#05-10 ある~日♪ 森の中~♪
森の中、木々をスイスイと避けてスケーターを走らせる。
おっと、傾斜の付いた倒木が。
「ほっ!」
スケーターごと倒木の上にジャンプ! からの、ボードを横にして滑り降りて、終端付近で再びジャンプ! オッケー、ナイス着地。
ただ今、アクロバティックな技を駆使して森の中をスケーターで逃走中。スケーターに念動の魔法をかけて姿勢制御を補助してるから、純粋な技じゃあないけど。
ちなみに技のネタはオ〇ンピックの中継――ではなく、最近永遠の小学生になりつつある名探偵な坊やの劇場版ね。原作コミックスには全然触れてないしテレビアニメもちょっと見たことがあるだけなのに、何故か劇場版は何作か観てるんだよね。そういう人いない? いるよね?
推理要素の方はさておき――そっちが本筋? ハハハ、ご冗談を――あの後先考えないド派手な爆破と、主人公の無茶なスケボーアクションが楽しみで、思わず映画館に行ってしまうという……。
で、追っかけてきてたサル軍団は……っと。よし、振り切れた。
それにしても森の奥はうんざりするほど魔物がいるね!
あのサル型は一〇~二〇体くらいの群れで襲ってくるからとにかく面倒臭い。ギーというかギャァーというか鳴き声も不快だし。そう頻繁に遭遇しないとこだけが救いかな。他に群れで襲ってくるのはオオカミ型。遭遇率についても似たような感じ。
逆にシカ型とイノシシ型はちょくちょく出くわす。こっちは概ね単体で来るし美味しいお肉が獲れるから、襲ってきたら大体返り討ちにしてトランクの中へ。
――とは言え、もうお肉も山ほどあるんだよね~。特殊スロットで増やさなくても売るほどある。時間を止めてるから悪くはならないけど、この過剰な在庫はどうしようか? みんなと合流したら、ジビエ焼き肉屋でも始めよっか。秀に焼き肉のたれを作って貰えば案外イケるかも?
ま、その辺は将来設計を皆で考えないとね。
森の魔物は他にもキツネ型、タヌキ型、イタチ型、リス型、コウモリ型、フクロウ型、ヘビ型、トカゲ型、カメ型、カマキリ型、クモ型、サソリ型……などなど。挙げていけばキリがないほど多種多様な魔物が居る。
ちなみに普通の動物は森の外縁部にはいたけど、ある程度奥に入るといなくなった。たぶん魔力が濃くなるから、普通の動物も魔物化しちゃうんだろうね。
最初の内は鍛錬も兼ねて襲ってきた魔物は斃して進んでたんだけど、さすがに面倒臭くなってきちゃって、このところは肉や毛皮なんかが獲れそうなの以外は基本スルーの方針に変えた。
ただスルーしようにもできない魔物っていうのも中にはいるわけで。――例えばこの先に居るヤツとかね。
この辺の他の魔物と比較しても、段違いに魔力反応が大きくて体もデカイ。こういうのは素早いしスタミナもあるから、一度目を付けられると振り切るのは難しい。――いや、出来なくはないんだけど、振り切る面倒臭さを考えると斃していった方がむしろ楽っていうね。
さて、どんな魔物かな?
ズザザーッとスケーターを横に滑らせるようにして停まり、ハンマーにモードチェンジして構える。
身構えて低い唸り声を上げる巨体は――
「おぉー、森の~クマさ~ん……」
花も咲いてないし道でもないけど、森でクマさんに出会ってしまった。
そう言えばクマ型の魔物とは初遭遇だ。個体数が少ないのかな?
ちなみに動物の方の熊は森の外縁部で何度か見かけた。ただ基本動物は軽く魔力を放出して脅かすと逃げるから、全部スルーしてる。まあ、街の狩人の獲物を私たちみたいなイレギュラーが横取りするのもね。
クマさんなんて言ったけど、間違っても落としたイヤリングを拾ってくれそうな可愛らしいもんじゃあない。
二本足で立ち、ちょっと猫背で体高は二メートル半ってとこかな。動物の熊よりも脚がやや長く、腕はもっと長い。それから針のように太く尖った毛が頭頂部辺りから一列、鬣のように生えてる。キラキラしてるから、アレが魔法発動体かな?
ジャキン! と、音は鳴らなかったけどそんな感じで両手の爪が伸びて、こちらに向けて何やらワキワキと動かす。さしずめ「どう料理してやろうか?」って感じかな?
フハハハハ、残念だったな。料理されるのはキサマの――って、うわっ、危なっ!
砲弾のように飛び掛かかって来たクマさんが、振りかぶった両手を交差するように振る。それをバックステップで回避しつつ、更に近くに合った大木の後ろに一旦身を隠した。
ちょっとクマさんや。こういう時は大きく咆哮するとかニヤァッと口を開くとか、何か前振りをするのが様式美ってものでしょ? 人の魔王風台詞(内心)を遮って、いきなり襲ってくるのはいかがなものか。
なんて冗談はさておき。
暫く様子見で躱したりシールドで受け止めたりしてみたけど、このクマさん、なかなかやる。パワーもスピードもあるし、魔力を乗せた爪の攻撃は間合いがかなり伸びて危ない。直径が一メートルくらいある木を一撃ですっぱり伐るとはね。ちょっとびっくり。
しかし、ヤツの攻撃は全て見切った!(ドヤ顔)
――っていうかまあ、やっぱりちゃんと鍛錬した人間では無いからね。身体能力や魔力がどれだけ高くても、攻撃パターンは単調で対処は難しくない。特にこのクマなんかは地元――もとい、ここら一帯じゃ負け知らずだろうから、基本一撃必殺の攻撃しかない。それで済んじゃうから。
魔物は知能が高いって話だから実力のある人間相手に武者修行すれば、もしかするとフェイントや緩急なんかも覚えて数段強くなる可能性もある――のかも? それはそれで興味深い。
このクマさんにその機会はあげないけど。
最初に見た両手での斬撃を、カウンター気味に下から振り上げたハンマーの柄で弾き飛ばし、そのまま電撃を付与しておいた本体で顎をかち上げる。動きが止まったクマさんの懐に魔力を込めた踏み込みで瞬時に潜り込み、手元に取り出した刀で首を斬り落とす。即座に収納して時間も止めれば、万事オッケー。
トランクは鈍器だから、これで止めを刺そうとすると頭を潰すか首を折るかくらいしかないところがちょっと不便なんだよね。
首はある程度長くないと狙えないし、頭の方は牙とか角もろとも粉砕しちゃう可能性が高い。特に角・牙・額の宝石(っぽいもの)とか、頭についてるものは魔法発動体の場合が多いし、それを壊すなんてとんでもない。
そんなわけで、もっぱら止めを刺すのは刀の出番になっている。
……クマさんよ、安らかに(黙祷)。