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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-14 閑話 王都に到着! そして王都へ向かう(謎)




 長い馬車の旅を経て、私たちは王都に到着しました。


 忌憚ない言葉で言えば……、お世辞にも快適な旅ではありませんでした。


 はぁ~……。っと、失礼しました。思い出すとため息が漏れてしまう程には過酷な旅だったのです。主に馬車の乗り心地の問題で。


 秀くんと久利栖くんによれば、車輪をゴムタイヤにして衝撃吸収装置サスペンションを組み込めば乗り心地の良い馬車を作れるはず――とのことで、旅の合間に真剣に話し合っていました。なんでも「特許を取って技術チートで一儲け」というのもテンプレ? なのだそうです。


 ところで特許制度がこの国にあるのでしょうか? 無い場合、技術を盗用されないためには、どこか有力な商会との伝手が必要になりそうですけれど……。安定収入への道程は険しそうですね。


 いずれにしても技術革新は先の話で、今のところは震動の激しい馬車に乗るしかありません。実はあまりの振動に耐え切れず、私たちはこっそりとそれぞれ自分に防御魔法を掛けていました。――主にお尻の辺りを重点的に。


 なぜこっそりなのかというと、乗合馬車の他の乗客に気付かれると少々気まずいからです。防御魔法を使えるほどの魔力持ちは少ないですし、仮に使える人でも魔物の襲撃に備えて魔力を温存しておくのがセオリーです。


 馬車の振動から身を守る為、などという魔力の無駄遣い(・・・・)が出来るのは私たち転移者くらいのものでしょう。――あ、怜那ならずっと宙に浮いているくらいのことをしそうですね(笑)。


 道中は馬車の乗り心地の問題を除けば、これといったトラブルもなく順調な旅でした。魔物の襲撃には何度か遭遇しましたけれど、それはこちらの世界ではトラブルの内に入りません。ごく普通の、日常的な出来事です。


 最初の襲撃時にキャラバンの護衛の方々に協力したことでそれから何かと話すようになり、野営地などではいろいろな話を聞くことが出来ました。


 得られた情報の中でも驚いたのは、私たちが拠点としていた街――マーリンネは、実はこの国の街としては平均よりも若干小規模なくらいで、貿易と商業が盛んなノウアイラや、交通の要衝――現代で言うハブ空港的な街のようです――であるファダナなどに比べれば大人と子供ほどの差があるのだとか。衝撃的な事実でした。


 そうして到着した王都ですが、厳密にはまだ“王都入りした”とは言えないのかもしれません。というのも王都の外壁は特殊な構造をしていて、外周市と呼ばれる八つの小さな街同士を壁で繋ぐような構造になっていて――従って王都の外壁は、八角形の頂点に(まる)がある様な形です。円形ではないのですね――私たちが到着したのもそこだからです。


 王都の玄関口に到着した、というところですね。実際、王都への出入りは基本的に外周市を通る必要があります。


 玄関口とはいえ王都には違いない、とも言えるのですけれど、なにしろ王都は一番外側のエリアが途轍もなく広大なのです。


 どのくらい広大かというと、フェリーサイズの船が航行できるほどの大河が流れ、湖があり、多くの野生動物や小型の魔物が生息する森を内包しているくらいです。外周市を出て直ぐの景色を見ると、一瞬出口を間違ってしまったのかと勘違いしてしまうくらいです。


 河が流れているということは外壁に開口部があるのですけれど、外周市にはそれぞれに小ぶりの精霊樹があり、それらの力を相互に連結し外壁沿いに強力な結界を張ることにより、魔物の侵入を防いでいるとのことです。言うまでも無いことですが、警備の兵士も常駐しているそうです。







 外周市では情報収集と消耗品の補充などに丸一日を使い、翌日の早朝に王都に向けて出発しました。既に王都に居るはずなのに、王都へ向かうという表現になってしまうのが面白いですね。


 ちなみに外周市から出ている王都行きの乗合馬車は、今回は使用しません。王都までの旅で懲りたから、というのもありますがそれは一番の理由ではなく、王都の森や草原などで入手できる獲物(採集物)をリサーチしたかったからです。要するに、食材の仕入れルートの確認ですね。


「王都は広いだろうとは思ってたけど、まさかこれほど深い森があるとはね。流石に予想外だったよ」


「森っていうより、魔物が居るって方が驚きじゃない? 壁の内側なのに」


 ――せーの、ほっ! どわあっ!


「これほど広い土地になると、魔物を完全に駆逐するのは事実上不可能なんじゃないかな。それに森や草原に居る動物の数を考えると、魔物化する個体も出てくるだろうしね」


「確かに獲物は多かったわね。……ああ、でも壁の内側だから基本精霊樹の魔力よね? それで魔物化したりするものなの?」


「どうだろう? 少なくとも僕には、街の中と外で魔力の性質の違いは感じられないんだけど……。鈴音は?」


「私も同じ。そういうのは舞依の分野でしょ。私たちの中で一番魔法適性が高いんだから」


 ――どこがあかんのやろ? ま、ええわ、もう一回! せ~のっ!


「え? ええと、はい、まあ……。街の中は魔力の属性や密度に偏りがなく、均一な印象です。街の外だとその逆で、かなり混沌としていますね」


 広い範囲で見ればその土地の自然によって、もっとピンポイントでは近くに居る魔物などの高い魔力を持つものによって属性や密度に偏りが生じるようです。しかもそれは割と流動性があって、その動きの速さも場所によって違いがあります。


 もしかすると世界全体で見ると、気流や海流のように魔力の潮流があるのかもしれませんね。


 あの、それはそれとして……、ですね。


「なるほど、精霊樹の魔力は秩序ローフルで、自然に任せると混沌カオティックになると。それは興味深いね」


「ローフル? カオティック? ……よく分からないけど、ゲーム思考はほどほどにね。それで? ここの獲物は食材に使えそうなの?」


「それは大丈夫。若干味の調整はするけど、問題ないと思うよ。むしろ問題はこの広さの方だね。街で営業するとして、食材の調達にここまで来るとなるといったいどのくらいの時間がかかるのか……」


「ふふ、王都の中だっていうのにね。まあ営業と調達を班分けするか、交互にやるしかないんじゃない。なにも大儲けしようなんて考えてるわけじゃないんでしょ? ところで、舞依はなんでヘンな顔してるの?」


「……ええと、久利栖くんは何をしてらっしゃるのでしょうか? あ、いえ、何をしているのかは見当が付くのですが、なぜあんなことをしてるのでしょうか?」


 鈴音さんはチラリと久利栖くんの方を見て溜息を吐いてから、秀くんに視線を向けます。それに対して秀くんは苦笑いを浮かべつつ肩を竦めるだけでした。


 現在地は広大な農村エリアにある湖の畔。森や草原などで採れた獲物を解体し簡単な調理をして、味見を兼ねた昼食を採るところです。


 こちらに来た当初を思い返すと、ずいぶんと逞しくなったものだなと自分たちのことながら感心してしまいますね。


 秀くんと私で調理をしつつ、王都での生活プランについての話し合いをしていたのですけれど――


 久利栖くんだけはちょっと離れた場所で、なにやら体操の練習を始めたのです。――まあ体操というか、いわゆるバク転(宙)ですね。


「まあ、何をしたいのかは大体分かるけど……、もうご飯が出来そうだからね」


 そう言って秀くんが久利栖くんを呼び、昼食となりました。








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