#04-04 神様は思ってたより気さくだった
『う~ん、全く驚かれないっていうのもちょっとつまらないんだけど?』
「ご期待に沿えなかったようですみません。こういう感じの空間はトランクの中ですっかり慣れてしまったもので」
『それもそうだった。もっとサプライズを用意しておくべきだったかな』
何の前触れもなく目の前に一人の人物――いや、一柱の神様が現れた。見た目は一言で表すと……
「ショタ神様?」
『ぶふっ!! いや、ちょっといきなりそれは無いでしょ!?』
「おっと、これは失礼しました」
見た目は小学校低学年くらいの、少年神様がプンスコする。
でも、ねぇ? 神様らしいゆったりしたローブは良いとして、中に着ているのが半ズボンだったり不相応に大きな杖を持ってたりで、なんとも狙ってる感があるんだよね。
失礼とは思いつつも、ついうっかり半目になりそう。
『コホン。この姿にも一応理由はあるんだけど、それは置いておくとして。君がここを訪ねて来てくれてよかったよ。先ずはお詫びをしなくてはいけないからね』
神様の話によると、私の制服などに付与が施されていないことや、当面の生活費などが入っていなかったのは単純なミスだったとのこと。
なんでも私のトランクの機能は、クラスメイトが欲しいと望んだ、もしくは心の中で欲しいと思っていた能力を参考に、居合わせた神々が半ば面白がって詰め込んだのだとか。ちなみに神様が考えた機能もあるらしい。
で、全ての機能を詰め込んだ後で、制服などに付与魔法を施していなかったことが判明。その時点でトランクは私の潜在能力を使用して神器化し、もはや私の一部になってしまっていた為、神様にも中身――特殊スロットに登録されている制服なども――に手出しできなくなってしまっていた。
悪ノリ気味だったこともあって、神様が本来下界の者に施せる範囲を既に逸脱しており、結局転移者全員に与えられるはずだった特典の一部が無いまま、下界に降ろすことになったそうだ。
トランクの変形とかしおりの事とか、神様は随分とお茶目だとは思ってたけど、本当に人間味があって面白い方々みたいだね。
「まあ特に不便はありませんでしたしトランクがあればどうとでもなるので、その辺りに関してはお気になさらずに」
『そう言ってくれると助かるよ。実は君が無人島に流れ着いてしばらくは、危険な目に遭わないか、時々モニターしていたんだ。何かあったらフォローするつもりだったんだけど、君と来たら……』
いきなり魔法を使いこなすわ、支配個体を仕留めるわ、挙句の果てには酒を造って優雅に晩酌を始めるわ――と、神様が呆れ気味に溜息を吐いた。
折角心配してたんだから、ちょっとくらいピンチに陥るとかしても良いんじゃないか――って、そんなこと言われてもねぇ? そもそも見守られてたことだって今知ったわけだし。
んー、でも心配を無碍にしてしまったみたいで、ちょっとだけ心苦しいような気がする……かも? ほんのちょっとくらいは。
よし。ここはお供え物でもしてご機嫌を取っておこう。
「ご配慮いただき、ありがとうございます。えーと、お礼というかお供え物というか、話に出た自家製ワインでも――」
『えっ、くれるの!? いぃやっほ~!!』
すごい食いつきだった。小躍りまでして喜んでいる。なんとなく古今東西、神様はお酒好きっていうイメージがあるけど、こっちの世界でもそれは同じなのかな。
ま、見た目小さい男の子にワインは絵面的にどうなんだろう? と、思わなくも無いけどね。
『んーっ、うまい! このワインは素晴らしいね! お酒に限らず、この世界は食品全般、今一つ発展してないんだよね』
理由の一つはやっぱり千年前の大暴走。なお、こちらの世界で“大災厄”と言えばそれを指すのだとか。
この時の人的物的な被害は甚大で、失われてしまった技術、復興の過程で忘れ去られてしまった文化・風習などは数えるのもバカバカしくなるほど多い。記録すらも根こそぎ消滅して、現在では過去にそういう文化があったという事さえ知らないというものも多い。
料理に関してもその一つ。大災厄直後の日々食いつないでいくのがやっとという状況では、それもまた致し方ないとしか言いようが無い。
そしてもう一つの理由。実はこっちの方が大きいと思うんだけど、この世界では魔力が農作物の生育や味に強く影響して、精霊樹の恩恵がある街の中では割と年中収穫できるんだとか。流石に真冬には育たないし、旬っていうのはあるらしいけどね。
つまり私の勘は当たってたってことか。正解者に一〇〇ポイント!
素材が美味しいから、調理が簡単でも普通に美味しく食べられてしまう。ミクワィア家で頂いた食事も、美味しかったけど調理自体はそれほど凝ったものでは無かった。貴族のお屋敷ですらそうなんだから、一般庶民の家庭では、ね。
それから年中収穫できるってことは、あまり保存のことは考えなくても良いってことでもある。だから保存に適した発酵食品とか干物の類とかが、積極的に開発されてない。
そんなこんなで料理や加工食品の幅がとても狭いんだろうね。
嗜好品のお酒に関しては、主に貴族が主導してそれなりに頑張ってるらしい。だけどそもそも発酵や醸造に関する基礎的な理論を知らない状態での試行錯誤だから、成果は芳しくないんだとか。
ちなみに神様が「この世界は食品全般が未発展」と言い切っているのは、ご近所の世界の神様とは、時々会合を開いているから。それで他所の世界の食品事情も知っていて、自分の世界の食が遅れている事に嘆いていると。
「この世界ということは、この国以外でも食に関しては大凡似たようなものということなんでしょうか?」
『うーん、実は僕の口から世界について細かく話すのはルールに抵触するんだけど……、まあ君には迷惑もかけたし、このくらいならいっか』
現在この世界には五つの大国があり、それぞれに特色はあるものの食に関する発展レベルは団栗の背比べらしい。
『この国、メルヴィンチ王国の西の隣国が、近年食文化の発展を目指して過去の資料の収集やレシピの復活を手掛けているんだけど……ね。まあ他の国よりはマシってところかなぁ』
神様はそう言いつつグラスのワインを空け、悩まし気に首を横に振る。
『このレベルのワインが飲めるようになるのは、いったいいつになる事やら』




