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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第四章 ノウアイラ>
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#04-07 神代言語




『おーい、大丈夫かーい。ちゃんと生きてるー』


 片眼を薄く開けると、ショタ神様が大の字になって寝っ転がる私を覗き込んでいた。


 ――いや、本当に酷い目に遭った。未だに頭がぐわんぐわんする。もう暫くは立てそうにない。


 うら若き乙女を自称するくせに、なんてはしたない恰好を! などという人は是非これを体験して頂きたい。


 言語のデータだけでも膨大だっていうのに、神話時代の歴史的な位置づけや、当時の文化・風俗に関する事柄まで頭に一気に詰め込まれたんだよ?


 なんていうか――もうね、情報が膨大過ぎて頭に詰め込まれるって言うより、情報の海に放り込まれてぐるぐるにかき回されたような、そんなイメージ? 情報で溺死するところだったよ。


 ただそれが必要だっていうのは理解できるから、神様に文句を言うことも出来ないんだよね。理不尽な。


 言語っていうのはある意味文化そのものだ。――と言ったら過言かな? でもまあ、私はそう思ってるし、間違いでは無いと思う。


 例えば言語を翻訳する際、異なる文化圏では該当する単語がないなんていうのはザラだ。


 そりゃそうだよね。だって風俗が違えば衣服を始め身の回りの物が変わるし、周辺の動植物が変われば食べる物だって全く違う物になるんだから。


 モノの話だけじゃなく、概念そのものが無いっていう場合もある。風習とか地域のシャーマニズム的宗教観は、異邦人には理解しにくい(できない)ものも少なくない。


 同じ国の言語だって時代によって変遷がある。日本語だって、現代語と古文では同じ単語でも意味やニュアンスが変わるものがあるよね。“おかし”とか“あわれ”とか?


 ――まあ、要するに。神代言語をちゃんと理解するには、その文化的背景を知らなきゃいけないってこと。


 ちなみに大陸共通語に関しては、そういうバックボーンは詰め込まれていない。でもそれは、私たちが知識として知っている地球上の過去の文化と類似点が多いから。仮に分からないことでも、実際に触れてみればいいだけのことだしね。


 でも神代言語に関してはそうはいかない。神話時代の文化なんて、わずかに残る遺跡の断片的な情報から推測するしかない。魔法や魔法陣に関しても、デチューンを重ねられて辛うじて名残があると言えなくもないって程度だ。


 だから知識を詰め込まれたことに納得はしてるんだけど――


 あ~、なんかもういいや。疲れたからちょっと寝てしまおう。


 ぐう……


『寝るなー! 寝たら死ぬぞー!』


「いや……、雪山じゃないんですから……」


『あはは。まあこの空間は外の時間とは切り離されてるから、別に寝てても良いんだけどさ。あまり此処に慣れ過ぎてもね』


「何か……、悪影響があるんですか?」


『いや。ただ君は神代言語を完全に習得してしまったでしょ? 頑張れば神気だって扱えるようになったわけだ。そんな君がこの神気に満ちた空間に長居すれば……』


「……すれば?」


『神気を取り込んで、精霊や神に近い存在へと霊格が上がってしまうかもしれない』


 なんですと!?


 ガバッと上体を起こすと、覗き込んでいた神様が『うわっ、びっくりした!』と言って仰け反った。


「それ、本当なんですか? 神様ジョークじゃなく?」


『ホントホント。ジョークは大好きだけど、これは本当の話。まあ、今すぐそうなるって話じゃないし悪い話でも無いんだから、気にしな~い気にしない』


「いやいや、悪い話どころか怖い話なんですが……」


『だから今すぐの話じゃないんだってば。……神代言語はどう? 使えそうかな?』


「え?」


 う~ん、どうだろう? 確かに言語は習得させてもらったけど、使いこなせるかは微妙なラインだ。


 とてつもなく難解っていうのもあるけど、その辺は頭を神代言語モードに切り替えれば多分問題無い。


 マルチリンガルの人は大抵そうだと思うけど、私は日本語を喋る時は日本語で、英語を使う時は英語でものを考えてる。物心つく前からどっちも使ってたから、ほとんど意識しないで切り替えられるんだけど、大陸共通語と神代言語もそれと同じレベルで切り替えが出来るようになってる。神様って凄いね。感謝感謝。


 それなのに何故、使いこなせると言えないのか?


 答えは――この言語、ただ話すだけでも魔力の制御が必要なんだよね。


 魔力の操作と放出で空気の振動によらない音――魔力音波とでも言うべきものを用いて言葉を発するのが神代言語で、現代の感覚だと喋ること自体が極めて高度な魔法と言える。


 古代人にはこの位朝飯前だったんだろうね。ついでに言うと、体の構造が十人十色千差万別だった古代人は、声帯や耳の構造も異なる――っていうか無い場合もある――わけで、普通の音声で会話するっていう事がそもそも難しかったから、この手法は必然でもあった。


 ある意味便利ではある。水中どころか宇宙空間であっても会話できるし、魔力的に接続すれば特定の相手とだけ話すこともできるからね。使いこなせるなら、だけど。


『短い、文章なら、話せる。しかし、非常に、困難』


『お~、すごいすごい! 片言でもちゃんと話せてるよ! 今日は現代人が初めて神代言語を話した記念日になったね。本当に、君は面白い!』


『ありがとう、ございます』


 はぁ~。いや、これは本当に神経を使う。魔力消費も結構あるけど、かなり繊細な操作が必要で、それがものすごく疲れる。魔力操作の練度をもっともっと上げないと、普通に話すのは無理だね。


 神代言語で魔法を使うなら、その上さらに魔力を上乗せしなきゃいけない。さらにさらに練度を上げて応用すれば理論的には神気も扱える――っぽい? 少なくともちょっと“頑張れば”出来るようなことじゃあない。


 考えてみれば神様の尺度だもんね。頑張るにしたって、どれだけのことなのやら。


 今すぐの話じゃないっていうのはこういうことか。取り敢えずは一安心。








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