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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第五章 暴走の爪痕>
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#05-01 領地の豊かさは街道に現れる(※感じ方には個人差があります)




 今日も今日とて荒野を行く。土煙を巻き上げながら、スケーターは街道を爆走する。


 え? 街道があるなら荒野じゃないでしょ……って?


 いやぁ~、まあそうなんだけど、なんていうか雰囲気で?


 だだっ広ーい平野に街道が一本敷かれてるだけだと、それなりに緑があってもなんとなく“荒野”って言いたくなる――みたいな、ね。


 街の外の景色は、基本的には草原や森といった自然そのまんまって感じ。所々にそれらが剥げ落ちたような荒れ地があったり、廃墟――もはや遺跡っていうレベルだけど――が不意に現れる。大災厄の名残かな? そういう変化がちょこちょことあるお陰で、割と退屈しない。


 ちなみに街道は、一応そう呼ばれているけど石畳やレンガなんかで舗装された物じゃあない。地面を固めてあるだけ。でもただ踏み固められただけだと轍とかが酷いことになってるはずだから、たぶん定期的に(魔法で)メンテナンスはしてるんだと思う。


 さて、ここでちょっとメルヴィンチ王国の統治事情を一つ。


 所謂貴族にも領地を持つ貴族と持たない貴族の二種類がある。前者は領地貴族と呼ばれ、大災厄以前からの貴族で門閥貴族と同義だ。そして後者は法衣貴族と呼ばれ、こっちは大災厄以降に生まれた新興の貴族が多い(・・)


 どっちにも例外はあるけど、概ねそういう認識でいいらしい。


 それでは問題。領地貴族の支配する“領地”っていうのは、いったいどの範囲を指すのでしょうか?


 壁に囲まれた内側の事でしょ? って考えた人。実質的にはそれで正解です。


 そう、実質的には。つまり法的には街の外側にもちゃんと領地は広がっている。日本的に言うと、都道府県みたいに線引きされているってことね。


 まあ実効支配しているのは街の中だけだから、例えば街道から離れた場所に勝手に村や集落を作ったとしても、たぶんバレない。もっとも街の外は魔物の脅威に常に晒されてるから、そんなことをする命知らずはまずいないけど。


 精霊樹をどっからか調達できれば、新しい街を作るのも或いは可能……かも?


 それはさておき。


 なんでそんな話をしたのかと言うと、領地内の街道整備は領主の仕事だっていうのを思い出したからなんだよね。


 地図上には領地のラインが引かれてるけど、実際の土地にはそんなものは無い。物理的にも魔力的にも壁なんて無いけど、領地の境界を越えたっていうのがハッキリと分かった。


 なぜなら街道の質が違うから。


 ノウアイラ側の街道は、舗装こそされてないものの概ね平らに固められていて、石ころなんかも大きい物は見当たらない。それがドゥズール側に入った途端、轍も目立つし邪魔な石ころが転がってたり雑草が生えてたりと、かなり荒くなった。


 スケーターは舗装された道はもちろん、草原だろうがデコボコのオフロードだろうがブイブイ(比喩的表現)走れるから見た目の違いだけだけど、馬車で移動してたらその違いをお尻で感じることになっていただろう。ありがとう、神様トランク


 これは領地の経済状況の違いなんだろうね。エミリーちゃんとのお勉強で学んだことによると、ノウアイラは王国内でもかなり豊かな街だったから。メンテナンスを頻繁に行えるだけの余裕があるんだろう。


 ドゥズールは領地の経済ランクは普通ってところだった。ってことは、街道の整備状況は、こっちの荒れた状況の方が一般的なのかな。馬車の旅は大変そうだ。


 ――おっと、前方にキャラバン発見。探知魔法の反応だと馬車(荷馬車)が八台、先頭と殿に騎獣に乗っている人が二組ずつかな。野営地でもないのに停車しているのは珍しいね。トラブル?


 この国で街から街へ移動する際は、キャラバンを組んで移動するのが一般的だ。ここまで何回かすれ違ったり追い越したりした経験から判断すると、大規模な方だと思う。なお単独で旅をする物好きは、ごくごく少数ね。


 魔物にもちゃんと知能はあるから、大きな集団で護衛も付けて移動してれば、そうそう襲っては来ないからね。


 さて、どうしようかな?


