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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-07 ウチのクラスの勇者パーティー?




 見張りの時間を終えテント(モードのトランク)の中に引っ込んだ私は、お風呂で汗を流してから寝間着代わりのTシャツとショートパンツに着替え、自分自身をトランクに収納した。


 ノウアイラでベッドを買おうかとも思ったんだけどね。正直言って、割といいお値段がする割に品質は然程良くないから止めておいた。みんなと合流してどこか拠点になる家でも買ったら、その時にじっくり吟味して良いものを買おう。


 ダブルベッドの方がいいかな? 舞依と相談しないとね。


 ――なんて妄想はさておき。


 日課である特殊スロットを活用した消耗品の補充(増殖)作業をしつつ、さっき仕入れた噂に関して思いを巡らせる。


「ドゥズールの勇者、ねえ……」


 う~ん……。正直、心当たりはある。残念なことに。


 恐らく鈴木君がリーダーのグループだろう。校外学習でも一緒の班を作ってたし。


 ええと確か鈴木 勇樹ゆうき、佐藤 武蔵むさし、高橋 けんの男子三人と、増田 聖羅せいら、田中 しのぶの女子二人だった。


 あんまり大きな声では言えないけど、私はさほど親しくないクライメイトだと下の名前を覚えてない――こともある。ああ、苗字はちゃんと全員覚えてるよ。


 じゃあ彼らのグループとは親しかったのかっていうと、答えは否。


 交流はほぼほぼ無いし、どっちかって言うと対立――は正確じゃないか。対抗意識を持たれてた(・・・・・)、がより実態に近い表現かな? なんていうか、微妙な緊張感のある関係だったんだよね。


 それなのに下の名前を憶えているのは、名前が特徴的だったからに他ならない。何しろ勇者(勇樹)、聖女(聖羅)、剣士(武蔵)、忍者(忍)、賢者(賢)と五人揃って勇者パーティーの出来上がり! 名前とは逆に苗字がありふれているギャップも特徴的だしね。って、それはちょっと失礼か。申し訳ない。


 五人は幼馴染同士だって話だし、子供の頃にそういうごっこ遊びをしていたとしても不思議じゃあない。


 まあ彼らかどうかはさておき、クラスメイトのグループであるんだろう。ドゥズールの勇者なるパーティーが軍に入隊した時期も、私たちがこっちの世界に飛ばされてきた時期と符合するし、こっちでは高い能力になるらしいからね。


 酔った勢いでうっかり口を滑らした後、そう誤魔化したっていう可能性もあるから、断定はできない。何しろ私たちは勇者召喚されたようなものだから、そんなことを口走るのもありそうな話だ。


 本音を言えば鈴木君のグループとは顔を合わせたくない。でも仲の良かったクラスメイトなら、ちょっと近況を話すくらいはしたいところなんだけど。


 これはどうしたものかなぁ~。


 …………


 ま、いいか。彼らと決まったわけじゃあないし、どうせドゥズールは通り道だからね。


 今日のところは寝ちゃおう。おやすみなさ~い。




 おはようございます。


 目が覚めて朝のルーティーンをこなして外に出ると、野営地で夜を過ごした他の人たちも出発の支度をしていた。


 キャラバンの朝は早い。基本的に夜が明ければ起床して、軽い朝食を採ったら出発する。そうして先を急ぎ、なるべく日の出ている内に次の野営地に入るのが理想だ。


 ま、魔物に遭遇したり、盗賊に襲われたり、道が通れなくなってたり、馬車が壊れてしまったりと、なかなか思うようにはいかないものみたいだけど。


「世話になったな、お嬢ちゃん」


「いえ、こちらこそ。いい経験をさせてもらいました」


 副長さんの傍らにいるランドワイバーンの首筋を撫でると、猫のように目を細めて喉を鳴らす。うん、モフモフじゃなくてもこれはこれで可愛い。


「本当に一人で行くつもりなの? 私たちと一緒の方が安全だと思うけど……」


「有難い話ですけど……、先を急ぎたいですし大抵の魔物なら振り切れるので大丈夫ですよ」


 振り切るというか、蹴散らせるからね。心配してくれるアンナさんには申し訳ないけど、馬車のスピードに付き合うメリットが全く無い。


「あー、そう言えば結構スピードが出てたわよね……」


 あっはっは。アンナさん、そんな胡乱な目でトランクを見ないで欲しいなぁ。


 まあ、現状でもかなり理不尽な性能だし、まだ開放して無い機能もありそうだから無理もないけど。


 魔道具だっていう誤魔化しもいつまで通用するやら(たぶん既に通用していない)。


「ハァイ、レイナ! あなたももう出発?」


「リディ、おはよう。うん、そろそろ出るよ。王都はまだまだ遠いから急がないとね」


 昨夜は飛び入りセッションの後で、一座の人達の前でも演奏をしてリディとはすっかり打ち解けた。なんか妙に演奏の相性が良かったっていうか、ウマが合ったっていうか、そんな感じだったんだよね。


 正直、かなり年上のリディとタメ口っていうのは微妙に居心地が悪いんだけど、リディがそうしてくれって言うからね。


「そう言えば、王都で仲間と合流した後はどうするつもりなの? あなたの演奏と歌なら、王都でも稼げるわよ?」


「あはは、ありがとう。……先のことはまだ分からないけど、世界を見て回りたいかな」


 せっかくこっちの世界に来たんだからね。いずれはどこかに定住するにしても、その前に沢山のものを見てみたい。


「世界かぁ……、それは良いわね。じゃあどこかの街で会うことがあったら、その時はまたセッションしましょう」


「ええ、その時はぜひ」


 リディ、アンナさん、副長さんとそれぞれ握手を交わす。こういうちょっとした交流は旅の醍醐味だよね。いつか再会できることを、それまでお互いに元気であることを祈ろう。







 スケーターモードがあるから殊更使う必要はないんだけど、折角解放された機能だから馬車モードを試してみると、これが案外使える。舞依たちと合流するまで使い道はないと思ってたのにね。


 スケーターは小回りが利いて便利だけど、立ってハンドルを握った姿勢で乗る必要があるから、基本手が塞がってる。


 それが馬車モードだと筏モードと同じように座った状態で動かせる。つまりお昼ご飯の時とか喉が渇いた時とかに、わざわざ止まる必要が無い。あと暇つぶしに本を読みながら走ることなんかもできる。超便利。


 馬車モード用の椅子も作ってみました。椅子っていうか座椅子? アウトドア用の椅子で膝を立てて座るようなのがあるでしょ。あんな感じ。なお、相変わらず分解機能はありません。


 お陰で移動がかなり快適になったし、ペースも上がった。休憩なしのぶっ通しで走れるのは大きい。小回りが利かなくても街道を走る分には問題無いしね。


 ただ問題もないわけじゃあない。それは――


 シュールさが爆上がりしたのです!


 …………


 いや、笑い事じゃなくて。


 想像してみて欲しい、勝手に走る軽四輪サイズのトランクと道ですれ違うところを。さらにその上には座椅子に座って本を読む、或いはご飯を食べてる人が居るんだから。しかもそれが高速道路だったりしたら、それはもはやホラーかコントだろう。


 というわけで、キャラバンとすれ違う時にはスケーターにしています。悪目立ちする必要も無いしね。


 さて、ドゥズールはまだかな~。







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