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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第六章 旅は道連れ、情けは不要?>
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#06-01 異世界暦事情




 季節が晩秋から冬になりつつある頃、ようやく山脈の頂上付近に辿り着いた。


 この山の標高は遠くから見た印象だと、富士山よりも若干高いかなってくらいだと思う。この辺りはすっかり雪が積もっていて、山全体が雪に覆われる前に越えられそうで良かった。


 ――いや、いっそ積もってればスノボ気分が楽しめたかも? スケーターだからスピード自体は変わらないけど、あの雪をズザザーッと切って走る爽快感は無いからね。


 ちなみに私はスキーよりスノボ派。どっちも滑れるけど、手に何かを持って滑るっていうのがあんまり好きじゃない。私たちのグループだと、久利栖がスノボ派で、鈴音と秀はスキー派ね。舞依はと言うと――そもそもどっちも苦手派、かな(汗)。


 それはさておき。


 こっちの世界に飛ばされてきた時、地球では十月の初めだったから、たぶんこよみ的に大体同じくらいか少し夏よりの時期に転移してきたんだと思う。思えば結構時間が経っているものだね、うん。


 この世界は一年が三六五日で十二の月があり、季節感も大体地球と変わらない。ただひと月は三〇日でどの月も変わらない。


 一週間は六日で曜日もあるけど、一般市民はあんまり曜日を気にしない。それぞれが仕事の状況に合わせて休みを設定している。規則正しく曜日で休みになるのはお役所ぐらいらしい。


 で、一二月×三〇日だと五日余っちゃうよね。これが一二月と一月の間に割り当てられて、大体どの国でも過ぎた年を送り新年を迎えるお祭りが開かれるらしい。このお祭りは神々と精霊に祈りを捧げる物であり、この時期には祖先の霊も現世に還ってきて来て共に祈るのだとか。地域によってはお墓参りに行く風習もあるらしい。


 つまり文字通りの意味で、盆と正月が一緒に来るってことね。


 せっかくの大きなお祭りなんだから、出来れば舞依たちと一緒に楽しみたい。合流が間に合うように頑張らないとね。会頭さんに見せてもらった地図と移動ペースを考えると、王都についてから皆をスムーズに探し出せるかがカギかな。


 ちなみにうるう年にはこの期間が六日になるから、お祭り(お休み)が一日延びる。閏年は神託によって決まって、大体四年に一回だけど、たま~に五年空いたり逆に三年になったりするとのこと。


 ――これは余談だけど。閏年の間隔がたまに増減する話は、学校の教科書には載ってたけど、異世界転移のしおりには載ってなかった。


 もしや神様……、うっかりですか?







 おはようございまーす。


 こっちに来てからは基本、早寝早起きの健康的生活をしてるから寝覚めが良い。だけど今日はいつもより早いから、若干瞼が重い。


 ウィンドウを開いて外の様子を確認――うん、まだ夜明け前だ。


 場所は山頂――っていうか山の尾根。昨日の夕方には到着してたんだけど、どうせならご来光を拝んでから下山しようかと思ってね。思いつきで富士山クラスの山頂に一泊なんて、何処でも快適に休めるトランクあってこその暴挙だ。


 まだちょっと間がありそうだから、朝食を採って、顔を洗い、ストレッチで体をほぐす。


 トランクの収納空間に入って鉢植えを呼び出し、水と魔力をザバザバーッと注いでいく。どの鉢植えも元気に育ってるね。原産地の無人島にあった頃よりも葉っぱは青々としてるし、果実もたわわに生ってる。


 でも肝心の精霊樹は全然芽が出てこない。水はともかく、魔力の方は朝昼晩と食事の度に結構な量を注ぎ込んでるんだけどね。


 その大量の魔力を全部吸収してるから、たぶん芽が出るにはまだ足りないってことだよね。


 やり過ぎっていう可能性はないと思う。植物に水と魔力を注ぐとき、これ以上はやり過ぎっていうポイントで若干反発されるからね。家庭果樹園をやってるうちに感覚がつかめて来た。


 ま、気長にね。なんたって普通の植物じゃあないから。


 ――ただ育てていけば精霊が生まれるはずだから、それは早く会いたいなって思う。


やっぱりあの精霊さんみたいな子になるのかな? それとも魔力を注いでるから私に似る? う~ん、興味深い。


 おっと、そんなことをしている内に東の空が明るくなってきたね。鉢植えを片付けて、防寒対策の魔法を掛けてっと。


 いざ、テントの外へ。――って、寒っ!! 魔法がちょっと弱かった! 強化強化っと。


 テントの壁を透明にすれば良かったんじゃないかって? いやいや、それじゃあ味気ないでしょ。


 外の空気を吸いながら、登ってくる日の光を直に浴びる。これでこそご来光を拝む価値があるというもの。テントの中から見るんじゃ、テレビで見るのと何も変わらないでしょ。


「うわぁー……」


 思わず声が出てしまった。下界にベールを掛けるように広がる薄い雲海の上に、太陽が顔を出す。そこから放たれる光の美しさは、なにか無条件で感動してしまうものがある。家族で見た海から昇る初日の出も綺麗だったけど、これは全く別物の美しさだ。


 おっと、せっかくだから撮影をしとかないと。感動で忘れるとこだった。


 …………


 あー、コレはきっと雰囲気もあるんだろうね。写真を撮ってみてなんとなく分かった。


 山の稜線に一人。聞こえるのは風の音と、どこからか聞こえてくる鳥や獣の鳴き声だけ。話し声や自動車の音なんかの雑音が全くない。唯一、私のスマホが鳴らすシャッター音だけ。


 そんなただひたすら静かな世界を、昇って来た日の光が塗り替え、目覚めさせていく。


 感動の質が違うのは、むしろ当然だったね。




 うん、凄くいい景色を堪能した。舞依たちに良い土産話が出来たね。素晴らしい写真(自画自賛)も取れたし。


 ちなみに少し前に写真とムービーでデータ容量がいっぱいになっちゃったから、メモリーカードを抜いたスマホを特殊スロットで復元している。これでまたしばらくは持つと思う。


 こんなことになるなら一眼レフのカメラとタブレット(ノートPC)も持ってきたのに。ちょっと失敗したかな。事前予告があれば、持ってくる物をもっと厳選できたのにね。


 ――って、予告されてたらまず事故を回避するか。我ながら本末転倒だった。


 いつの間にか雲海が晴れ、下界の様子が露わになっている。


 山裾に広がる森は、山脈の北側だからかやや植生が薄いみたい。南側の森は鬱蒼としたって感じだったけど、こっちは木々がまばらな印象だ。所々に地面――というかゴツゴツとした岩肌も見える。


 そしてその先には――大峡谷地帯が広がっていた。








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