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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-37 閑話 こうしてはいられない人たち(レティーシアサイド)




「僕もそっちは気にして無いよ。むしろ積極的に、あっちからお酒とか調味料の作り方を引き出してもらいたいね!」


「……食文化の停滞は、頭が痛い問題じゃからのう」


「だよねぇ……。で、僕が問題にしてるのは、勝手に世界を繋いじゃって、向こうの神からクレームは来ないのかってこと。根回しも何にもして無いんだからさ」


「うーむ……。いや、そちらも大きな問題は無いの。かの世界は創造神が直接介入しなくとも、下界で生まれた精霊や格を上げて神となった者だけで回していけるよう、綿密に練ったシステムで造りあげられたものじゃ。創造当初こそ創造神も観察(・・)しておったが、今や完全に放置しておる。別の世界を幾つか管理しておるし、数千年おきに様子を見に行くくらいじゃろう」


「もしかして繋げたところで気付かない?」


「この程度の細い繋がりではの。何かの拍子に気付くかもしれぬが、恐らく気に留める程の事ではないと流すじゃろう」


「……なんていうか、世界そのものが実験場みたいだ」


 一柱の神として、そのスタンスはどうなのかと思う。


 ――とはいえ、文化や技術の発展には目を瞠るものがあるし、案外神が介入しない方が人間は進歩するのかも? まあ反面、進歩し過ぎた技術に人間自身が振り回されてるところがあるから、どっちが良いとは簡単には言えないか。


「言い方はちと良くないが、そういう面もあろう。ただ今回の転移にあちらの創造神の介入が無かったのもそれが理由じゃから、あの者たちにとってはそれで良かったのかもしれぬの」


「あー、そういうことになるのかー」


「ともあれ、問題は無かろうが、連絡をしておくのが筋というものじゃな。とはいえ、あちこちの世界を掛け持ちしておるから、探すのが面倒じゃ。……どれ、暇な儂が骨を折るとしよう」


「分かった。頼むよ、爺さん」


「うむ。……という訳じゃから、駄賃代わりにレイナの酒を一杯寄越すのじゃ」


「ちぇっ! しょうがないなぁー、僕だってストックは少ないんだから、一杯だけだよ!」







 お風呂を頂いた私は、自室として割り当てられた部屋に戻りました。レイナさんたちニホンジンにはお風呂に拘りがあるそうで、この城で生活するようになってからも真っ先に、厨房と同時進行で手を加えていました。なお、厨房の方は言うまでも無くシュウさんの拘りが反映されています。


 彼女たちと行動を共にするようになってから、私もすっかりお風呂好きになってしまいました。さっぱりしますしリラックスできて、心身両面に良い効果が出ていると思います。


 それにしても今日は――正確には今日()、と言うべきですが――衝撃でした。まさかほんとうにドラゴンの襲撃(訪問?)を受けるとは。そして撃退して、昼餐をご一緒して、新たな住人として加わることになるとは。状況の変化について行くのがやっとでした。


 住人――そう、住人(・・)です。私たちは今のところはあくまでも客人という扱いです。もちろん資料の精査という仕事をしていますし、島の開拓のお手伝いもしています。けれど所属(国籍)はメルヴィンチ王国のままです。


 ――このままでいいのでしょうか?


 彼女たちは我が国に友好的ですし、王都に屋敷も持っています。ショーユの開発にも手を貸して下さっています。そして浮島を仮に設置している場所も大峡谷地帯上空です。


 国として独立を宣言するのが何時になるかは分かりませんけれど、一番関係が深い国は我が国であるという、根拠のない確信があったように思います。そして実際そうなったことでしょう。


 何故なら彼女たちはこちらの世界に来てまだ一年足らずで、深く関わった人物と言えば我々メルヴィンチ王家とミクワィア家(商会)の関係者がほとんどだと思われるからです。リズ姉様との関係でリッド王太子殿下とも面識はありますけれど、知己と言えるほどではないでしょうし。


