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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-08 ドゥズールに到着。……からのスルー!




 特に問題もなくドゥズールに到着!


 ――したんだけど、なんだろう? 様子がおかしい。


 巨大な壁が延々と続く光景はノウアイラと変わらない。壁が大きすぎるせいで、間近で見れば十分大きな門がちんまりして見えるのも一緒ね。門番さんから簡単な審査――来訪理由を言うくらいで、特に証明は必要ない――を受けて街の中へ入るところまでは普通だったんだけど。


 外壁を貫くトンネルを抜けると、道の両脇に人の列が続いていた。


 いや~、こんなに歓迎されるとはね――なんて。この様子からすると、私じゃない誰かを歓迎するためって感じではあるけどね。


 ともかく話を聞いてみよう。


 こういう時は話し好きで人の良さそうなオバちゃんが最適。気を付けないといけないのは、離脱のタイミングを逃すと延々と話が続きかねない点ね。ココ、重要なので、よく覚えておくように。


「あの、ちょっと聞いてもいいですか? 旅の途中で立ち寄ったんですが、これは一体何の騒ぎなんでしょう?」


「旅人? あんたみたいな娘っ子が一人でかい?」


「そこはちょっと訳あり、ということで。それで……」


「ああ、この集まりの理由ね。そりゃああんた、噂の勇者様の顔を拝みに集まったに決まってるさね。……おっと、旅人じゃあ勇者様の話は知らないか」


「野営地でそんな噂は聞きましたけど、本当だったんですね」


 オバちゃんの話によれば、なんでも厄介な魔物が街の付近に現れ、狩人やキャラバンに被害を出すようになったを憂慮した勇者様が、騎士の部隊を率いて討伐に向かったのだとか。


 で、首尾よく討伐に成功したという報告が昨夜届き、そろそろ本隊も帰還する予定なので、噂の勇者様を一目見ようと見物人(野次馬)が集まりこの騒ぎになったと。


 ――これはまた、何とも絶妙なタイミングだね。ちょうどいいから、勇者様が誰なのかを確認しておこう。


 オバちゃんとの話を適当なところで切り上げて人ごみに紛れ、ローブに施してある認識阻害の付与魔法を起動する。よし、人の目が逸れたね。ちゃんと機能している。


 この付与魔法は、見た者が対象に興味を失い印象に残らないよう神代言語で記述している。神代言語は文字も酷く難解かつ繊細だから、正直めちゃくちゃ疲れた。自在に使いこなせるようになるのはまだまだ先だね。


 見物客の中から見るのは面倒だから――適当な家の屋根の上でも借りるとしよう。お邪魔しまーす(無言かつ無断で)。


 門から続く街道から少し離れたところにある民家の屋根の上にひらりとジャンプ。魔法で埃を吹き飛ばし、街道とは反対側の方に腹ばいになって、頭だけを天辺から出す。


 それにしても盛況だねぇ。見物客の列は街道の両側に前後二~三列でかなり長く続いてて、さながらテーマパークのパレード待ちって感じだね。コーラにポップコーン、細長いドーナッツとかのスタンドがどこかにあるのかも(笑)。


 勇者様はアイドルかなんかなのかな?


 ――ん? 探知魔法に強い反応が五つと、あとはワガリー商会の副長さんよりもちょっと小さいくらいの反応が四つ引っ掛かった。きっとこれだね。


 五つの強い反応は、こっちの世界で出会った誰よりも魔力が大きい。五人の中で一番小さい反応でも、会頭ドルガポーさんを軽く凌駕してる。保有量と一度に使いこなせる量は違うけど、それでも一対一で真っ向からぶつかれば、技術に多少の差があってもゴリ押し+持久戦で楽勝だろう。


 あ、探知魔法に気付かれるかな? 念の為しばらく切っておこう。


 ちなみにアクティブな探知魔法を使わなくても、人や魔物の発する魔力を感じることはできる。ただ当たり前だけど範囲は狭いし、自然に放出されている魔力を意識的に止められちゃうと、余程近づかない限り感じ取ることができないから、確実性には欠ける。


 あ、私は常に魔力の放出を抑えてるよ? なにせ私の魔力はバカ高い。そうしないと威圧感にも似た凄い存在感になっちゃうからね。


 屋根の上で日向ぼっこをしつつのんびりぼんやりしていると、不意に歓声が上がった。


 いよいよお出ましだね。どれどれ、勇者様はクラスメイトの誰かな~っと。


「ビンゴ……」


 思わず声に出ちゃったよ。まあ、うん。予想通り鈴木君たちのグループだった。


 ともかくクラスメイトの無事が確認できたのは喜ばしい。変な対抗意識を(主に秀が)持たれてたとはいえ、居なくなって清々するとか死ねばいいのにとか、そんなことは全然思ってないので。


 それにしてもまあ、すっかり祀り上げられちゃってるね。


 銀色の鎧に紋章付きのマントの勇者に、清楚なローブの聖女の二人が並んで先頭を歩き、歓迎する声に笑顔で手を振って応えている。後ろに続く剣士と賢者は少しリアクション抑え目で、忍者――世界観的にはレンジャーかな?――はピョンピョン跳ねるようにアピールしてこの状況を楽しんでる。


 その後には荷馬車が続き、荷台には大きな魔物の死体がデデンと乗っかっている。ちなみに見た目は巨大蟹。鋭いノコギリ状の刃が付いた鋏はなかなか凶悪だ。


 荷馬車は二台あって、一方には蟹が丸ごと、もう一方には鋏(腕)だけが沢山乗っている。民衆へのパフォーマンスの為と、斃した数の証明ってことなんだろうね。決して鋏を(巨大)フライにして食べようってわけじゃあない。――たぶん。


 ミクワィア家と野営地で聞いた話では、ドゥズールの領主は周辺の魔物の駆除に力を入れているって話だから、こうやって成果を民衆に知らしめるのは重要なんだろう。


 そういう意味では鈴木君たちのグループは広告塔にうってつけだ。それぞれ見栄えは良いし、魔力で圧倒できるだけの強さもある。彼らが活躍するなり青田買いした貴族は、なかなか先見の明があるんじゃないかな。こうして上手に偶像アイドル化してるわけだしね。


 それは同時に油断ならない相手ってことだから、取り込まれるのは危ういと思うんだけど――それは私が考えることじゃないか。


 ともあれ、ドゥズールの勇者の正体は判明した。


 彼らとは正直鉢合わせしたくない。ってわけで、この街はスルーに決定!


 せっかくだから観光したいとも思うんだけど、何しろ私は――っていうかトランクが目立つからね。彼らの耳に入る危険性は大きい。


 え? 私自身の行動もかなり目立つ?


 おかしいな……? 自分ではそんなことないと思うんだけど、舞依たちによく言われるし、そう言えばミクワィア家でも似たようなことを言われたんだよね。


 うーん、ミステリー。


 ま、いずれにせよここは安全策を取ることにしましょ。


 勇者様御一行が通り過ぎてざわめきの余韻が続く中、私はこっそりと、少し前に入ったばかりの門から外に出て、来たばかりのドゥズールを後にした。








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