったから。
焚火やかまどの後始末をして、道具類をしまったら準備はオッケー。
スケーターに乗り、目指すは大峡谷地帯――ん?
トンッという軽い衝撃を後ろに感じて振り返ると、ボードにカーバンクルがちょこんと座っていた。
「もしかして、付いてくる気なの?」
「キュッ!」
良いお返事で。
でもこの辺には特別な何かがあるわけじゃないし、また来ることはないよ? 王都に行くには峡谷越えもするし、キミだけじゃあ帰ってくることはほぼほぼ無理だから、故郷を捨てることになるけど……本当に良いの?
フッ…… グイッ キュピーン☆
なに、そのニヒルな笑みは。それで親指を立てて手を突き出して? ウインクもできるんだ?
構わない、任せろって感じかな? ま、下心は見え見えだけどね。
「ごはん」
ピンッ
垂れ耳が一瞬跳ね上がった。なるほど、驚くと動くのね。覚えておこう。
ま、いっか。旅の道連れとしては面白いし、特に害は無さそうだし、食費に関しても私には気にする必要も無いからね。
「ま、いいか。振り落とされたらおいてくからねー」




