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#00-04 異世界に行く準備 裏話的な




 ねえ、舞依には教えておくね。……実は私、神様の眷属のお狐様の末裔なんだ。


 …………えぇ?


 あははっ。舞依、今ちょっとおもしろい表情かおしてるよ?


 もうっ。からかったの?


 違う違う。まあ、いきなり何言ってんのって話だよね~。実は私もその部分については、かなり眉唾だと思ってるんだけどさ。


 でも、話してくれるのには理由があるのよね?


 うん。きっと舞依とは……それに皆とも、これからずっと長い付き合いになると思うの。


 私も怜那とはずっと一緒に居たいって、そうなれたらいいなって思うわ。


 ありがと、舞依。……でも、そうなると私の事情に否応なく巻き込んじゃうことになるかもしれない。ううん、きっとそうなる。だからその時に不安にならないように、正しい判断ができるように、舞依には知っておいて欲しい。


 ……怜那?


 そんな不安そうにしないで、大丈夫だから。あ、でも怖いことには……なるかも?


 怜那は私を不安にさせたいの? させたくないの? どっち?


 え、あ、いや……、それはその……、つまり最終的には悪いようにはならないから大丈夫だけど、途中経過ではそうでもないっていうか……。


 ……はぁ。もう、いいから。ちゃんと説明してね?


 うん、了解。ちょっと長くなるけど、聞いて。







 怜那の実家である七五三掛家とは、昔はとある地域信仰における祭司の役目を担っていた一族であり、神様の眷属の血を引いていると伝えられています。


 その真偽のほどは定かではありませんが、七五三掛の一族には不思議なジンクスがありました。どういうわけか一族の者は、大きな自然災害に巻き込まれることが多いのです。


 そして必ず無事に生還し、何かしらの利を得るというのです。またそうなった際には災害の規模に対して犠牲者が少なく済み、かつ結果的にその後の社会や経済が好転することが多いのだとか。


 余談ですが、怜那のお父様は英国旅行中に大寒波に見舞われ、その際に偶然知り合ったお嬢さんとめでたく結婚ゴールインしたそうです。つまり怜那のお母様ですね。さらにお母様の実家の助力とコネクションを元に事業を成功させて、ひと財産築いたとか。


「そういえば怜那って、いつもアレコレ色んなものを持ち歩いてたわよね。それってもしかして……」


「うん。いざという時の為に備えてるって言ってた。……特に今回は行き先が山だったから、いつもより警戒してたみたいね」


「確かに怜那さん、一人だけトランク持ちこんどったなぁ」


「あ、それ実はちょっと僕の荷物も入ってるんだ。愛用の調味料を持っていきたいって漏らしたら、トランクを持っていくから入れてくれるって」


「ちょっと秀? あなた女の子に荷物持ちさせたの?」


「いやぁ、耳が痛い。でも怜那さんの方からアレもコレも持っていくって言うものだから、お願いしてしまったんだ」


「そういえば結構味にこだわりがあるのよね」


「好き嫌いは無いのですけれど……」


「ま、美味いもん食えるに越したことは無いんやけど、別にキャンプでやらんでもええやろう?」


「ははっ、まあそうかもだけど……、その話はひとまず置いておこうか」


「せやな。しっかし話を聞く限りやと、えらいトラブル体質っぽく聞こえるんやけど……」


 久利栖くんの感想に鈴音さんと秀君が何とも微妙な表情をしています。きっと似たようなことを考えてしまったのでしょう。


 実は怜那に打ち明けられた時、私も似たようなことを考えてしまいましたが、すぐに自分で否定しました。事故や事件の類ならともかく大きな自然災害が、たった一人の人間の影響で引き起こせるとは思えません。


 けれど今回巻き込まれてしまったクラスメイトの皆さんが、このことを知ってしまったら? すべてを怜那の所為だと思うようなことになりはしないでしょうか?


