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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-03 トランクでちょこっと人助け




 擦れ違う馬車に乗る人たちから奇異の視線を貰いつつスケーターを走らせる。えーっと、人が集まっている馬車はどこかな……っと、見つけた。


 アンナさんと副長さんはリーダーらしき人と何やら難しい表情でお話中。それで馬車はどんな感じなのかな?


 あ~、こりゃ酷い、車輪が外れて、荷台の片側が地面についちゃってる。故障じゃなく、中破って言った方がいいレベルだよ。


 直接的な原因は手前にあるこの大きな穴ぼこだと思う。ただこの辺一帯は特に(・・)荒れてるから、たぶん最近ここでちょっと派手な戦闘があったんだろう。


 公共のものを戦闘で破壊したならちゃんと修復しておきなよ――って私なんかは思うんだけど、キャラバンの人達はそこに関する不平は言っていない。戦闘で消耗したところを更に襲われる可能性を考えれば、さっさとズラかった方がいいのは確かだからね。そこは責められないってことか。内心はさておき。


 ま、だからこそちゃんと整備をしない領主に不満が行くわけだけど。


「副長さん、アンナさん。良ければ手を貸しましょうか?」


「うおっ! お嬢ちゃん、いつの間に……」


「手を貸すって、これをどうにかできるの?」


「ええ、まあ。次の野営地までの応急処置ですけど」


「そりゃあ助かる。時間を掛けりゃ修理自体は出来るからな。……しかし、一体どうすんだ?」


 一番手っ取り早いのは荷馬車を丸ごとトランクに入れちゃう方法ね。ただこれは提案するまでも無くボツ。運送専門の商会が預かった荷物をほんの一時的にとは言え、出会ったばかりの私に委ねるわけがない。


 野営地まで魔法で荷馬車を浮かせる方法もあるけど、こっちは私の都合でボツ。物を浮かせる魔法ってあんまり練習してないんだよね。人一人くらいなら問題ないけど、この荷馬車の大きさに重さとなると加減と制御の持続にちょっと不安がある。


 というわけで第三のプランといきましょう。


 トランクをポチッとシールドモードに変形させてから馬車の下に潜り込ませて、その後でサイズを馬車に合わせて大きくしていく。馬車の車輪が地面から少し浮いたら――これでオッケー。念の為に拘束魔法でトランクと馬車を固定してっと。


「こんな感じです。私は馭者台にでも乗せて頂くことになりますが」


 そう言って振り返ると、集まっている全員がポカンとした表情で私を見ていた。


「……ねえ、あなたのソレって……、一体ナニ?」


「いやー、アハハ。一応、トランクなんですけどね」


 ええ、元々は普通のトランクだったんですよ。







 この世界は大災厄以降、人類は基本的に壁に囲まれた街の中で生活するようになった。


 基本的にっていうのは、古来より先祖が守り続けて来た地に住み続けている少数民族もいるって話もあるから。魔物を寄せ付けないようにする、何かしらの方法を用いてるらしいんだけど詳細は不明。秘伝らしい。う~ん、興味深いね、秘伝!


 さておき、そういう秘伝を除けば街の外には人の住む場所が無い。即ち、荒野を貫く街道はあっても宿場町やサービスエリアは無いのです。


 でも街の外は広大で、馬車のスピードと持久力では街から街へ一日で走り切るのは不可能だから、どうしてもどこかでキャンプをする必要がある。


 そこで重要な役割になるのが野営地ね。


 街道には一定間隔ごとに小休止する為のちょっと広めに整地されたところがあって、それの特に広いものが野営地と呼ばれている。街道が交差する場所なんかは大抵野営地になっている。


 野営地は周囲を塀や柵――場所によってはその外側に堀がある――で囲んであって、気休め程度の防衛力もあるから、夜までにはココに辿り着くのが旅のセオリーだ。まあ魔物対策に関しては、人が集まることでの抑止効果の方が本命だけど。


 ちなみに場所によっては砦のようにきちんと整備されていて、兵士が常駐しているところもある。というか、ノウアイラから出て最初の野営地だけがそうだったから、あれは本当に砦だったんだろうね。


 それにしてもドゥズールは街道がアレなら野営地もアレな感じで、今回訪れた野営地もやっぱりアレだった。一応土を盛り上げた塀(未満)はあるけど、馬だって跳び越えられるくらいのショボさ。まあハナから期待してはいなかったけど。


 野営地に入ると、早速馬車の修理に取り掛かるということなのでトランクは回収っと。今回も大活躍だったね。夕食後にでもちょっと磨いておこう。――傷も全くつかないんだけど、まあ気分的にね。


「いやあ本当に助かったぜ、お嬢ちゃん」


「副長、お礼はもっときちんと言うべきですよ。ありがとうございました、レイナ殿。何かお礼をしたいのですが……」


 副長さんを窘めたのはこのキャラバンのリーダーで、メガネが似合っているクール系ビジネスマン風の男性。この人は護衛じゃなくて純粋な商人だと言っていた。とは言っても、自衛できる程度には鍛えてるっぽい雰囲気がある。その辺は危険が多い運送専門業者ならではってとこかな。


「どういたしまして。でも、お礼は特には必要ないですよ。私自身は特に何をしたわけでもないので」


 トランクの上に乗っけただけだしね。あとこの人たちには言えないけど、私自身にはちゃんと利益があった。トランクの新しい機能が解放されのだ。


 その名も馬車モード! って、あんまり驚きはないか。馬車に乗った後だし、ある意味予想通り?


 馭者台に乗ってるだけだと暇だから、あれこれ雑談をしてたら気に入られて、馬車を動かすときの注意点やらなんやらを教えて貰ったり、休憩ポイントで手綱を握らせてもらったりしたのがトリガーだったんだろう。


 頭に入って来た情報によると、トランクが箱馬車サイズになってキャスターも比率的にかなり大きめになる。私の魔力で自走させることもできるし、馬や騎獣に引っ張って貰うこともできる。後者の場合は伸縮ハンドルが手前に倒れるように伸びて馬(騎獣)に取りつける部分になり、手綱は魔力の紐みたいなのが現れる。なお、馭者台は無い(笑)。


 まあ一人旅の内はスケーターモードで不足は無いから、この機能を使うのは皆と合流した後になるかな。


 ただこれは説明できないからね~。なんだかリーダーさんが居心地悪そうにしてるから、お礼代わりにってことで野営地にいる間、騎獣ランドワイバーンにちょっと乗せてもらえることになった。








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