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#03-14 決着




 海賊船の甲板に着地する。こっちに残ってるのは弓矢と魔法がメインの、支援部隊ってところかな。


「なっ、なんだテメェは!」


 いや、なんだもなにも……。ねぇ?


 海賊たちは自分たちが逆に攻め込まれるとは考えてないんだろうね。自分たちは蹂躙する側だと根拠もなく信じてる。こういう連中は本当に度し難い。


「さて、身の程知らずの海賊さんたち。既に交渉は決裂しています。頭目とこの船は頂いていきますが、残念ながらそれ以外の人たちは不要です。抵抗するなら容赦しませんので、悪しからず」


 敢えて丁寧な言葉で宣言すると、案の定海賊たちは顔の血管をビキッとさせて怒り出した。


「ハッ、丸腰で何言ってやがる! 海賊船に一人で乗り込んで来て、ただで済むと思うなよ!」


「丸腰? 何を言ってるのかよく分かりませんね」


 トランクを手元に呼び寄せると同時にハンマーモードに変形させる。


「取り敢えず、静かになって貰いましょうか」


 電撃を付与したハンマーをちょうどいいサイズに巨大化させつつ振り回し、取り敢えず手前の方に居た海賊を纏めてぶっ飛ばした。


 差し当たり、実戦(・・)の経験は積めた。思ったよりも心が動かなかったことが逆にショックっていうのが、何とも言えないとこだけどね。


 ともあれ、これ以上は直接手を下すまでも無い。っていうか、下手に殺してしまうと死体の後始末が面倒だ。というわけで、電撃ハンマーで気絶して貰うことにした。――まあ、結構な勢いでぶっ飛んだしあっちこっちにぶつかったから、骨折くらいはしてるかもだけど。


「頭目をここに呼んで来なさい。そうすれば、命だけ(・・)は保証しますよ」


「……かっ、頭ぁーー!!」「お頭っ!」「お頭を呼べ!」


 実のところ、探知魔法で船室に一人でいる親玉らしき人間はもう補足してる。ただわざわざ呼びに行くのがハッキリ言ってメンドクサイ。なんか男ばっかの海賊船の中って、不潔そうだしねぇ……。運動部の部室的な?(超偏見)


 そうして呼ばれてきた、いや手下に突き出されてきた海賊の親玉は、比較的上等な服を着て装飾過多の剣を提げ、大きな宝石の指輪やら金の鎖のネックレスやらを身に着け、ご丁寧に帽子まで被ったなんともステレオタイプな出で立ちだった。


 これでカギ爪の義手だったり、棒の義足だったりしたらパーフェクト――って、流石にそれは無いか。ちょっと残念。


「な、なんなんだお前は! 何してやがる! これは俺の船だ! とっとと出て行きやがれ! さもねえと……」


「さもないと、何ですか? そもそもこの船だって、どこからか盗んで来た物でしょうに」


「うるせえ! 俺の物は俺の物だ! 好き勝手してくれたようだが、覚悟しておけ。向こうに乗り込んだのは手練れだぜぇ。すぐにあんな船は落として……」


「そんなどこぞのガキ大将みたいな台詞、本気で言う人が居るとは……。ああ、頼みの綱だった魔力の高い三人と、斧を持ったマッチョの二人ならもう死にましたよ。真っ先にね」


「なん……だと」


「あ、あいつらが死んだ……」「お、終わりだ……」「う、うわぁー」


 親玉が愕然とし、下っ端たちにも動揺が広がる。これだけ頼りにされてたってことは、本当にそれなりの手練れだったんだろうね。同時にこれだけ動揺してるってことは、あの五人を除けば似たり寄ったりの実力しかないってことか。


「要するに、あなた方はお終いということです。差し当たり、あなたがたは捕縛します。いろいろ訊きたいことがあるようなのでね」


 手のひらを前に突き出し、指先からテイザーを模した高電圧低電流の電撃魔法を放って親玉以下全員を気絶させる。気分はフォー〇の使い手――なんだけど、突っ込む人が居ないとちょっと寂しい。


 まあ全員海に放り込んじゃっても良いんだけどね。所詮海賊だし。溺れるなり魚や魔物のエサになるなり、強(悪)運を発揮してどこかの島に辿り着くなり、後がどうなろうと私の知ったことじゃない。


 たださっきの船長さんの話だと労働力にはなるみたいだし、トランクを使えば運搬にコストもかからないからね。一応、持っていきましょ。


 ともあれ、これで海賊船の方は片付いた。一応魔法探知で探ってみたけど、船内に人間の反応はもう無い。


 海賊は全員気絶してるけど、一応拘束魔法をかけてと。親玉は魔法で浮かせて連れて行くとして、子分の方は海賊船と一緒に収納すればいいか。


 それじゃあ、さっさと商船の方に戻ろう。あっちはまだ戦いが続いてるみたいだし、早く終わらせないとね。


 商船の縁に跳び移り、ハンマーを伸ばして海賊船を収納して時間を止めておく。そこそこ大きな船が忽然と姿を消すって、実際目の当たりにすると結構凄い光景だね。もはや怪奇現象といっても過言ではない。


 ――おおっと、船が揺れた。海賊船の分だけいきなり海面に穴が出来たようなものだから当たり前か。今度から気を付けないと。


 甲板上の戦闘は……、既に大勢は決しているみたいだ。海賊側の数が明らかに少ない上に、その中でも無傷なのは三人くらいしかいない。


 後方から魔法で支援をしていた会頭さんが私に気付いた。


「レイナ、無事だったか! ……で、その男はやはり?」


「ええ、海賊の親玉は捕らえました。ついでに海賊船ももうありませんよ」


「は!? 海賊船が、無い?」


 会頭さんが私の立っている縁の方へと駆け寄って海を見下ろし、愕然とした表情で「本当にない……」と呟いた。


 その際チラッとトランクに視線を送ってたから、これはきっと気付いてるね。流石に目聡い。


「船が、ない……」「俺たちの船が……」「そんな……」


 驚愕が伝播し海賊船が既に失われていることを知った海賊たちは、次々と戦意を喪失し、武器を捨て投降した。


 こう言っては何だけど、海賊たちにとっては親玉が捕らえられたことよりも船がなくなったことの方が堪えたみたいだね。船さえあれば再起できると思ってたってことかな? ――いや、単純に親玉の人望が無かったって線もあるか。




 こうして海賊船による襲撃は、ミクワィア商会側の勝利で終わった。商会側の死者は無く、重傷者が三名と多数の軽傷者のみ。その怪我も私が治癒魔法で治しておいた。


 私の個人的な収穫は、対人戦と治癒魔法の経験を積めたことかな。無人島生活ではろくに怪我をしなかったから、治癒魔法は擦り傷切り傷を治すくらいしか練習できなかったんだよね。


 ちなみに捕虜にした海賊たちも、放っておいても死なない程度には治しておいた。戦いが終わった後で死なれるのは、なんかこう……気分が悪いからね。


 会頭さんたちは「別に放っておいても構わない」って言ってたから、この辺は私も日本人的な感覚が残ってるってことなのかもね。








ここまでで第三章は終了となります。


面白い、続きが気になるなど思って頂けましたら、評価・いいね・ブックマークなどして下さると嬉しいです。

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