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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-15 閑話 バク転はNinja(≠忍者)の必須スキル?




 昼食を採り、新しい食材について一頻り意見を言い合った後で、久利栖くんの謎行動についての話になります。


「バトルも割と余裕が出て来たとこやし、ここらでバク転くらい覚えとかんとな。やっぱNinjaとしては」


「忍者が派手な動きで目立ってどうすんのよ……」


「ちゃうちゃう、忍者やあらへん。Ninjaや!」


 久利栖くんの力説に秀くんが補足したところによると、諜報活動や暗殺などを行う現実的な忍者ではなく、ヒーロー的な――もっと言ってしまえば海外で曲解された忍者(Ninja)ということのようです。


 そういった映画などは殆ど見ないのですけれど、なんとなくニュアンスは伝わりました。――と思います。


 けれど、それとバク転に何の繋がりがあるのでしょうか?


「戦隊ヒーローとか、ライダーものとか、舞依さんもちょっとくらい見たことあらへん? ああゆうのをやりたいんよ」


「ああ……、あのベルトで変身する。そう言えば殺陣たてが派手でアクロバティックだったような気がしますね」


「舞依も知ってるんだ。意外ね。小さいときに怜那が見てたとか?」


「いいえ、これは割と最近の話で、中学の時にクラスの友達に強く勧められまして。その『主役がちょ~イケメンだから絶対見て!』と」


「あー……。確かに子供向けってだけじゃなくて、最近は若手イケメン俳優の登竜門的に言われることもあるわね」


 ちなみに主役の俳優は確かに顔立ちもスタイルも整った人でした。エンディングのダンスもキレッキレでしたしね。人気があるのも頷けます。


 ただ何しろもう小さな子供ではありませんでしたからね。ツッコミどころ満載の設定や、所々妙に安っぽい作りの小道具――怜那曰く、玩具メーカーとのタイアップだからそれは仕方がない、のだとか――などに気を取られてしまって、あまり演技やストーリーに集中できませんでした。なので結局見たのは一回だけです。


 それはさておき。どうやら久利栖くんは、回避する時にバク転をしながら下がりたいようです。――実用性があるのでしょうか? 鈴音さんと顔を見合わせてしまいます。


「……練習を止めはしないけど、本当に実戦で役に立つの? 戦いの最中に相手から目を離すのはどうかと思うけど……」


「大丈夫やって。流石に余裕のある時しか、そないなことできんしな。つまり余裕を見せつけることで挑発にもなって、ヘイトを稼げるっちゅうことや。一石二鳥やな!」


 ええと、果たしてそれが二鳥(・・)と言っていいのかは疑問ですけれど……。久利栖くんのやる気はとてもよく伝わりました。


 若干渋い表情の鈴音さんが、視線で大丈夫なのかと秀くんに訴えます。


「あー……、ははは。ま、まあ、ああ見えて結構慎重だから、問題はないと思うよ……たぶんね。それよりも久利栖、そういう動きは指導者無しでマスターするのは難しくないか?」


「そうなんよ……。身体能力のゴリ押しで行けるか~思うてんけど、そう簡単にはいかんなぁ。あ、舞依さん。後でちょっと録画してくれへん? 改善点が見つかるかもしれんし」


 今でも私のスマホが使用できるのは、校外学習の前に怜那からソーラーパネル付きのモバイルバッテリーを渡されていたため、こちらでも充電ができるからです。備えあれば、ですね。


 ただ残念ながら全員分を賄えるほど発電量は多くありません。久利栖くんが私に録画を頼んだのはそういう訳です。


「それは構いませんけれど……。取り敢えず今は置いておいて、怜那と合流した後でアドバイスをもらった方がいいのではありませんか?」


 時間を置けば、熱も冷めるかもしれませんしね。魔物と戦っている時に体操競技のような動きをされると、気が散ってしまいそうですから。――これは久利栖くんには内緒ですけれど。


「「「えっ!?」」」


 あら? 皆さん、目を円くされていますけれど、どうしたのでしょうか。


「怜那って、バク転なんかもできるの? 全然知らなかったわ……」


「え? ……あ、そう言えば中学に入ってからは、人前で見せることはなかったかもしれませんね」


 私と怜那は同じ小学校でしたが、鈴音さんと久利栖くんとは中学から、秀くんとは高校から同じ学校です。鈴音さんと秀くんはもっと以前からの知り合いですけれど、体育の時間でもなければ披露する機会なんてありませんし、そう考えると知らなかったのも当然でしょう。


 ちなみに伸身の一回捻りまでできました。一度やり始めたことは完全には放り出さない怜那ですから、今でもできるでしょう。


「それにしても小学生の頃の怜那さんは、僕らのお稽古ごとにしょっちゅう顔を出してたし、下手をすると僕ら自身よりも忙しく飛び回ってたよね。体操にも手を出してたとは知らなかったな。鈴音や舞依さんが習ってたわけじゃないんだよね?」


「ええ。舞依は……聞くまでも無いわね」


 むむっ。ちょっと気になる物言いですけれど……、悲しいことに否定できません。体操は苦手分野の最たるものですし、正直それを克服しようという気概もありませんから。


「確かに言われてみると、切っ掛けが何だったのかは謎ね。オ〇ンピックの選手にでも憧れたのかしら?」


 舞依さんに問われて私は思わず苦笑してしまいます。あれは一部の当事者にはほろ苦い想い出ですからね。


「ふふっ、いいえ。切っ掛けはそうですね……、究極的に言えば怜那の勘違い、ですね」







 あれは小学五年生の梅雨の頃だったと思います。


 当時の私は大分身体も丈夫になり、体育の授業にも毎回参加できるようになっていました。もっとも運動神経が人並み以下なのは如何ともしがたい事実なので、正直見学のままの方が気は楽だったのですけれど。


 特にマット運動や跳び箱などが苦手で、苦手意識があるから怖くて足が竦んで上手く動けなくなるという悪循環でした。だから体育館での体育がある日は特に憂鬱だったのを覚えています。


 その日も憂鬱な体育館での授業でした。しかも特に嫌いな跳び箱です。一体あの木製の箱を跳べたから何になるというのでしょうか? さっぱり意味が分かりません。


「あはは。そうだねー、例えば坂道で大きな岩が転がって来た時に、上手く避けられるかもしれないよ?」


「怜那ちゃん、そんなこと本当に起きるの?」


「……遺跡の調査とかしてると、割と頻繁に?」


 どうやら冒険ものの映画か何かを見たようです。手に持った何かを振って打ち付けるような動作をしながら「ムチを使えるようになったほうがいいかな?」と小声で言っていました。


 現実に応用できるかはさておき、授業は授業なので真面目に取り組みます。


 ――あえなく敗北しましたが。








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