#03-06 海の魔物の定番と言えば?
「魔法発動体!? こんなデカイの滅多に見ないぞ……」
「本物……、に間違いないか?」
「ルーペの魔力反応が振り切れてます。それにこの金属的でいて透き通った質感。魔力の通り。間違いありません、本物です。……信じ難いことですが」
「元の魔物は何だ?」
「剣のようなこの形から恐らく角のある四足歩行の魔物かと。シカ型系統の魔法発動体に似てはいますが……」
会頭さんたち三人は、トナカイの角を前にあーでもないこーでもないと議論を始めてしまった。
やっぱりかなり衝撃的な代物だったっぽい。頭の角よりも小ぶりな膝のにしておいて正解だったね。
う~ん、なんだか盛り上がってるなー。
売り手側としては良い反応をしてくれるのは有難い。なので議論は私抜きでそのまま続けて下さい。
私はのんびりコーヒーを……あ、お代わりを頂けるんですか? ありがとうございます。
会頭さんたちの盛り上がり様に対して、メイドさんは実に冷静で頼もしい。
二杯目のコーヒーを味わっていると、毛皮の手触りを確かめていたエミリーちゃんがトテトテと近づいて来た。
「あ、あの、レイナ様。もしかしてこれらの素材は、ご自分で狩られたものなのですか?」
「ええ、全てでは無いですが、そういうのもありますよ」
本当は全部だけどね。ウサギやイノシシの素材ならともかく、トナカイの角辺りになると私が自力で獲ったと言っても信憑性がちょっと……ねぇ? ま、方便ってことで。
それにしても“様”を付けて呼ばれるとはね。ちょっと擽ったい。会頭さんも“さん”を付けて呼ぶし、たぶんそういう教育をされてるんだろうな。
「魔物を狩れるなんて凄いです……。あの、やっぱり魔法で、ですか?」
「魔法も使いますよ。あと剣やナイフも」
エミリーちゃんが目を円くする。
私が、っていうか女子高生が剣を持って魔物と戦ってるところなんて、普通は想像できないよね。そういう感覚はこっちの世界でも変わらないのか。――いや、エミリーちゃんが箱入り娘だからかな?
「ですが、一番頼りになるのはコレですね」
トランクをポンポンと叩いて示す。
「それは鞄……ですよね? えっ? あの、まさかそれで魔物を叩くんですか?」
「ええ、とっても役に立つんですよ、このトランク」
私がニッコリ笑いかけると、エミリーちゃんはキョトンとした後で口に手を当ててクスクスと笑い出した。冗談だと思ったんだね、きっと。
でも残念。こっちは真実なんだよね~。
まあこればっかりは何度口で説明したとしても信じられないだろう。何しろ神様が作ったモノだからね。実際に使ってるのを見ないことには。
…………
えーっと、フラグを立てたつもりは無いんだよ? 本当に、たまたま、偶然に、そう思ってただけだから。ハンマーで叩く的を出してくれー、なんて少しも思ってないから。
って、いったい私は誰に向かって言い訳を……
冗談はさておき。定期的に展開してるソナー型の探知魔法に大きな反応が引っ掛かった。魔力はたぶんトナカイと同じくらい。つまりエリアボスクラスってことになる。
「お話し中にすみません。船長さん、右舷後方から大きな魔力反応が近づいてきてます」
「あん? ……って、本当か、何故分かる!? ……って、んなことはどうでもいいか。距離は分かるのか?」
素材談義で盛り上がってたちょっとオタクっぽい表情は、一瞬の間を置いて船長の顔になった。
「まだ五〇〇メートル以上離れてますが……、真っ直ぐこちらに向かって来てます。標的にされてるようですね」
「その距離で、よく分かるな本当に……。大きさと、ついでに魔物の種類は?」
「体長は……たぶん二〇メートル弱ってところだと思います。種類は分かりません。というか、海の魔物には詳しくないので」
正確にはこの世界全般に詳しくない(笑……えない)。
「そんなんでよく筏で旅しようなんて考えたな……、無謀だぞ」
あっはっは。ごもっともです。こういう時は笑って誤魔化すに限る。
わ、私だってトランクっていう神器が無きゃ、そんな無茶はしないんだからねっ!
――などと、心の中では可愛らしく言い訳してみたり。
「しかし二〇メートルとはなかなかの大きさだね。大型で海洋棲となるとクラーケンやシーサーペントあたりか?」
「お父様、もう少し北の方では近年ドリルシャークの目撃例があるそうですよ」
「ほう、ドリルシャークか。エミリーはよく勉強しているね、偉いぞー」
会頭さんが相好を崩して、エミリーちゃんの頭をナデナデする。エミリーちゃんも嬉しそうだけど、ちょっと恥ずかしそう。たぶん家族じゃない私や船長さんがいるからだろうね。
和む光景だけど……、そんなことやってる場合かなぁ? と疑問を持った私は何も変じゃあない。なぜなら船長さんもそんな表情だったから。メイドさんと執事さんもあからさまでは無いけど、ちょっと視線が冷たい。
そうだとは思ってたけど、会頭さんは親バカ確定だね。もうちょっとだけ行きすぎちゃうとバカ親になるかもしれない。
っていうかドリルシャークって(笑)。頭の先にドリルがくっついてて、ぎゅいんぎゅいん回転するとか? うーん、ちょっと見てみたい。
っと、話を戻さないと。
「種類は分かりませんけど、大体の形なら分かるかと……」
魔力探知から分かる大体の形状を縮小して、光魔法で空中にプロットしていく。輪切りにしたアウトラインを並べていくから、CGのワイヤーフレーム表示みたいだね。で、この輪切りの中身を埋めていけば――完成。
なんだろう? この形。
私が知ってる生き物の中ではシュモクザメに近いかな? トンカチを横にしたような奇妙な頭のサメね。ハンマーヘッドシャークって言う方がポピュラーかも。
ただハンマーヘッドの部分が全体的に三日月型だから、ハンマーって感じじゃないね。全体の形としてはしゃもじというか……、あ、アレに似てる。三味線のバチ。バチの幅を狭くした、もしくは持ち手の部分を太くしたらちょうどこんな感じ。
ただ本体の方がサメじゃないな。体形やヒレの形がマグロっぽい
――そういえば結構魚は連れたけど、青魚や白身の魚ばかりだったな。
マグロはお刺身はもちろん、づけにするのもいいし、秀に頼んで握り寿司っていうのもアリだ。良い機会だから日本酒造りにも挑戦するべき……か?
あっ、大変なことに気付いてしまった!
山葵がないよっ!
表記についてちょっと補足を。
基本的な方針として、普通の動植物は漢字表記、魔物由来のものはカタカナ表記にしようと思っています。
が、ピーマンやトマトのように漢字が無い(あるのかもしれませんが、PCの漢字変換で出てこない)ものやトウモロコシ(玉蜀黍)のように一般的とは言い難いものはカタカナで表記しています。
その辺りは文脈で判断して頂ければ……と(汗)。




