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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第四章 ノウアイラ>
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#04-02 つかみはオッケー




 ミクワィア子爵家のお屋敷は、壁を三つ抜けた先の貴族街にあった。


 結構な長旅だったね。いや、冗談ではなくて。馬車がのろかったってことじゃなくて、それだけ街が大きいってこと。ちなみに馬車は結構――いや、かなり速かった。こっちの世界の馬は馬に似た別の何かなのかもしれない。


 窓から眺めてみた感じでは、港のすぐ傍に聳え立つ外壁の内側は農業や漁業をやってる村、一つ壁を越えると商業が盛んな街、もう一つ越えると政治権力の中枢っていうイメージかな。


 三つのエリアを合わせて一つの街と考えるならかなり巨大だ。RPG的中世ファンタジーっていう先入観があったせいで、城砦都市って言うともっとこう……小ぢんまりとしたパッケージを想像してたから、かなり意表を突かれたね。


 ちなみに街の中に森や湖もあるし、川(運河)や湖もあって、そこは割と自然のままらしい。凄く妙な表現になるけど、街の中に野生の動物や魚がいるってこと。魔物に関しては、大型のものは駆除済みだとか。


 どうしてこんなに巨大な街になったんだろう? やっぱり魔物の暴走がポイントなのかな。


 どうせ強固な外壁で守るなら、貴族も一般市民も一まとめに囲ってしまった方が効率的だからね。千年前の大暴走から復興する過程で、計画的に都市を再構築したのかもしれない。


 ま、都市計画に関する考察は置いとくとして、会頭さんのお屋敷について。


 デカいね! 流石は貴族のお住まいです。


 大きな門をくぐると綺麗に整えられた庭園が続いて、その先に四階建ての立派な建物がある。印象としては質実剛健。風格はあるし質素なわけじゃないけど、装飾なんかは最低限で機能美を優先したって感じ。


 装飾過多のゴテゴテしたのよりも、私はこういう方が好みだな。奇妙なデザインで無意味な装飾だらけの建物なんて、テーマパークにでも置いておけばいいんだよ、ホントに。


 それはさておき。


 出迎えてくれた執事さんに案内されてお屋敷の応接間へと移動。応接間に居たのは大人の女性(美女!)が二人に、エミリーちゃんより少し年上くらいの男の子が一人の三人。


 エミリーちゃんに紹介されてご挨拶をすると、何故かとても歓迎されて――会頭さんが商談の相手だと連絡してたんだろうね――そのままお茶会にという流れになった。


 あ、そういえば手土産も何も持ってなかったな。どうしよう?


 無人島で採ったフルーツでいいか。メイドさんに渡しとこう。ピロールとマンゴーをいくつかと、あとこれはとっておきのメロンを一つ。


 メロンと言っても網目模様じゃなく、つるんとした表面で楕円形だから、見た目は瓜っぽいかな? 果肉は黄色みの強いオレンジ色。ちなみに味は絶品です。瑞々しくて甘みと香りが濃厚で、メロン特有の後味が無くすっきりとしている。これぞパーフェクトメロン!


 無人島を出発する前日に見つけて自生してる数も少なかったから、あまり数が採れなかったんだよね。まあ、特殊スロットの機能で増やしたけど。


 で、メロンを取り出した瞬間、御夫人二人の目の色が変わった。メイドさんもギョッとして硬直してたしね。


 即座に第一夫人が緘口令を敷き、このような危険物はすぐ処分してしまう事を決定。――って、まあ要するに、貴重なフルーツだから会頭さんたちには内緒にして、私たちだけで食べちゃいましょうと、そういうことね。


 というわけで、お茶と一緒に綺麗に盛り付けられたフルーツがテーブルに並べられて、お茶会が始まった。


 妙に緊張感の漂う中、エミリーちゃんが恐る恐るっていうくらい慎重にメロンをひと切れ口に入れる。そして次の瞬間には、目を見開いて「ん~!」と声を上げながら、脚をパタパタさせていた。うん、可愛い。


 たぶん作法的には本来注意されるところなんだろうけど、今回に限っては誰にも咎められていない。だってこの場に居る全員がうっとりしてたからね。あ、全員っていうのにはメイドさんも含まれている。二切れくらいだけどね。いわゆる口止め料。


 感動的な美味しさだからね~。自分たちだけで食べちゃいたくなる気持ちもよく分かる。特に女性は甘味に目が無いからね。


 間に合わせだったけど手土産は皆に喜ばれて、楽しいお茶会になった。


 物で釣っただけ? いえいえ、手土産は会話のきっかけと潤滑油になるってこと。これ結構重要だから、テストに出るかもよ?




