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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十六章 蓬莱諸島>
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#16-04 人生の計は元旦にあり?




 おっ掃除~、おっ掃除~、大掃除~♪


 現在、フンフンと鼻歌混じりにお掃除を遂行中。お掃除って言うか、草むしりがメインね。そこそこの広さのある庭を綺麗にしていく。屋内の作業は舞依とクルミが担当ね。――クルミはちゃんと手伝ってるかな?


 全部手作業なら気が遠くなりそうだけど、魔法を活用してちゃちゃっと片付けていきます。ちなみに引っこ抜いた雑草やら落ち葉やらは、纏めてトランクに突っ込んでしまって、浮島に戻ってから焼却処分する。王都の貴族街で燃やすのはちょっと問題がありそうだからね。


 あー、でも落ち葉を使って焚火&焼き芋っていうのも乙だよね。まあ、それも帰ってからかな。ともかくちゃっちゃとお掃除してしまいましょう!


 新年を迎えるお祭りの翌日。新年の一日目だから、日本的に考えると元日に当たるんだけど、仕事納め~三賀日がお祭り期間に相当するから、この世界では一月一日から平常運転となる。


 という訳で一月一日の早朝に蓬莱を発ち、レティを王宮へ送り届けた後、私たちは王都の拠点向かい、早速大掃除に取り掛かったのであった。







 途中お昼に小休止を挟んで作業を頑張って進め、おやつの時間ごろには大掃除は完了。いやー、本当に魔法があると楽でいいね!


 なにせ掃除機とかバケツとか水とか高圧洗浄機(ケル〇ャー)とか、用意する必要が無い。そして用意する必要が無いってことは、当然片付ける必要も無い。掃除って終わった後も、後片付けとかゴミ出しとか面倒だからねー。


「お疲れー」「お疲れ様でした」「キュー」


 今日は良く晴れてるから、綺麗になったテラスでまったりおやつタイム。リポス茶とフルーツケーキ。しょっぱいものもちょっと欲しいから、チーズ味のクッキーも。クルミの前にはフルーツ盛り合わせね。


 はぁ~、リポス茶はホッとするね~。今日の王都はポカポカ陽気で、とても気持ちがいい。このまま舞依と二人で微睡まどろみたい気分。


 まあ魔法を使わなかったら、気温は真冬なんだけどね。蓬莱の気候に慣れちゃってたのか、思ったよりも寒くてちょっとびっくりした。このところ通ってる大図書館は、ココと比べると大分南だしね。ちなみにレティも飛行船から降りた時にビクッとしてた。


 そうそう、大図書館と言えばジェニファーさんとハインリヒさんだけど、蓬莱への移住計画は若干難航している。


 やっぱり双方の両親の説得が大変だったみたい。結論としてはかなり無理矢理な感じで、認められたというか――黙認? 積極的に賛成はしないけど反対もしない、みたいな感じに(どうにか)収まったんだとか。


 あとハインリヒさんは上司からも部下からも信頼が篤いようで、引継ぎやら何やらに時間がかかっている。ジェニファーさんだけ先に移住する案は、ハインリヒさんの「それは寂しいな」という言葉によって白紙になった。仲が良いようで何よりです。


 そんなこんなで二人の移住はまだ少し先になりそう。ちなみにジェニファーさんの推測通り、ハインリヒさんも移住に関しては前向きで二つ返事だった。


 図らずも結婚までの準備期間ができたようなものだから、二人でアレコレ準備をしたり遊びに行ったり、恋人気分というか婚約者期間を楽しんで過ごしているらしい。この間「良さげな物件があったら移設するよ」と伝えてからは、物件巡りをしているそうな。


 …………


 うーん。私もそろそろプロポーズの準備をしようかな?


 この世界に転移して、舞依と再会して恋人同士になってから一年以上経つし、神様に祝福を貰う――つまり結婚する準備も整っている。


 プロセスというか様式美というか、やっぱり告白からお付き合いをするっていうのを経験したかったっていうのもあるし、再会した当初は正式な結婚をできる目処が立ってなかったから、あの時はそれで良かった。でももう躊躇する理由は無い。


 あー、でも、舞依は両親に結婚の報告をしたいんだろうなー。そういうところはちゃんとした躾の行き届いているお嬢様だし、そんな誠実というかちょっと生真面目なところも好きだなって思う。だから私としても、その気持ちを大切にしたい。


 となると、差し当たっては精霊ちゃんが生まれるまでは待ち(・・)か。そうなればたぶん、向こうの世界樹との接続状況が今後どうなるか、ある程度予測できるようになると思うんだよね。


