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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第四章 ノウアイラ>
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#04-01 ノウアイラに(無事)到着

第四章は街の中での話になります。




 海賊たちは親玉と子分たちの兄貴的なポジション数名は尋問のために残して、それ以外は魔法で気絶&拘束した上でトランクに放り込んでおいた。親玉たちは船室の一つに放り込んで、扉は魔法で封印の上、見張りもちゃんとつけている。


 そんな事後処理が終わった後、会議室に集まった私たち――今回はエミリーちゃんとシャーリーさんもいる――はコーヒーを飲んで一息ついていた。


 エミリーちゃんはのぞき見してたことがバレて、会頭さんにちょっと叱られていた。何でそんなことをしたのかというと、私のことを心配してたらしい。あっという間に五人もの海賊を華麗に斬り捨てる様が、とてもカッコ良かったと興奮気味に話してくれた。


 怖がらせちゃったかと思ったんだけど……、こういう反応って貴族で大商会の子だからなのかな? それともこの世界の標準? どっちだろうね。


 まあ、褒められるのは悪い気はしない。頭を撫でてあげよう。うん、かわいい。


「あ、あー……レイナ。詮索するつもりは無いんだが、一つだけ確認させてほしい。海賊船もそのトランクに入っている……、という事でいいのだろうか?」


 鋭……くもないかな? 音も立てず、残骸の一欠片すら残さずに消えれば、そりゃあ普通の手段で破壊したとは思わないよね。


「ええ。……ああ、海賊船なんて私はいりませんので、どうぞ持っていって下さい」


「そう言ってくれると助かる。恐らく盗品だろうし、ちゃんと修繕すればまだ使えるからね」


「ただ問題はどこで出すか、なんですよね。なにせ大きな物なので」


 船長さんとも話し合って、速度を調整して街への入港を夜明け前くらいにして、暗闇に紛れて海賊船を取り出すことにした。


 その後の海賊船の扱いがどうなるかは、取り調べ次第とのこと。引き取り手が無ければ、そのままミクワィア商会で使うことになるだろうけど、たぶん元の持ち主がすぐに名乗り出るだろうとのこと。


 ちなみに捕虜にした海賊と海賊船には報奨金が出るらしい。特に海賊船の方は私のトランクが無ければその場に放置するしかなかったので、私に全部くれるという方向でまとまった。


 う~ん……、この商船に乗ってなければ海賊船と遭遇することも無かったはずだから、全部は貰い過ぎなような気がするんだけど?


 ただ商船サイドの視点だと今回の襲撃は、私というイレギュラーを除外すると、シャーリーさんを戦力にカウントしてほぼ互角というところだったらしい。一方海賊側から見ると、会頭さん、執事さん、シャーリーさんが居ることがそもそもイレギュラーで、本来は楽に勝てるつもりだったんだろうとのこと。


 要するに、被害らしい被害も出ずに終わったのは、私が最初にあの五人を片付けたからだったってこと。それを考えれば、むしろ海賊船の報奨金程度では足りないくらいだと会頭さんは言っていた。


 まあそういうことなら素直に貰っておきましょ。







 商船はノウアイラの港へと到着した。


 一応断っておくと、海賊を撃退した後はこれといって何も無い、平穏無事な航海だった。海の魔物(バチマグロ)と海賊に襲われれば、海のトラブルはもうお腹いっぱい。これに嵐まで加わったらジャックポットだ。そんな大当たりはご遠慮申し上げたい。


 さてノウアイラの街だけど、正直言って意表を突かれた。ファンタジーの街ってどんなもんだろうと思ってワクワクしてたんだけど、これはちょっと予想外だ。


 ああ、港とその周辺は割と普通? 船着き場があって、倉庫があって、市場があって、それらに付随する施設があって――って感じで、基本的な印象は日本の漁港と大差ないと思う。建物は石やレンガ造りが多いから、そういうところはファンタジーっぽいかな。


 問題はその奥。見えない。


 大きな壁が聳え立って、港とその奥に広がるであろう街とを完全に分断している。


 ナニアレ? と思わず言いそうになったのを、ギリギリのところで踏み止まった自分自身を褒めてあげたい。


 きっとあの壁は魔物の暴走対策なんだろうね。魔物は何も陸から来るだけじゃあないから。サメが主役のパニック映画よろしく、海の魔物が勢い余って突っ込んでくることもあるだろうし、水陸両棲の魔物だってたぶんいるだろう。


 それを防ぐために、巨大な壁で街全体をぐるっと囲んでしまったんだろう。いわゆる城塞都市ってやつね。


 港と関連施設は利便性の為に離せなかったのかな。非常時には放棄する前提で。そう考えた上で見ると、港周辺の建物はどれも簡素なものばかりだ。


 そんなことを考えてるうちに商船は何事もなく入港した。


 ちなみに今後の予定はというと――


「街に着いた後の話なんですが、どこかこっそりテントを張っても怒られない場所ってありませんかね?」


「えっ? レイナ様、まさかテント暮らしをされるおつもりなのですか?」


「まあ慣れてるし、無一文だし」


「そんな……レイナ様、どうぞ我が家にいらしてください! 歓迎します。ねえ、お父様?」


「ああ、私も最初からそのつもりだったから遠慮することは無い。なにしろ君はこの航海の功労者で、商会にとって大事なお客様でもある。テント暮らしなんてさせられないよ」


 ――と、そんなやり取りがあって、結局ミクワィア家に招かれることになった。


 敢えて固辞する必要もないし、この世界の貴族がどんなお屋敷に住んでるのか興味があったからね。


 上陸した私たちは、一旦港にあるミクワィア商会の事務所へ。


 ちなみに港から舗装された道に足を踏み入れた瞬間、トランクの新しい機能が解放された。――面白そうだからすぐに試したいんだけど、今は自重しときましょう。これでも一応、貴族のお客様扱いなので。


 私とエミリーちゃん、シャーリーさんの三人は、ここで会頭さんたちと別れて先にお屋敷に向かうことになった。会頭さんたちは海賊関係の事情聴取や捕虜の引き渡し、沖合に停泊させている海賊船の扱いなんかの諸々の手続きがあるためにしばらく港に足止め。お務めご苦労様です。


 お屋敷の方に連絡はしたので、ただ今馬車の準備待ち。やっぱり貴族ともなれば、滅多なことでは外を徒歩で歩くこと無いんだろうね。


 馬車よりも驚いたのは連絡手段の方。なんと通信用の魔道具があった。といっても双方向の音声通話じゃなくてパッド的なものに書いた文を送るものだから、FAXに近いのかな? 使ったことないけど。


 船とこれで連絡が取れたら便利なのにね。なんでも精霊樹の魔力ネットワークを利用して信号を送るものだから、街中の、それも限られた地点同士じゃないと繋がらないんだって。


 ちょっと下世話な話をすると当然、そういう場所の土地はバカ高いんだろう。ミクワィア商会の大きさがそんなところからも窺い知れる。


 しばらくして馬車の準備が整った。


 では、いざ壁の向こう側へ。








この世界では犯罪者は罪の大小に関わらず、返り討ちにされて殺されても当然(仕方ない)という考え方が一般的です。特に治安維持を担っている貴族や、襲撃されることが多い商会関係者らの子はその辺をかなりシビアに教育されます。


家族に溺愛されているエミリーもそういった教育はキッチリされていて、また会頭に同行するようになってから何度か襲撃されたこともあるので、作中のような反応になっています。

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