 怜那の不在に気付かれたくないと思ったのは、そういう理由からです。


『それは明確に否定しておきます。あなたたちが巻き込まれた災害は、彼女が居てもいなくてもあの時に確実に発生していました』


「つまり本当にただの偶然、ということなんですか?」


 鈴音さんの問いかけに、神様はとても困った表情になりました。


『ええ、まぁ……』


 神様によると、七五三掛一族の役割は本来、土地神の治める地に起きる災害を予知し、因果律に干渉して被害を抑えるとともに発展を促す、というものだったのだとか。


『その能力が次第に変化しておかしな感じに作用し、災害に巻き込まれるようになっているのではないかと考えられますが……』


 神様は一旦言葉を切ると首を横に振ります。


『正確なところは分かりません。その上、彼女は一種の先祖帰りで、とても強い神性を持っています。あれはもはや固有の体質と言っていいでしょう』


 いささか投げ遣りな説明に絶句してしまいました。どうやら怜那の体質は、神様にもお手上げのようです。


『彼女は無意識的に因果律に干渉し、本来は有り得ないような巡り合わせをも引き寄せてしまいます。皆さんにも覚えがあるのではないですか?』


 私たちは思わず顔を見合わせ、そして大きく頷きました。そもそも私たちが近しくなったのは、怜那の好奇心と行動力に振り回された結果ですからね。


 その時、鈴音さんが何かに気付いたように目を見開きました。


「……ねぇ、待って。今の話を踏まえて考えると……、異世界に召喚されたのは怜那が無意識的にそれを望んでたってことなんじゃない?」


「それは……、どうだろう? そんな細かいことじゃなくて、生存本能だったんじゃないかな。目前に死を感じて、確実に生き残る方法を引き寄せてしまった……と」


「それで他所の世界の神様まで動かしたん? そらまたえらいスケールの話やな。……ほんで、正解はどっちなんで?」


『どちらも正解であり、不正解でもあります』


 あの状況下で怜那が助かるルートは複数あったそうです。大きな災害や事故で絶望的と言われる状況でも、奇跡的に助かる人もいますからね。けれど私たち四人も、ましてや他のクラスメイト全員も含めるとなると可能性は限りなくゼロに近くなります。


 そうして引き寄せられたのが異世界からの召還という道でした。


 異世界召喚は基本的に対象となる世界を選べません。また私たちの世界はかなり上位の世界であるらしく、本来は召喚できるはずがないほど離れているのだとか。実際、今回が最初の――そして恐らく最後の――例なのだそうです。


 七五三掛の一族でも、先祖返りの怜那でなければ引き寄せることができないほど遠く、そして細い道だったのです。


「いずれにしても、怜那には感謝よね」


 限りなくゼロに近い可能性を引き寄せてしまったのは――


「生き埋めになって真っ暗ん中ひたすら救助を待つなんぞ、想像するだけでゾッとするわなぁ……」


 怜那がそうしてくれたのは――


「それはトラウマものだね。異世界召喚には、かなり意表を突かれたけど」


 それはきっと自惚れでは無く――


『……彼女の深いところにあった強い願い。それが導いた結果なのでしょうね』


 神様と一瞬だけ目が合い、それで確信しました。


 ――やはり私のため、だったのですね。


 怜那はもう……。しようのない人ですね。本当に。


 涙がポロリと一滴、頬を流れていくのを慌てて拭います。たぶん、誰にも気付かれていないでしょう。


『これ以上は、いずれあなたたちと彼女が合流した後で話をしましょう』


「そのような機会を頂けるのですか?」


『ええ。……というより、こちらとしても彼女にはその能力について自覚して頂きたいのです。こちらの与り知らぬところであまり因果律に干渉されると、影響がどう出るのか予測出来なくなりますので』


 ……微妙に疲れた表情に見えるのは、きっと気のせいではないのでしょう。


 親友が申し訳ありません。心の中で謝罪します。


『では現在の彼女の状態についてお話しておきましょう。彼女はその身に内包する力が大きすぎることと性質の違いで、こちらの世界との衝突コンフリクトが起き、深い眠りについています』


「無事ではあるんですよね?」


『ええ。ただ内包する力をそのまま彼女自身に定着させてしまうと、下級神と中級神の間くらいの存在となってしまい、それはそれでこちらの世界に不都合が生じてしまいます』


「怜那さんが神様かいな……。JKS(ジョシコーシン)やな」


「久利栖、ちょっと黙ってなさい。というか、そんなレベルの話なんですね。怜那はどうなってしまうんでしょうか?」


『今は神々が手を尽くして、内包する力を外部に移しているところです。それで一応人の範疇に収まるとは思いますが、それでも高い潜在能力を持つことになります。異世界人であるあなたたちの中でも別格の存在になるでしょう』


 怜那は無事なようで、ひとまずは安心しました。ポテンシャルが高いというのも悪いことではないでしょうしね。ただ、そうなると気になることがあります。


「もしかして私たちは、怜那と一緒に地上に降りることはできないのでしょうか?」


「「「あっ……」」」


『……そうなってしまいます。正直なところを言えば、彼女を下界に降ろすこと自体がかなり危険です。従って、あなたたちを含めた召喚者全員から、かなり離れた地点に降ろすことになってしまいます』