 実は最初に遭遇したキャラバンを追い抜く時、ちょっとスピードが出過ぎてたみたいで騎獣を驚かせちゃったんだよね。……いや、乗り手の人が変な物(スケーター)に驚いたのかも? ま、どっちでも結果は同じか。


 で、次の時はちゃんと気を使って街道から大きく外れて追い抜いたんだけど、今度はキャラバンが速度を落としてしまった。あれってきっと、土煙だけで姿が見えなかったから、魔物と勘違いされたんだよね。回り込まれて待ち伏せされると思ったのかな?


 その二回以外はノウアイラに向かうキャラバンとすれ違う形だったから、スピードを落とせば問題は無かった。問題は無かったけど、奇妙な目では見られた。


 う~ん、今回も迂回するべきか……


 …………お?


 なんかよく見てみたら、最後尾の護衛の人が面白そうな騎獣に乗ってる。二足歩行の恐竜――ティラノサウルスを小型にしたみたいなシルエット――みたいな生き物で、大きさは(騎獣ではない)普通の馬と同じくらいって感じかな。


 これまでに見た騎獣は馬型とロバ型と牛(水牛)型のどれかで、一回り以上でっかいだけで見た目的にファンタジー色は全然無かった。


 でも今回のは違う。何しろ恐竜だよ! 博物館で骨の標本とか復元模型とかは見たことがあるけど、生きているのは見たことないし(当たり前)。


 これは是非とも、近くでじっくり観察せねばなるまい。という訳で、今回はコミュニケーションを取ってみよう。


 驚かせないくらいのスピードでスイ~っと近づいてっと。


 最後尾にいる二人は男性と女性が一人ずつ。護衛役だから当然私の気配には気づいている。一応確認するかって感じにチラッとこっちに視線を向けてから……、バッと振り返ってガン見している。


 男性は三〇代後半くらいかな。ガタイが良くて金属製のブレストプレートにガントレットとレガースを身に着けていて、剣と槍と盾を騎獣の方に積んでいる。そう言えばファンタジー的な意味での“戦士”っていう人を見るのは、地味に初めてかもしれない。海賊は海賊だし(笑)。


 もう一人は若い女性で二〇歳前後――あ、日本人基準だとこっちの人は年上に見えるから、もしかすると私と同じかちょっと上くらいかも。この人は割と軽装だ。革製の鎧とグローブにブーツ。武器は弓矢と杖で、たぶん遠距離攻撃担当。細剣も使うみたいだけどサブウェポンだと思う。


 二人とも魔力が結構高い。ミクワィア商会の人達と比較すると会頭さんや執事さんには及ばないけど、船員さんたちの中で一番の人よりも高い。


 余談だけど、この世界における個人の強さは概ね魔力の高さに比例する。もちろんただ魔力が高くても全然鍛錬をしてないんじゃあ話にならないけど、運動神経の多少の差なんて魔法で簡単にひっくり返されちゃうからね。


 当然、性別もあまり関係なくなるわけで、だから騎士や軍――民間なら傭兵とか狩人――にも、女性が意外と多い。あ、“意外と”っていうのは(日本人)の感想ね。こっちの世界の人にとってはそれで普通だから。


 この辺もエミリーちゃんとのお勉強で仕入れた情報です。


「こんにちはー」


「え? ええ、こんにち……は?」「あ、ああ……」


 声をかけると、戸惑った雰囲気で、ついでに奇妙なものを見る視線付きで二人が返事をする。


「えっと、何か御用かな?」


「それよりもお嬢ちゃん、まさか一人旅か?」


「ええ、まあ一人旅の方はそうです。特に用って程の事じゃないですけど、変わったものに乗ってるなーと思って、ちょっと話を聞きたくなってもので」


「「…………」」


 おや? 二人の様子が……


「「変わったものに乗ってるのは、あなた(あんた)の方でしょ(だろ)!?」」


 ごもっともです。








第五章と次の第六章は怜那の旅がメインの話となります。

ロードムービーっぽい雰囲気が出せるといいかなと思っています。


※作者のロードムービーに対する認識が間違っている可能性もアリ(汗)。

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