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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-11 謎の光と、その正体




 さてと、ちょうど木を何本か倒して上が開けたから、ここら辺の地形でも確認しておこう。


 無人島でやってたトランクエレベーターで森の天井を抜けてと。


「お~……。いつの間にこんなところまで……」


ドゥズールの街が遠くに霞んで見える。森の中は見通しが悪いし、登ったり下ったりを繰り返すからイマイチピンとこなかったけど、こうやって見ると大分登ってたのが良く分かる。


 で、今後の進路はっと。


 まだまだ登りは続きそうかな。地図によると山脈の尾根を越えれば峡谷地帯が見えてくるはずだ。森を抜けて岩だらけの山肌に出ればスケーターを飛ばせるから、ペースも上げられるだろう。


 確認終わり。じゃあ地上に戻って――の前に。


 ここでご飯にしよう。時間もお昼時だし、明るいし眺めも良いし風も気持ちいい。ランチにぴったりのポジションだからね。


 さて、今日のランチはっと。バゲットサンドに……、ゴロゴロ野菜のスープをマグカップに入れて……、あとはなにかデザートにフルーツでいいかな。


 では、いただきまーす。


 ムシャリ。うん、なかなかイケる(自画自賛)。なにしろ無人島産のアボカド、タマネギ、トマトに、イノシシ肉の自家製ベーコンをたっぷり挟んだ贅沢サンドイッチだからね! ただレタスが無い。どこかに居ないかな? レタスの魔物。


 ベーコンもなかなか良い出来。スロットの時間加速で塩漬けと塩抜きを時短できるから、加工が超お手軽だった。神様トランク、今日もありがとう。


 時間加速を使えば長期熟成も楽ちんだから生ハムも作れると思うんだけど、あれって骨付きモモ肉をベーコンに似た手順で下処理して長~い時間放置――で良かったんだっけ? 正確な作り方が分からないんだけど、シカ肉は余り気味だし実験してみようかな?


 なんてことをつらつらと考えつつスープを飲もうと、パン皿やマグカップが置いてある左手に視線を動かすと。




 ――ぼんやりと光る何かが、そこに居た。




 取り敢えずトランクの中に退避!


 ふぅ。これでひとまずは安心だね。手に持ったままだったサンドイッチを一口ムシャリ。……うん、ちょっと落ち着いた。


 乳白色のトランク内空間でウィンドウを開いて様子を窺うと、光る何かはそこにフヨフヨと漂ったままだった。――っていうか、ちょっとキョロキョロ、オロオロしてる感じかな?


 そう、落ち着いて改めて観察すると、光は何となーく人型っぽい形をしてるようにも見えて来た。って言っても極端にディフォルメされてて、強いて言えばてるてる坊主に似てる。


 だから私がトランク内に引っ込んでしまって困ってる風なのは、仕草から読み取れるんだけど――問題はそこじゃあない。


 あんなに近くに居たっていうのに、全く気付けなかったってところだ。


 確かにのんびりお昼ご飯を食べてて緊張感は皆無だったけど、常時展開させている探知魔法にも引っ掛かっていない。


 なんだろう、あの光は……? 害意は無さそうだけど。


 …………


 う~ん、サンドイッチを食べ終わっちゃってもまだ立ち去る様子は無いし、ここにずっといてもしょうがない。出てみるしかないね。警戒は怠らずにっと。


 すぐに動けるように立ち膝でトランクの上へ。謎の光と向き合う。


 特に襲い掛かってくる様子は……ない。全く無い。だけじゃなくて上下にフヨフヨ動いたあとクルクルと回転して、とても嬉しそう――な気がする。


 な、なんか警戒する必要は無さそうだね。取り敢えず冷めたスープを魔法で温め直して食べてしまおう。


 ……ごちそうさまでした。


 さて、ちょっと逃避気味にスルーを決め込んでたんだけど、居なくなる様子は無いし、ちゃんと向き合いますか。この謎の光に。


 う~ん、やっぱり魔力は感じない。いや、魔力がどうとかよりも存在自体が凄く希薄で、間近に居るのに気配がほとんど無い。一応光ってはいるけど、うすぼんやりとした靄みたいで、手で払うだけで散ってしまいそうだ。やらないけど。――フリじゃないよ?


 あ、でも魔力とは違う何かをほんのちょっとだけ感じる。この感じ、どこだったかな? こんなうっすーい気配じゃなくて、もっとその場が満たされていたような――あ、ショタ神様のところだ。


 ってことは、この気配は神気? じゃあこの謎の光は、もしかして神様なの? こんなに弱弱しいのに?


 いやいや、それはおかしい。神様が現世に直接姿を現したのは歴史上、片手の指で足りる程の数しかない――と、教科書に載っていた。こんな森の中で偶然出くわすなんて……、ねえ? そんなのはクマさんくらいにして欲しい。できれば可愛いのをプリーズ。


 ちなみに神託を下す時は巫女や精霊を介して行うらしく、こっちは割と頻繁に――特に巫女が神様のお気に入りだったりすると――ある事なんだとか。


 あ、精霊っていう可能性はあるのか。


 精霊は光の球にしか見えないものから、動物や人間のような姿の実体を持つものまで様々だ。概ね実体を持ち人に近い姿をしている方が高位の精霊で、さらに力を付けて格を上げると下級神になるらしい。――神代言語情報より。


「えーっと、キミは精霊さんってことでいいのかな?」


 コクコクコクコク


「いや、そんなヘッドバンギングみたいに激しく頷かないで良いから……」


 すると今度はクルクル~っと回り出した。全身で喜びを表現してるのかな? 精霊だと理解して貰えて嬉しいって感じがする。


 うん、ちょっと可愛く思えて来た。


「やっぱり、私に何か用があるんだよね?」


 ピタリ コクリ クイックイッ


 止まって、頷く。うん、用事はあると。で? 体を前後に振ってる? ダンスでもしたいの? 違う? まあ違うよね。


 うーん……


 あ、こっちから見るとよく分からないのか。角度を変えると――ああ、やっぱり。てるてる坊主のポンチョ部分から短い手がちょっとだけ出て、森の中を指差してる。短すぎて方向くらいしか分からないけど。


 まあ、要するに。


「私に来て欲しい場所がある……ってことでいい?」


 コクコク クルクル~ バンザーイバンザーイ


「ハイハイ、分かった分かった。じゃあ道案内よろしくね」


 いったいどこに行くのかだとか、そこで何をして欲しいのかだとか、そんな野暮なことは聞かない。


 だって精霊さんからのお誘いだよ? そんな珍しいことに出遭ったら。


 そりゃもう、飛び込むしかないでしょう!








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