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#03-11 深夜の会議




 夜の海から船室へひとっ飛びで帰還してトランクも回収。本来の予定では錬金釜でマグロの解体をするはずだったんだけど、それは後回し。謎の船への対応を相談するために会頭さんの部屋に行かないと。


 ではでは、夜のお部屋にこっそりお邪魔して寝起きドッキリ――なんて冗談を言ってる場合じゃあない。


 …………


 あっ、うら若き乙女である私――自分で言うな、というツッコミはお控えください――が夜中に男性の部屋を訪れるって、もしかしてあらぬ誤解を与えるシチュエーション? 執事さんや船長さん相手でも同じことだし……


 となると候補は侍女メイドのシャーリーさんか。――ただ彼女はエミリーちゃんと同じ部屋で休んでるんだよね。たぶん護衛を兼ねてるからだと思う。何しろ船員さんはほとんど男性だし。


 エミリーちゃんを徒に心配させたくないから、出来れば気付かれたくないところだけど、ここはシャーリーさんのメイドちからに期待かな。


 エミリーちゃんたちの部屋の前へこっそりと移動。部屋の中には魔力反応が二つ。どちらも多分お休み中だ。


 さて、これで気付いてくれると良いんだけど……


 トン、トン、トン


 起きていて静かにしていれば多分気付ける、ってくらいの強さでノックする。


 このくらいじゃあ流石に気付かな――あ、起きた。凄いね、メイドの鏡だ。一流のメイドは眠っていても、脳の一部は常に覚醒してるのです。って、それじゃあメイドというより戦士とか格闘家とかだよ。


 訝しんでる様子だからもう一度同じくらいの強さでノック。ドアの傍まで来たところで声を掛ける。


「シャーリーさん。夜分遅くにすみません、怜那です」


「レイナ様?」


 シャーリーさんがドアを細く開けて私と背後に視線を送った。多分私一人であることを確認したんだと思う。


「驚かせてしまってすみません。実は――」


 探知魔法に船の反応がある事。こちらへ向けて進路を取ってること。どうにも怪しい感じがするから、会頭さんたちと相談したいこと。などなどを手短に説明する。


 シャーリーさんが考え過ぎっていうなら、別にそれでもいいんだけど?


「いいえ、私も気になります。支度をしますので、少々お待ちください」


 部屋に引っ込んだシャーリーさんは、カップ麺が出来上がるよりも短い時間で再び現れた。おー、完璧なメイドスタイル。


 え? ちょっと早すぎない? 変身ステッキとか変身ベルトとかインテリなんちゃらデバイスとか持ってるの?


「メイドの嗜みですから」


 さ、左様ですか。う~ん、メイドさんも奥が深い。


 それはさておき、二人パーティーになったところでお次は執事さんのところへ。やぱり執事さんも気になるとのこと。


 そして再びの変身芸。ハイハイ、執事の嗜みなんでしょう? 二度目ともなればそこまで驚きません。――いや、そんながっかりしないで。苦情はシャーリーさんへお願いします。


 さておき、会頭さんへの報告は執事さんに任せて、私たちは食堂で待機することに。


 そして数分後、食堂には船長さんも加わって五人が集まった。エミリーちゃんはこの話し合いには不参加。ぐっすりお休み中だからね。わざわざ起こして、変に怖がらせる必要もないでしょ。


 ちなみに護衛を兼ねてるシャーリーさんもこの場に居るけど、エミリーちゃんの部屋は魔法探知で常に警戒しているから、何も問題はありません。


 話し合いが始まると開口一番、船長さんが断言した。


「海賊、だろうな」


「間違いないのかい?」


「恐らくな。この辺の……島が沢山ある海域の周辺で、ここ最近海賊が出没するって情報がある。島のどれかを根城にしてるんじゃないかっていう、もっぱらの噂だ」


 船長さんがテーブルに広げた海図を、指でトントンと叩きながら説明する。海図には商船の航路も描かれていて、海賊の根城らしき諸島は航路から大分東にズレていた。


 ほうほう、これがこっちの世界の地図(海図)ですか。あ、私が一週間ほど生活した無人島もちゃんと載ってる。結構詳しいね、これ。ミクワィア商会独自の海図だったりして。


 ――これって私が見ちゃマズくない?


 ま、いいか。会頭さんも気にしてないみたいだし。


「我々の船が出ているのは周知のことだ。網を張られたのか……」


「そいつはちょっと現実的じゃないでしょう。俺たちがいつ帰ってくるのかなんて分からんわけですし、それに奴らが出没するのは大体が根城より北の海域だ」


「この辺りは確かダイゼンとの航路でしたね。それを狙っているのですか」


「ああ。だから状況的には海賊だと思うが、こっちの方に顔を出してきたのはちょいと解せんな」


「……ということは、やっぱり」


 おっと、思わずポロッと言葉が零れて注目を集めてしまった。


「お嬢ちゃんは何か気になるのか?」


「気になるというより、ただの思い付きなんですけど――」


 先日擦れ違った船が海賊に情報を渡していた可能性について言及すると、会頭さんたちの表情が強張った。


「可能性はあるな。……船長、あの船の旗は確認したか?」


「そういやあ無かった。港から離れれば旗は降ろすことも多いから、何も気にしちゃいなかったが……」


「海賊と手を組むとは……。本部に戻り次第、あの船の特定を急ぎましょう」


 えーっと、ただの思い付きだからあまり前のめりにならないで欲しいんだけどなぁ。といって口を挟める感じでもないし、どうしたものやら。


 え? 大丈夫? ちゃんと証拠固めをして外堀を埋めてから一網打尽にするから、と。なるほど。


 まあ会頭さんは貴族で権力者サイドの人だから、きっちり言逃れさせないようにとっちめてくれるんだろう、たぶん。――貴族で権力者サイドだからこそ、闇に葬る可能性もあるけど、そこは気付かないフリで。


「ところでシャーリーさん、海賊に狙われてる状況の割に皆さんが落ち着いてるのはやっぱり……」


「はい。海賊もそう珍しい話ではありません。妙な表現になりますが、大型の魔物よりも多少マシな相手とも言えます」


 海賊っていうと船に乗り込んできて暴れ回り、男は皆殺し、女と金目の物を根こそぎ強奪していく――っていう極悪非道なイメージなんだけど、こっちの世界の海賊はそこまでではないみたい。


 海賊の撃退や戦闘そのものが無理なら、降参して金品を差し出せば皆殺しにされることまでは無いらしい。ちなみにこの辺のルール――っていうのも妙な表現だけど――は山賊とか盗賊とかにも当て嵌まるんだとか。


 ま、ならず者には違いないんだけど。


 でもそういうことなら、問答無用で襲い掛かってきて何もかも破壊する魔物よりはマシなのかもしれない。


 ちなみに会頭さんたちが降参する可能性は――


「……(ニヤリ★)」


 ですよね~。あるわけない、と。


 無言で不敵な黒い笑みを浮かべるシャーリーさんがちょっと怖かったです、はい。








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