#01-03 無人島に上陸
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「着いた~っ! やっぱり地面は良い!」
島に近づくと、ちょうど手頃な砂浜が見えたのでそのまま上陸。両手を上げて思いっきり伸びをした。
筏の乗り心地も悪くないけど、多少の揺れはあるし、やっぱりなんとなく頼りない感じがして落ち着かない。人は大地で生きるようにできているのだ。――なんてね。
トランクを元に戻して、手元に引き寄せる。と、同時に新しい機能が解放されたことが分かった。
ほほー、テントモード。では早速、ポチッとな。
あ、変形機能は考えるだけでも、声で指示してもできるし、ハンドルのところにあるダイヤルとボタン――元はナンバーロックだった部分――でも操作ができる。ぶっちゃけボタンの方はただの飾りと言っても過言ではない。考えるだけの方が手っ取り早いし。
な~んかしおりの件といいコレといい、神様は結構お茶目なところがあるのかも。
トランクがにゅにゅっと大きな立方体に変形する。見た目はテントというよりもコンテナって感じかな? 出入り口は無く、触れて中に入ろうと思うだけでいいところは、トランクに収納する時と同じだ。
このテントモードにも色々機能があるみたいだけど、検証は夜になって寝る前でいいかな。まだ日も高いし、やりたいことは沢山ある。
改めて周囲を見回してみる。砂浜はそう広くは無くて、ざっと五〇メートルってところかな。そこから先は岩場になっている。
碧い海、白い砂浜、青空と白い雲、打ち寄せる波の音。ココだけ切り取れば、地球のリゾートと何も変わらない。気持ちのいい景色だ。
……ペットボトルとかの漂着物が見当たらないってところに異世界を感じたことが、なんかちょっとビミョ~。
そういえば前に皆で遊びに行った秀の家の――本家って言ってたから、正確には親戚かな?――別荘のプライベートビーチに雰囲気が似てる。
あの時は、ちょうどあんな感じの岩場で釣りにもチャレンジしたんだよね。勉強もスポーツもハイレベルでこなす秀は、アウトドアの定番である釣りまでもバッチリだった。本当に恐れ入る。その上イケメンで嫌味が無い。
アレがスパダリというものかっ! ま、私のダリじゃあないんだけど。
秀の指導が良かったのかビギナーズラックだったのか、釣果は素人としてはまあまあだった。ただ久利栖だけ坊主でしっかりオチを作ってたけど。
――餌のムシをめっちゃ怖がる舞依が可愛かったな~。
うん、また今度皆で釣りに行こう。
思い出に浸るのはこのくらいにして、視線をぐるっと反対側へ。
そっちには木々が生い茂っていて、結構深い手付かずの森っていう印象を受ける。ちなみに島の奥に向かって傾斜はあるけど、山っていう程の高さがないことは海から確認済みだ。
これはアレだね。年末とかの特番で、芸能人がサバイバル生活しそうな感じ。まごうこと無き無人島。きっと何かを手に入れたら「とったどー!」って言わなきゃいけない気になる――はず?
あ、無人島であることは最初から分かってた。序盤ガイドとでも言ったらいいのか、この無人島と最寄りの港町までの航路が、異世界転移のしおりに載ってたからね。
このしおりもかなりの優れモノで、調べたいことを考えながらページを捲るとその内容が現れるようになってた。ただそこまで詳しい情報は出てこない。恐らくこの世界の一般常識的なこと、街で聞き込みをすればすぐに分かることなら分かるようになってるんだと思う。まあ、単独転移特典とでも思っておこう。
さてさて。では問題。私が生き延びるために最初にすべきことは?
答えは、魔法を使えるようになる事。
サバイバルの鉄則であるシェルター・水・食料の確保は、トランクのお陰でほぼほぼ心配ない。
私が被災時の為にしていた用心は、救助されるまでの一~二日程度をあんまりひもじい思いをせずに乗り切る、っていうのが基本的なスタンスで食料についてもそう。それが毎日復活するわけだから、栄養バランスに目を瞑れば食料は確保できていると言っていい。
シェルターに関しては言わずもがな。
唯一の問題は水かな。水とスポドリ合わせて一日一リットルでは足りない。動き回ることを考えたら、間違いなく脱水症状になる。
これが元の世界での話なら水源を探したりしなきゃなんだけど、ここは異世界で魔法っていうステキ要素がある。これを使わない手は無いよね。
取り敢えずは水の確保の為に。それから戦闘時――魔物がいるし絶対に避けては通れないはず――の手札を増やす為に。
早急に魔法を覚えよう!
