表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
69/399

#05-13 託されたもの




「っ! 精霊さん!?」


 やっぱり。精霊さんも精霊樹と同じように、その姿を光の粒へと徐々に変化させていた。


 精霊さんは両手を揃えて深々と頭を下げると、私と目を合わせて微笑んだ。――少なくとも私にはそう見えた。


 精霊さんが私の周りをくるりと一回りすると、精霊樹の幹の上へと移動する。


 そして両手を広げて「おいで」というような仕草をすると、さっきまで静霊樹だった光の粒が舞い上がり、螺旋を描いて精霊さんの周囲に集っていった。


『ありがとう』


 最期にたった一言だけ。


 その言葉を遺すと、精霊さんを中心に光りが固まり一瞬強い光が弾けた後には、手のひらに乗るくらいの丸いものが残っていた。


「おっと」


 自由落下する丸いものを、手を伸ばしてキャッチ。危ない危ない。精霊樹が消えちゃって地面に穴が開いてるからね。落っこちたら探すのが大変そうだ。


 手を開くと、コロンとした丸いものが現れる。


 色はアイボリー。表面はまるで濡れているみたいに艶があって、光の加減でゆらゆらと様々な色を反射している。


 一瞬卵かな? とも思ったけど、ほんのちょっと楕円で両端が尖ってる形からすると、これはきっと――


「精霊樹の種……かあ」


 緩やかに消滅を待つことしかできなかった精霊さんが、たまたま通りかかった私を見つけ、その魔力を借りて依り代である精霊樹と自らを種へと変化させた。――きっと、そういうことなんだろう。


 ただ消え去る事よりも、次代へ繋ぐことを精霊さんは選んだんだ。


 種を親指と人差し指で摘まみ、目の高さまで持ち上げてみる。


「もう、話せるんだったら最初からそうしてよね」


 本当は分かってる。話す力すら抑えて、種を生み出そうとしていたんだって。


 でもさ、コミカルでリアクションがオーバーな精霊さんとの通じて無いようで通じる対話が、結構楽しかったから。


 そんな風に冗談めかしてないとうっかり泣いてしまいそうで。


「あーもう! 夕日が目に沁みる!」







 おはようございます。


 昨日は精霊さんとのお別れでちょっとしんみりしちゃったけど、献杯をして、お腹一杯ご飯を食べて、ぐっすり眠って、メンタルは回復した。


 と、いうわけで王都へ向けて再出発――の前に。


 植木鉢を作らないとね! それもとびきりでかいヤツを。


 何しろ精霊樹の種だからね~。大きく育てるには器もでっかくないと。


 まず苗を育てて途中で植え替えるのが普通だとは思う。でも家庭果樹園での経験上、生育に魔力が重要なことは分かってるから、その受け皿となる土は沢山あった方がいいと思うんだよね。間違いなく精霊樹を育てるには、果物の木よりもずっと魔力が必要になるはず。


 ちなみに精霊樹の種なんていう超重要アイテムは、神様に返すか、為政者(国王)に譲渡して国家プロジェクトで育ててもらった方がいいんじゃないか――って、全く考えなかったわけじゃあない。


 前者はどこかの街か王都の精霊樹を訪ねればいいし、後者はミクワィア家を経由してどうにかできるだろうから手段はある。重要過ぎるアイテムは厄介ごとの元凶にもなるし、手放してしまった方が面倒はないだろうしね。


 しかし、それじゃあ面白くない!(←本音)


 ――コホン。そうではなく。


 精霊さんから直接託されたのだから、ここはやはり私が責任をもって育てるべきだと思う。そう、つまりこれは私に与えられた使命であり、精霊さんとの約束なのです。(←建前)


 では、ちゃっちゃと作っちゃいましょう!


 幸い建材だった石がそこら中にゴロゴロしてるから、これを魔法で洗浄してトランクに回収すれば、後は錬金釜で植木鉢に錬成するだけだ。土は精霊樹があった広場から集めればいいかな。


 作業中…… 作業中……


 錬金釜から錬成終了のメロディーが流れて植木鉢は完成! 思ったより石材集めに時間がかかっちゃったね。


 十分なスペースが有ることを確認して――うん、大丈夫そう。出来栄えはどんな感じかなーっと。


「おぉー……」


 直径三メートル、高さ二メートルの円柱。のっぺりした表面じゃ味気ないから、内部的には繋がっているけど石積みっぽいラインを彫ってある。デザインに拘ってみました。あと結構高さがあるから側面には階段を設置しておいた。植木鉢に階段って(笑)。


 ちょ……っと大きすぎた、かも? っていうかコレ、開口部と屋根を付けたらもう家だよ。


 ま、作り直すのも面倒だし、大きい分には問題無いか。うん。


 それじゃあ土を――の前に、底に石ころを敷き詰めておこうかな。余った石材を適当な大きさに砕いてバラ撒いてと。この大きさの植木鉢(?)で水はけとか関係あるかな? とは思うけど一応ね。ちなみに底の穴はちゃんあります。植木鉢ですから。――よし、こんなもんかな。


 土をごっそり魔法で移動させて、さらに攪拌して巻き込んだ雑草とか枝とか落ち葉とかを粉砕する。よし、ふかふかな土が植木鉢いっぱいに入った。


 では種を――うわ、足が埋ま(ズボ)る! スケーターでならいけるかな? あ、やっぱり埋まらない。これならきっとスノーボード代わりにもなるね。


 植木鉢の真ん中辺りに穴を掘って取り出した種を置き、そっと土をかぶせる。


 植木鉢の縁に戻り、魔法で水を雨のように振らせると同時に魔力も大量に注いでおく。虹が綺麗だね~。


 …………


 こんなもんでいいかな? 水遣りはともかく、魔力はどの位のペースで吸い取られるのか要観察かな。


 それじゃあ植木鉢をトランクにしまったら旅を再開しよう。








ここまでで五章は終了。

六章に移る前に閑話を数話挟みます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