#05-12 廃村
精霊さんの案内で森の中をスケーターでひた走る。魔物なんて無視無視! 幸いここらで一番強かったクマは斃したから、厄介そうな魔物の気配は無い。
精霊さんはスケーターのトランク部分に座って――座って? で良いと思う、たぶん。ともかく進む方向をずっと指差してくれてる。ちょっとナビっぽい。
そうやって走ること小一時間。
「ここは……」
半ば崩れ落ちている二本の柱に、朽ち落ちてコケや木々に埋もれている壁らしきものの跡。足元をブーツで軽く掘ってみると、石畳の痕跡も現れた。
村の跡、だね。恐らく千年前の大災厄の時、魔物の暴走に呑み込まれて滅びてしまった。
村の入り口らしき二本の柱の前に立ち、手を合わせる。
千年も昔のこととは言え、死者の眠る地に足を踏み入れるわけだから、まあ礼儀というか心情的なものというか、そんな感じかな。
――そう言えば前の世界に居た頃にも、何か所か遺跡の類に行ったことがあるけど、こんな気持ちにはならなかった。何でだろう? 観光地化してたからかな?
よし、お祈り終わり。
「お邪魔しまーす。……で、精霊さん。ココがゴール……じゃあないみたいね」
私が村に足を踏み入れるのを待っていたかのように、精霊さんがふよふよと進んで行く。
あれ、精霊さんの存在感が強くなってきてる?
気のせい――じゃあないね。朧げなてるてる坊主でしかなかった光のディテールが少しずつハッキリしてきて、三頭身くらいのワンピースを着た人型へと変化していった。ちなみに服装と髪形は女の子っぽい。
力が増してきてる……? いや、そうじゃない、逆なのか。もともとこの村に居た精霊さんで無理に遠出したから、あんなに薄くなっちゃったんだろう。つまりこっちの方が本来の姿ってことね。
遺跡となった村の通りを歩き、かつて中央の広場だったであろう場所に着いた。
ほぼほぼ森に呑み込まれている村の跡地で、ここだけは木々の浸食を受けずに明るい日が差し込んでいる。そして何処か清涼な空気感の中、ひっそりと佇んでいるのは。
中ほどで折れていながらもなお、大地に根を張り息づいている――
精霊樹だった。
「精霊樹……。キミはここから生まれた精霊なんだね」
コクコク
「それで私に何かして欲しいんだよね? 何をすればいいの?」
コクコクコクコク
だからヘドバンはしなくてもいいってば(笑)。
えーっと、精霊樹に向かって? 両手を伸ばして――押す? 精霊樹を動かしたいってこと? 違う? 押したって動かない。そりゃあそうだ。――いや、身体強化をフルパワーでかければ或いは……って、そうじゃなくて。
押すんじゃなくて、気合を入れる? 近い? なになに、今度は新しいジェスチャーだね。精霊樹に……、水をあげてるのかな? 正解? オッケー。で、水じゃなくて、私の中からあげる? あ、もしかして魔力?
「精霊樹に魔力を注ぎ込んで欲しいの?」
大正解! パチパチ~ ハイターッチ!
精霊との意思疎通に成功した! ……って、はしゃいでる場合じゃない。
「精霊さん。私が魔力を注ぎ込んだとしても、この精霊樹はもう……」
私の魔力は膨大だ。この世界の人達だけじゃなく、鈴木君たちとも(一方的に)会って分かったけど、もはや人間の枠からはみ出しているレベルっぽい。ショタ神様が軽~く「神になれば」なんて言ってたけど、それもあながち不可能じゃないかもって思える程に。――怖い話だけど。
その魔力を限界まで注ぎ込んだとしても、この精霊樹を蘇らせることはできないだろう。精霊さんもそうだけど、精霊樹も辛うじてまだ生きているという状態だ。ノウアイラで見た精霊樹の力強さ、神々しさとは比べるべくもないほどに儚い力しか感じられない。
「年単位の延命は出来るかもしれないけど……」
残念だけど、私には舞依たちと早く合流するっていう目標がある。ずっとここに付きっきりでいられるわけじゃないんだ。
フルフル ジ~~ッ
う~ん、延命を望んでるわけじゃないってこと? それでも魔力を注いでほしい?
何をしたいのかは分からないけど、そこまで真剣に頼まれておいて断るなんて、乙女が廃るってもんよね。
「分かったよ。出来る限りはやってみるから」
ペコリ
ハイテンションに喜ぶかと思ったら、深々と頭を下げられてしまった。
なんだろう。ディフォルメされた顔には点のような目が二つあるだけで、表情はまるで読み取れないはずなのに。
なぜだか精霊さんが泣き笑いをしているように見えた。
…………
魔力を注ぎ続けて、もうかれこれ三時間は経つ。
想像してたよりも時間がかかってるから、途中いったん休憩を挟んでからはトランクの上に座りながら作業を続けている。
作業って言っても魔量を放出するだけでしょって? いやいや、そうでもないのよ、これが。
普通に放出するだけだと、周りに拡散しちゃう魔力の方が多いんだよね。だから意識的に魔力を精霊樹に押し込まないといけないし、あんまり作業スピードも上げられないってわけ。
それにしてもいつまで魔力を注ぎ込めばいいのやら。体感的に魔力残量は半分――いや四割は切ってるかな。日も傾き始めてるし、今日はこの村でキャンプかな。
「……あれ?」
これまで押し込んでいた魔力が、唐突に精霊樹をすり抜けた。階段があともう一段あると思って踏み出したら実は無くてガクンとする――あんな感じを受けて慌てて魔力を止める。
「一体何が……」
精霊樹の表面が光を放っている。
ううん、違う。精霊樹が表面から少しずつ光の粒に変わってるんだ。
ということは……っ!