…………
その前にちょっと着替えておこうか。制服はどこにでも着て行けて便利だけど、サバイバルには向かないもんね。特にミニスカートと生足。
という訳で一旦テントの中へ。
制服からジャージに着替える。ちなみに学校指定のまあ可もなく不可もないデザインで、色は学年色の緑――っていうかモスグリーン。何とも言えない微妙な色だと思ってたけど、こういう状況になってみると意外と迷彩色っぽくていいかもしれない。
靴はもともとトレッキングブーツを履いてたから、そのままで大丈夫。
――考えてみると、制服って正装扱いでフォーマルな場にもOKなのに、どんな靴でも“合わない”って感じにはならないよね。スーツにスニーカーは変なのに。う~ん、ミステリー。
ついでにキャップも被っておこう。長い髪はヘアゴムで束ねてっと。
髪もね~。個人的にはこんな状況だし、短い方が楽だからバッサリ切っちゃっても良いんだけどな~。前に切ろうかなって言ったら、舞依だけじゃなくて皆が口を揃えて「それを切るなんてとんでもない!」って言うもんだからね。
ま、そんな事より今は魔法!
異世界転移のしおりによると、魔力を特定のパターンに変化させることで魔法という現象になるんだとか。
普通の習得手順としては、まずは教本などで理論を学び、魔法陣に魔力を流し、実際に発動させる。以上を反復練習して魔力のパターンを覚え、自然に発動できるようにする。――という感じらしい。
余談だけど、呪文の詠唱で魔法を発動する手法も一応ある――らしい。ただ特殊な言語を使うらしくて、魔法を専門に学ぶ学校で研究されているくらいで、全く一般的じゃあない。だから異世界転移のしおりからは、それ以上の詳細な情報を得られなかった。
さておき、慣れてくれば魔法陣を意識することなく魔法を発動させられるようになるらしい。逆を言えば、常に魔法陣が描いてある魔導書(?)を持ち歩いてれば、覚える必要もないってことだね。魔導書が手元にないと何もできなくなる危険性はあるけど。
ただこっちの世界の人は、杖とかアクセサリーとかの魔法発動体っていう補助具を使うのが一般的みたい。発動体に魔力を流すと効率よく魔法を構築できるらしい。魔法陣が記録されている物もあるのだとか。
特定のキーワードで魔力の吸い上げから魔法の構築まで自動的にやってくれるものもあって、中でも生活魔法と呼ばれる、火を点けたりコップ一杯の水を出したりそよ風を吹かせたりっていう、初歩的な魔法をセットにした発動体は、割と一般的に普及しているらしい。
庶民にとっては結構お高い物だけど、便利だから一家に一つはあるんだとか。――要するに家電みたいなものかな?
ちなみに殺傷能力があるほどの魔法を自在に使える人は(現在は)稀少で、大抵は騎士団や軍に所属しているらしい。
さて、それで肝心の魔法陣なんだけど――異世界転移のしおりには載ってない!
一般的な知識じゃあないってことなんだろうけど、そりゃあないよ神様。――と思いきや、ちゃんとフォローしてくれてた。
実は魔法適性が特に高い者なら、魔力をイメージで変化させて魔法として発動させることが出来るのだそうだ。そしてイメージが明確であるほど魔法の精度が上がり、使用する魔力を増やせば魔法の規模や威力が向上する。逆にイメージが明確じゃないと不発、最悪の場合は暴発する。
ただこの方法は自由度が高いけど燃費は悪い。効率という点に於いては、魔法陣で覚えた方に軍配が上がる。ちゃんと勉強するに越したことはない。
なお、これは魔法を専門に学ぶ学校や研究機関などで教えられることで、一般市民にはあまり知られていない技術とのこと。
さて、私はというと魔力量も魔法適性も神様の折り紙付きだ。イメージの方も一般的高校生レベルの科学知識はあるし、マンガ的なそれっぽい知識もそこそこあるから、まあなんとかなるでしょう。
ではでは。魔法訓練を始めますっ!(ちょっとテンション上がり気味)
ちょっと補足です。
主人公たちがキャンプをするのに制服を着ていたのは、集合場所が一般的なバスターミナルだったからです。目的地には風呂設備があるので、そこの脱衣所を更衣室代わりに着替える予定でした。