 ――これまでは、そうでした。


 しかしフィディ様が一人目の住人として、浮島に移住することになりました。しかも人脈が豊富であると言います。


 長命なドラゴンの人脈ですから、ごく普通の一般人という事は無いでしょう。ちらりと例に挙げた人物もエルフやドワーフですし、長命な種族の方が多そうです。


 一般的に長命種は総数が少なく、多くの場合部族ごとに纏まって生活しています。これは街の中で生活している場合もそうで、職人が集まるドワーフがいなどは有名ですね。


 そして彼らは横の繋がりが強いことも良く知られています。同族意識が強い――と言うのでしょうか。近隣の集落と定期的に交流があったり、職人であれば技術協力したり弟子を融通し合ったりなどです。


 もしそういった種族の方がここに移住してきたとすれば? そしてこの環境を気に入ってしまったとしたら? 次々とお仲間を連れてきてしまうのではないでしょうか?


 これは想像ですけれど、恐らく彼ら(・・)は気に入ってしまうと思うのです。


 というのも浮島には現状、何もありません。言い換えると何の柵も無く、何にでもチャレンジできるという事でもあります。そして城には大災厄以前の資料があり、レイナさんたちには異世界の知識があります。研究者や職人なら、興味を持つに違いないでしょう。――ええ、私自身がそうなので、よく分かるのです。


 そうしてフィディ様の繋がりから人材が集まり、その方たちで将来的に正式に国になった時の中枢メンバーが固められてしまったとしたら、相対的に我が国の影響力が小さくなってしまいます。


 ――そ、その、私がクリスさんの元に嫁げば、一定の影響力を維持することはできると思いますけれど……。すぐという訳には参りません。仮にも王族の結婚ですからね。手続きを踏む必要がありますし、準備も必要です。それにその、正式にプロポーズして欲しいですし。できればこう、ロマンチックな……ではなく。


 コホン。話が少し(・・)逸れてしまいました。


 少し想定より早いですが、動くとしましょう。


 部屋に招いたフランとワットソン夫妻を前に、私の考えを伝えます。


「将来的に移住することを前提として、人を集めましょう。事務処理能力に長けた文官を中心に。有望ならば若手や見習いでも良いでしょう」


「ですがレティーシア様。今の段階で文官は必要でありますか? 私としては、研究仲間をあと数人呼び寄せたいところなのでありますが……」


「仲間を呼びたいのは私も同じなのですけれど……、残念ながらあの資料に触れる者を軽々に増やせないでしょう?」


「それは、まあ……、ハイ。その通りであります」


「姫様、私からもお訊ねしたいことがあります。なぜ敢えて文官なのでしょうか? 領地開発に直接役立つ者の方が先では?」


「フィディ様の人脈は職人や技術者に偏っていそうですからね。ご趣味を考えると、芸術家という可能性も有り得ます。そちらの分野で敢えて対抗する必要は無いでしょう」


 こういった人種――ではなく、職種の方たちは、フリーハンドを与えてしまうと何をしでかすか分からないところがあります。そしてレイナさんは鷹揚に「好きなようにしていいよ」と言ってしまいそうです。


 シュウさんやリノンさんにしても、基本的に現実的で堅実な価値観に基づいて物事を判断しますが、異才や鬼才がやらかす(・・・・)ことに関しては、許容範囲が(かなり)広いように感じます。フランの奇行も笑って流してしまいますしね。レイナさんとの付き合いが長いことの弊害――と言ってしまうと少々言葉は悪いですけれど、影響を受けていると言うべきでしょう。


 フィディ様の知己がそう(・・)とは限りませんけれど、職人・芸術家のやることを制御・管理する文官の組織を先んじて作っておきたいのです。そうすることで先人としてのアドバンテージができますし、予算面での主導権も握れるはずです。


「なるほど……。よく分かりました」








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