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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-04 異世界結婚事情




 ランドワイバーンの首すじに手を伸ばしてぴとりと触れてみる。


 おお~


 ゴツゴツしてるかと思いきや、割としっとりしなやかな感触がする。水族館のイベントでニシキヘビに触ったことはあるんだけど、その感触にちょっと似てるかも? 鱗のサイズは全然違うけどね。


 ちなみに私は爬虫類とか両生類とかに特に嫌悪感は無い。舞依は蛙とか両生類系のヌルッとしたのが苦手だったかな。鈴音は蛇が苦手を超えて生理的に無理らしい。


 そう言えば、秀と久利栖とはそういう話をしたことが無かったな。まあ秀は苦手なものがあっても顔には出さないだろうけどね。逆に久利栖は大袈裟に、若干わざとらしく嫌がって誤魔化そうとすると思う。


 それにしてもこの子は本当に大人しいな。顔はいかついけど、撫でると目を細めてグルグル喉を鳴らして、なんか妙に猫っぽい。ちょっと可愛く見えてくる。


「へぇ……、お嬢ちゃんは気に入られたみたいだな」


「初めての相手にこういう反応をするのは珍しいですね。私の時なんて……」


「そりゃあお前の腰が引けてたからだ。こいつらだっておっかなびっくり乗る奴にゃあ、手綱を預けたくないだろ」


「……まあ、今はちゃんとわかってますよ」


 それからまずはアンナさんとタンデムで、慣れてからは一人で乗せてもらった。流石に野営地の中では走り回れないから、副長さんに付き合って貰って野営地の外をぐるっと何周か走らせてみた。


 いや~、すごい面白かった! 貴重な体験だったよ!


 見た目の印象もあって、馬とは違う力強さというか荒々しさがあるんだよね。二本足だからかな? ものすごく今更だけどファンタジーを実感した。なにせワイバーンだからね! スケーターにファンタジー成分は無い。いや便利なんだけど。


「お嬢ちゃんは筋が良いなぁ。もうちっと練習すりゃ、騎乗しながら剣も振り回せるようになるぜ。……アンナは抜かれちまうな」


「私は良いんですよ。後方からの支援が役割なんですから」


 ニヤニヤとからかう副長さんの視線にアンナさんがツンとそっぽを向く。


「……なんだかお二人は、上司と部下というよりまるで親子のようですね」


「ああ、まあなあ。こいつがガキの頃に商会にスカウトしてきたのが俺で、それからずっと面倒を見て来たからな」


「……今や書類仕事なんかは私が世話を焼いているくらいなんで、親子のようと言われるのは不本意ですが」


「何言ってんだ。どうせ近い内に義理の親子になるってのに」


 あ、やっぱりジーンさんとやらは副長さんの息子なのか。


「ほっほ~~う(ニヤニヤ)」


「ゴ、ゴホン! ま、まあ、そういう話をちょこちょこし始めているのは事実ではありますが、まだその、具体的な感じでは……」


 恋バナは苦手なのかな? 護衛をやってるだけあって凛々しいアンナさんが照れていると、ギャップがあってとても可愛いね。――って、年長者に対してこの物言いは失礼か。気を付けよう。


 ちなみに、この世界では一般的にヒト族女性はだいたい二〇歳までには結婚する。一八歳くらいになると焦り始めて、二五歳を過ぎるとき遅れと呼ばれるんだとか。


 一方、男性の方は適齢期についてどうこう言われることはほとんど無い。アラサーで十代の若い女性と初婚っていうのもザラにある。


 不公平? いやいや、これはもっと世知辛い話なんですよ。


 要するに、結婚後も安定して生活できるだけの稼ぎが無い内は、結婚だのなんだの言ってられないってこと。というか、そもそも女性の方から見向きもされない。


 この世界の女性が結婚――恋愛(・・)ではないところがポイント――相手に求めるものは、一に稼ぎ! それはもう絶対条件。二と三が性格と健康で、これは同列くらいかな。容姿なんてほとんど気にされることは無い。――ま、良いに越したことは無いけど(笑)。


 ただこれは一般的な話で、一定レベル以上の魔力を持っている人になると話がガラリと変わる。


 何しろ引く手数多で、選り好みしても職にはまず困らないし、稼ぎだっていい。余裕で華の独身生活を謳歌できる。なんなら女性が、顔と性格だけのヒモを複数侍らすことだってできる。


 付け加えると、この世界では魔力が高いほど寿命が延びるらしい。例えばヒューマン種だと、魔力持ちが多い貴族は平民より平均寿命が二〇年くらい長い。大体思春期くらいまでは普通に成長して、それ以降は寿命に応じて緩やかに外見が変化していくのだとか。


 つまり高い魔力を持っていると適齢期の幅が広がるってことね。そういう意味では、アンナさんは割と高い魔力持ちなのに堅実な人生設計かも。


 なおミクワィア家で聞いた話によるとこれは平民~下級貴族くらいの話で、爵位を持つ貴族ともなると基本的に成人までには政略で結婚相手が決まる。恋愛結婚はごくごく少数。挙がった複数の候補の中から、相性のいい相手を選べるってくらいらしい。


 ――いや、でも考えてみれば平民だって恋愛結婚は少ないのか。アンナさんにしても上司の息子さんがお相手だし、仕事関係の人とかその紹介とかで相手を見つけることが多いんだろう。つまりどちらかというとお見合い結婚に近いってわけね。


 ちなみに、結婚する時は役所に届け出とかは必要無いんだけど、教会で祝福という儀式をして貰うのが一般的らしい。必須ではないけど、祝福をして貰うと子供を授かり易くなったり、赤ちゃんが病気に罹りにくくなったりとかメリットが大きいから、大抵は受けておくものなのだとか。


 ただ教会は同じ種族同士の結婚にしか祝福を与えていない。つまり異種族との結婚は、事実上禁じられているようなものだ。


 …………


 う~ん……、神代言語の情報だと、異種族間の婚姻は特にタブー視されてはいないんだけどな。っていうか、当時は種族が千差万別状態だったしね。


 まあ倫理観とか慣習とかは時代とともに変遷するからね。それほどおかしな話でもないのか。


 ただこの話を知ったら久利栖はガックリするね、きっと。異世界に来たからにはケモ耳のお嫁さんが欲しいなんて思ってるだろうから。――合掌。








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