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#03-13 海賊

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。




 夜が明ける少し前。東の水平線がほんの少し色を変えた頃に、海賊船は私たちの乗る商船の目前に迫っていた。


 ちなみにもう既に海賊船という呼称には、推定の文字が外れている。別に髑髏マークの旗が掲げられてたとかじゃあない。こんな距離に近づいてもなお、回避行動を取ることもこちらかの呼びかけに応じることもないということがそれを証明してる。


 っていうかまあ、強化した視力で見れば甲板上にわっる~い面構えで武装した連中が見えるんだけどね。人を見掛けで判断するな――なんて良く聞くけど、アレを見て堅気カタギの商人だと思うなら、一度目か脳の検査をお勧めするね。


 ちなみに剣を持ってるのが六割くらいかな。三割は弓で、残る一割が杖を持ってる。それにしても湾曲した片刃の剣なんて、いかにも海賊然としてるね。様式美? こっちの世界にもあるのかは知らないけど。


 対する商船側も全員武装して準備万端。革の胸当てと籠手、武器は剣っていうのが標準。小型の盾は持ってる人と居ない人が居る。あと数人のマッチョな人がトマホークを持ってる。似合い過ぎてて怖い(笑)。


 甲板に勢揃いしている武装メンバーの中には、会頭さんと執事さんの姿もある。船長さんは指揮官だから当然いる。


 多分実力的には十分戦力になるシャーリーさんは、今回はエミリーちゃんの護衛としてお部屋で一緒に待機中。――のハズなんだけど、船尾楼のドアのすぐ後ろに二人の魔力反応があるね。大丈夫かな? いろんな意味で。まあシャーリーさんが付いてるから大丈夫か。


 事前に聞かされてた通りに、戦端は遠距離攻撃で開かれた。矢と魔法でこちらを牽制しつつ、直後に身体強化を使える者がこちらへ跳び移って時間を稼ぎ、板や梯子などを渡して乗り込んでくるっていうのがセオリーなんだとか。


 でも待ってる必要は無いよね?


 サッと手を振るって――やる必要は無いんだけど、こうするとタイミングが合わせ易い――風魔法で矢とショボい魔法を吹き飛ばして、次いで無防備にジャンプしてきた海賊を低威力の魔力弾で撃ち落とす。


「ぶべっ!」「うがっ!」


 殺虫剤のCMみたいな感じで、ボトッと甲板に落ちて間抜けな姿をさらす海賊たち。


 なんとも言えないビミョ~な空気が漂い、船員さんたち――会頭さんとかも含めて――がバッと私の方を見る。


 いや、別に律儀に様式美セオリーを守る必要もないと思っただけなんだけど――と肩を竦めて見せる。


 え? そうではなくて? ああ、事前に何をするのか声を掛けて欲しいと。それは気付かなかった。申し訳ないです。


 そういえば集団戦なんて初めてだったっけ。体育の授業でもチームプレイはどうも苦手だったし。――べ、別に舞依たち以外に友達が居なかったわけじゃないよ? 本当だよ?


 なんてどうでもいいことを考えてるうちに、海賊たちがわらわらとやって来て、ついでに甲板で伸びてた連中も復活して双方の準備(?)が整った。


「いきなり舐めた真似してくれたな! 良く聞け! 俺たちゃゴア海賊団だ! 死にたくなければ金目の物と若い女を全て寄越せ!」


 私に撃ち落された海賊の一人が、青筋を立てながら大声で勝手な要求をする。なんというか、定番過ぎてひねりが無い。


「会頭さん。あの男が親玉……じゃないですよね?(ヒソヒソ)」


「だろうね。海賊などという卑怯者のトップが、先陣を切って乗り込んでくるわけが無い(ヒソヒソ)」


 ふむふむ、確かにね。


 ちなみに私がそう思った理由は、他の連中と装備類に大差が無かったから。どうせ海賊の親玉なんて自分だけ良い装備で、似合わない指輪だのネックレスだのをジャラジャラ身に着けてるに決まってるからね(偏見)。


「お断りだ! お前らこそ大人しく投降すれば、生かしたまま軍に突き出してやるぞ! ま、その後は強制労働送りだろうがな」


 船長さんが要求を突っぱねると同時に挑発する。返しに安定感があって頼もしい。


「ハッ! 後悔するぜぇ!」


「お前らがな!」


 一触即発の状況。それじゃあ、私もいきますか。意識のスイッチは既に切り替え済みだ。何も問題は――おっと、忘れるところだった。


「会頭さん、皆さんも。ちょっと気合を入れて下さいね」


「は? 何を――」


 魔力を開放し、最初に開発した探知魔法――というか、これはもう空間の掌握っていう方が正しいね。それを使う。


「ぐっ!」「なん……」「これ、は……」


 無人島で魔物を過剰反応させてしまった時はすぐに解除したけど、今回はそのまま展開し続けている。やっぱりこの魔法の領域内に居る者は、同等の魔力で対抗できなければ威圧されるみたいだ。


「ふっ!」


 刀を呼び出すと同時に、魔力を込めた踏み込みで一気に距離を詰める。狙いは五人。魔力が特に高い三人と、振り回されたら面倒そうな戦斧を持つ大男の二人。


 まず一人目。トナカイの角でコーティングした刃は、魔力を込めると切れ味が増す。並の魔物ならば骨ごと断ち斬る刃は、人間の首を斬ることなど容易い。


 嫌な感触が手から伝わってきた。でも、それだけだ。


 スイッチを切り替えてるせいもあるんだろうけど、私ってこんなに非情な性格だったかな? もしかしてこっちの世界に来た時に、メンタル面も強化されてる? まあ今考えることじゃないか。


 二人、三人、四人、五人。全員の首を落とし、ついでに戦斧の柄も切っておく。


 時間にしてほんの十秒たらず。威圧された状況下では、斬られた者も何が起きたのか理解できなかっただろう。


 いったん少し跳んで海賊から距離を取ると、次の瞬間、五つの首が甲板に落ちてゴトリと音を立てた。


 ぶん、と刀を振ってからトランクへ戻す。もっとも血振りはただの格好だけだけど。返り血を浴びるのは嫌だから、刀に氷魔法を付与して切断面を瞬時に凍らせておいたからね。これも無人島生活で会得した技術の一つ。


 レーザー切断だと切断面が焼けて血が吹き出ないっていう、SF小説の話から着想を得てる。実際高温の火魔法を付与する方でもいいんだけど、人間の肉が焼ける臭いは嗅ぎたくない。気分的にね。


 空間掌握を解除する。


「一応、面倒そうなのから片付けておきました」


「ハァー……。き……君はいったい……」


 大きく息を吐いて驚愕する会頭さんに曖昧な笑みを返す。説明する状況じゃないし、説明する気もないからね。


「では、こちらはお願いしますね」


 足に魔力を込めて大きく跳ぶ。


 どこへって? それはもちろん海賊船に。


 親玉をとっ捕まえて、ついでに船も頂いちゃいましょうか。







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