 その後、帰って来た会頭さんと息子さん三人と夕食を共にし、その席で海賊関連の手続きやら何やらで四日ほどかかるという報告を聞き、その間ミクワィア家に滞在させてもらうこととなった。


 ちなみにデザートに出された無人島産マンゴーに、会頭さんや息子さんたちは大層感動していた。確かにマンゴーも美味しいけど、パーフェクトメロンほどじゃあないんだよね。でもそんなことおくびにも出さずに談笑してた御夫人は流石です。ちょっとキョドッてたエミリーちゃんは、まだまだ修行が必要かな(笑)。







 翌日。私は朝食を取った後で、会頭さんたちに断りを入れて外出することにした。


 エミリーちゃんがとても残念そうにしてたけど、これは先送りにしたくない急ぎの用事なんだ。ごめんね、後で埋め合わせはするから。


 向かう先は精霊樹。


 例の通信機について話している時に出て来た精霊樹とやらが気になって、昨夜寝る前に詳しく魔力を探ってみた。


 結果、精霊樹は根を広げるような感じで魔力を街全体に送っていて、大半は壁に注ぎ込まれていることが分かった。同時に壁と同じ高さで街全体を覆う、天井みたいな防御魔法が張られていることにも気付いた。


 ちなみにこの魔力ネットワークの太い線上には通信設備だけじゃなくて、幹線道路とか井戸とか水路とか――まあ要はインフラが集中しているみたい。精霊樹から供給される魔力を利用してるんだと思う。もっとも全体からすると微々たるものだけど。


 で、そこで問題です。強固な壁と防御魔法、そして街全体のインフラを支える膨大な魔力を生み出す精霊樹とは何でしょうか?


 少なくともただの植物のはずがないよね。というか“神殿”に祀られてるくらいなんだから、神様関連の何かって考えた方が自然だ。


 こっちの世界の転移時に私だけは神様と対面していない。いくつか確かめたいこともあるし、コンタクトが取れると良いんだけど。


 この街の神殿は本殿の参拝には拝観料が必要だけど、精霊樹の祀られている場所は公園扱いで常に解放されているとのこと。なのでお金の心配はなし。


 さっそく神殿へと出発! 徒歩で? いえいえ、そこはトランクの新しい機能でね。


「スケーターモード」


 トランクの伸縮ハンドルが程よく伸び、底面からニュニュッとボードが伸びてきて変形は完了。


 ボード部分は幅があって四輪だから、キックスケーターよりもスケートボードに近いかな。スケボーの端っこにトランクをくっ付けてハンドルを伸ばした感じ。


「あの、レイナ様。それは、いったい……」


 見送り出ていたエミリーちゃんがキョトンと首を傾げている。まあスケボーとかが無い文化だと、これが乗り物とは思えないよね。せいぜい台車かな?


「これはね、一応乗り物の一種かな。こんな感じで――」


 スケーターに乗って魔力を軽く込めると、スイーッと滑らかに動き出す。円を描くように走らせてエミリーちゃんの前でストップ。


「――使うんだよ」


「すごいです! その鞄は乗り物にもなるんですね!」


 乗り物にもなることを知ったのは、つい昨日の事なんだけどね~。っていうか、本当にどれだけの機能が搭載されているんだか。


 エミリーちゃんの目が乗りたそうにしてるから、用事を済ませたら後ろに乗せてお屋敷の庭をぐるっと走ってみることにしよう。ボード部分は例によって伸縮自在だからね。シャーリーさんも一緒の三人乗りでも問題無し。


 では、精霊樹詣でに行ってきまーす。








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