 どのくらいかかるかな? その間、舞依を待たせちゃうのもなー。うーん……。


「怜那、考え事?」


「え? うーん、考え事って言うか……」


「?」


 小首を傾げる舞依は、今日もカワイイ。ほっぺをコショコショしちゃおう。


「クスクス……。もう、なぁに?」


 擽ったそうに笑う舞依を見て、ふと気づいた。そういえば私たちってまだ高校生だったんだっけ。


 日本的に考えれば今年の四月から高三、受験生だ。順調に大学に入ったとして、そこからさらに四年。大学院に行かなければ、それでようやく社会人。結婚を考えるのは、さらにその後っていうのがまあ普通だよね。


 そう考えると、急ぐ理由は無いのか。ただでさえ私たちは寿命が延びてるはずだし、人生全体で考えれば、結婚はもうちょい先でもいい。どうも結婚適齢期に関するこっちの世界の一般常識に毒されていたみたいだね。


 ――とは言え、これは私だけで決めちゃっていい問題でもないか。


「ねえ舞依、ちょっと真面目な話をするけど、いい?」


「うん、もちろん。なに? 改まって」


「今現在の舞依はさ、何歳くらいまでに結婚したいって考えてる?」


「ふぁっ!? けっ、結婚?」


 ポンッと顔を紅くする舞依。でも私の表情を見て深呼吸をすると、お茶を一口飲んでから慎重に言葉を選ぶように口を開いた。


「今現在のって敢えて付け加えているってことは、この世界に来てから今までで考えが変わっているか、っていうのが要点なの?」


「うん、それで合ってる」


 舞依は「うーん……」と呟きつつ、ティーカップに両手を添えて視線を落とす。そうして少しの間考えを纏め、口を開いた。


「私は何歳くらいまで……っていうのは、これまでも具体的に考えていなかったと思う。……ただ、神様に祝福を貰えることになってるし、蓬莱も形になりつつあるから、漠然とそう遠くない未来なのかなーとは思っていたかな」


「そう遠くないっていうと、二十歳くらいとか?」


「あと二~三年だから……、うん、そのくらい。……考えてみると、日本だったら学生結婚ね」


「そう。晩婚化が進んでる日本的に考えると、早過ぎるくらいだなーって、ふと思ったんだよね」


 鈴音と秀、それと久利栖とレティは多分そのくらいには結婚すると思う。これは蓬莱の政治を安定させるっていう政略的な意味もあるから、ある種の義務でもある。まだまだ若いし健康だから世継ぎを急かす必要は全然無いけど、独身のままでいるとどこからか紐付きの美女やらイケメンやらが湧いて出て(送り込まれて)来るかもしれないからね。


 一方で政治からは距離を置いて神職に就く私たちはと言うと、あまりその辺の制約が無い。


 ――誰ですか? どうせズブズブの関係だろうなんて言う人は? いいですか? こういう事は建前が重要なのですよ。事実はどうあれ、距離を置いてることにしておく(・・・・・・・)ということです。ココ、重要なので覚えておくように。


 ともあれ、結婚を急ぐ必要は特に無いってことね。


 日本に居た頃は色んな障害があって、結婚は最終目標みたいに思ってたから、チャンスがあったらきっと何が何でも掴み取ったはずだけど、そういうのは全部解消されちゃったからね。


「怜那は、早く結婚するのは……嫌?」


「ううん。そうじゃなくて、舞依は両親にちゃんと報告してからの方が良いかなーって思ったんだけど……、その辺はどう?」


「あー……。それは、うん、できればそうしたいとは思ってる……かな」


 あくまでも勘の話で根拠は無いんだけど、日本にいる家族と連絡を取れるようにはなると思うんだよね。通信速度――っていうと妙な表現だけど、どの程度安定するかは分からないから、それがメッセージのやり取りなのか通話なのかビデオ通話なのかは分からないけど。


 敢えて急ぐ必要が無いなら、そういう小さな心残りもちゃんと浚っていくのもいいんじゃないかなーってね。


「ありがとう、色々考えてくれて」


「んー、そんな大層な話でも無いんだよね。だってそれが十年とかになっちゃうなら、私が待ち切れないと思うし……」


「ふふっ、もう、怜那ったら。……精霊が生まれたら、その辺りの事も分かりそう?」


「恐らくある程度の目処は立つと思う。だからそれによっていろいろ予定が決まるというか、準備をしなきゃというか……」


 微妙に言葉を濁すと舞依が悪戯っぽく微笑んだ。


「そっか。待ってる(・・・・)からね?」


「うん。……って、これじゃあサプライズも何もあったもんじゃないね。なんというかこう、もっとドラマチックにしたかったんだけど……。ごめんね、舞依」


「ううん。こうやっていろんなことをちゃんと二人で相談して決めていくのも、嬉しいから」


「うん……、そう、だね。考えていこう、一緒に」


「うん、一緒に」








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