「そっ! ……れは、大丈夫なのでしょうか?」


『彼女はそんな柔な存在ではありませんし、我々も多少のフォローはします。心配は無用ですよ』


 素っ気ないようにも感じられますが、神様が全く心配していないということは分かりました。


 つまりは怜那のことは心配するだけ無駄、という事なのでしょう。これまでの経験上、私たちにも心当たりはあります。


『もう一つ、伝えておかなければなりません。彼女は特殊過ぎる例ですが、同じ世界から召喚された者にも、こちらの世界で上乗せされる力に差異があります。概ね誤差の範囲に収まりますが、あなたたちの場合、彼女の影響で様々なえにしを引き寄せて存在の格がかなり高くなっていますので……』


「力も大きくなっている、と。それはどの程度のものになるのでしょうか?」


『同時に召喚された他の者が相手でも、真っ向勝負すればまず負けることは無いくらいには違います。そうですね……、あなたたちの世界の物で喩えると、家族向けの乗用車と高級スポーツカーでタイムアタック勝負をするようなものです』


「ト〇タのプリ〇スとランボ〇ギーニのウラ〇ンじゃあ、やる前から勝敗は決まっとるわなぁ」


「プリ〇スは分かるけどウラ〇ン? 久利栖が車に詳しいとは知らなかったわ」


「詳しくは無いんよ。どこぞの国のパトカーで採用されたっちゅうニュースを見ただけや」


「ああ、あれね。その喩えで言うと怜那さんはさしずめF1かな?」


『いいえ。彼女なら宙に浮かんで飛んで行ってしまいますよ』


「「「「…………(スン)」」」」


 冗談なのかと思って一瞬笑いそうになりましたが、神様が妙に疲れた表情をしているのを見て本気であることを悟ります。


 なるほど。怜那は別格というよりも違うカテゴリーになってしまうという事ですか。心配無用というのも納得ですね。


『……コホン。ともかく、どのように生きていくのかはあなたたちの選択次第ですが、周囲に軋轢を生みかねないほどの潜在能力を秘めていることは、覚えておくとよいでしょう』


 私たちは互いの表情を見て頷き合いました。


「わかりました。ご忠告に感謝します。怜那さんの事も、僕たちでフォローできることがあれば力を尽くすつもりです」


『それは頼もしいですね。よしなに』




 その後、私たちはお互いの能力や性格などを考慮しつつ役割を決め、能力の割り振りと希望した武器を――久利栖くんは防具(のようなもの?)でしたけれど――頂きました。


 私は後衛です。能力も八割を魔法適性に割り振りました。運動神経がよろしくない自覚があるので、身体能力を大幅に上げても上手く動けるとは思えませんので。武器もそれに合わせてロッドを頂きました。なかなか良さそうな逸品です。


 チーム全体の構成としては、


 前衛:秀くん(近接攻撃)・久利栖くん(回避盾)

 遊撃:鈴音さん(弓、魔法)

 後衛:舞依(わたし)(魔法)

 ※ジョーカー:怜那(不明)


 という形になります。


 実のところ、戦闘やポジションと言われてもピンとこないのですが、秀くんと久利栖くんによれば「安定したパーティー構成」なのだそうです。


 それにしても怜那をジョーカー(ババ)というのはどうなのでしょう。意味としては合っていると思いますけれど、奥の手とか切り札とか、もっと他に良い言葉があると思います。


 ともあれ、これで異世界に降り立つ準備は整いました。心の準備の方は――まだちょっと分からないですけれど。


『最後にもう一つ。生活が落ち着いたら地上で神々を訪ねてみて下さい』


「神々を……、ですか? 具体的にはどこに行けばいいのでしょうか?」


 私たちの疑問に神様が首を横に振ります。


 神々の居る――正確には神々と交信できる――ところを私たち自身が見つけ、訪ねることで、神の与えた試練を乗り越えたという形式が整うそうです。そうして初めて、頂ける物があるのだとか。


 この場でそれをできないのは、私たちが既に神様から数多くのものを貰っていて、これ以上は神々の守るべきルールに抵触してしまうからなのだそうです。


 あくまで形式的な試練なので、少し調べればすぐに分かるというお話でした。


『それではお気を付けて。あなたたちとはきっと、また会うことになるでしょう』


「数々のご配慮、ありがとうございました」


 秀くんの言葉に合わせて私たちは深く頭を下げます。


 そして顔を上げると、私たちはそよ風の吹く小高い緑の丘の上に降り立っていました。




 異世界での生活が始まります。








これにて序章は終了。次章から主人公視点に戻ります。


面白い、面白そう、先が気になる等、思って頂けましたら、評価をポチッとして頂けると嬉しいです。

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