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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-31 酒酔いドラゴンは何枠?




「……いな、怜那、起きて」


 耳を擽る甘い声。そっと肩を揺らされる感覚に意識が浮上する。目を開けると、そこには愛しい人の姿が。


「おはよー、まいー」


 引き寄せてムギュッと。柔らかさと温かさを全身で感じる。――すんすん。うん、今日も舞依は良い匂い。うーん……、幸せ。


 すすーっ


「きゃっ! もうっ、ダーメ、怜那、もう朝食の時間よ? 寝惚けているの?」


「ふぁ~あ……。なんか変な時間に起こされちゃったから、眠り足りない感じ」


「二度寝する? 怜那の分は取っておくよ」


「……ううん、起きる。皆に相談したいこともあるし」


 両手を伸ばすと、舞依がクスリと笑って引っ張ってくれる。うーん、まだなんかぼんやりする。


 ベッドから離れた舞依がカーテンを開くと、部屋が一気に明るくなる。今日も浮島はいい天気っぽい。


 ちなみにここは私の部屋。で、お隣に舞依の部屋もちゃんとある。どちらの部屋にもベッドがあるけど――両方同時に使われることは滅多に無い。そろそろ部屋同士を直接繋げるドアを作ろうかなー。壁に穴を開けるとも言う。


「相談って、夜中に出かけたことに関係すること?」


「うん。夜中に確保したモノの扱いを決めるだけだけどね」


 舞依にはフライングで伝えておくね。実はかくかくしかじかで、ただ今トランクの中にドラゴンが入ってるんだよ。


 目を円くする可愛い舞依にチュッとキスをする。


 さあ、着替えて朝ごはんに行こう。




 浮島に滞在するようになってから、私は寝る前に改良した探知魔法を浮島全域よりもさらに広げて設置するようにしている。意識的に解除しない限り、自動的に私の魔力を使って維持するようにしてあるから寝てしまっても大丈夫。


 一定以上の魔力や大きさの物体が近づくと、警告アラームが頭の中に届くようになってる。熟睡状態で起きるかなーっていうのはちょっと自信がなかったんだけど、ちゃんと起きられたね。良かった良かった。


 ――精霊樹が根を張って浮島全域に加護を広げるまでの間の、あくまで念の為にと思ってたんだけど、まさか本当に出番があるとはね。何事も備えておくものだ。


 食後のお茶を優雅に嗜みつつ、深夜に侵入者が来たこと、取り敢えず眠らせて(気絶させて)トランク内に確保してあることを説明した。


「怜那さんがわざわざ相談するってことは、その侵入者が何か特殊なんだろうね」


「せやなぁ~、じゃあ俺は怪盗に一票。三人組やったら完璧やな!」


「三世と四四マグナムと斬鉄剣の三人組と、レオタード三姉妹とがあるけど?」


「どっちでもええけど、後者はやっぱ予告状が欲しいな」


「画竜点睛を欠く、か。白いタキシードにモノクルの単独犯っていうのもアリだけど、やっぱり予告状が無いね」


「ちょっと、こっちの人が付いて来れない話を引っ張らないの」


「ごめんなさい」「すんまへん」


「もう……。まあ真面目に考えるなら、この浮島に人間の侵入者は考えにくいわね。私は空を飛ぶ魔物に一票」


「鈴音さぁ~ん、そんなマジレスじゃあ大喜利にならへんがな」


「何時から大喜利をやってたのよ!」


「ははは。まあ大喜利はともかく、魔物だとしてもただ強いってだけの魔物なら、始末して素材とお肉にしてお終いでいいからね」


「普通の魔物では無いってことね。で、怜那、正解は?」


「正解は……、ドラゴンさんでしたー!」


「「「あ~……」」」


 鈴音たちは「やっぱりねー」って感じの反応で、驚いてはいない。残念――でもない。だって大峡谷地帯にはドラゴンが居ることは皆に話してたからね。空を飛べる強力で特殊な魔物となれば、答えは簡単だ。


「……キュ?(コテン)」


「そうそう、クルミも見たことのある、例のドラゴンね」


「……はぁ~。あの、皆さん?」


 エミリーちゃんやフランらが視線で訴えるのを受けて、レティが大きな溜息を吐いてから切り出す。立場的に一番上位なせいか、こういう場合ではレティが異世界組を代表して話すことが多いね。


「ドラゴンの襲撃など普通なら一大事です。そんな暢気な事を言っている場合では……」


 ごもっとも。確かに気付いた時は驚いたし、だからこそ跳び起きて即対処に向かったよ。でももう撃ち落としてトランクに放り込んじゃったんだから、問題無いでしょ。


「ええと、それもとんでもない話なのですけれど……」


「レティ、浮島すら持ち歩けるんだから、でっかい飛びトカゲ一匹ごときで何を今さら」


「う、うーん……、言われてみればそのような気も……。いいえ、もしかして、私の価値観もズレてきている? ええと、でも、確かに浮島と比べれば……。いえいえ、そうではなく、ドラゴンと言えば最強クラスの魔物の代表格で――」


 あれ? なんかレティが深刻に悩み始めちゃったよ? マンガだったら目がグルグルの渦巻きになってるパターンだ。――ちょっと皆、そんな視線で責めないでよ。


 っていうか、レティもそろそろ私たち(・・)のやることは“そういうものなんだ”って流せるようになってもいい頃だと思わない。え? おまいう? あっはっは。――スミマセン。


「ま、まあ話を戻すと、今回の件は襲撃というよりもたぶん偶発事? 少なくとも浮島に……というか私たちを標的に、攻め込んで来たんじゃあないから」


「――はっ! そうなのですか? では、ドラゴンは一体何故……」


「ま、理由までは分からないけど、喩えて言うなら今回の件は、朝起きてみたら酔っ払いが玄関先で寝てた……みたいな感じかな」


「「「はぁ?」」」




 皆と相談の結果、ドラゴンは殺処分を免れた。まあ希少種であることは間違いないし、私の安眠妨害を除けば被害もゼロだったからね。飲酒飛行の現行犯で罰金くらいが妥当かな? ああ、二四時間の社会奉仕活動でもいい。ドラゴンがせっせと花壇を作ってたりするのを想像すると、ちょっと面白いよね。


 ちなみに酔っぱらってフラフラ飛んでて、私のハンマーでハエ叩きの如く撃ち落とされたことを説明すると、レティですらちょっと呆れていた。仮にも最強種が何やってんのって、お姫様だって思うってことね。ドラゴンには猛省を促そう。


 ――というわけで。ドラゴンを解放(釈放?)するために左山の裾野に広がる平野部へとやって来た。この辺はまだ手つかずで、そこらに瓦礫が転がり所々に苔のような植物がへばりついてるだけ。つまり、多少暴れても問題は無い。


 じゃあ取り出すよー。念の為、皆はちょっと離れてて。拘束してるから暴れることは無いと思うけど、ブレスとか魔法とかは使えるだろうからね。


 ドラゴンの巨体が音もなく出現すると、寝そべっている状態でもなお小山のようなその巨体に、皆の口から感嘆の声が漏れる。


 ただねぇ――何しろ酔っぱらってグースカ眠りこけてる状態だから。最初の感動が過ぎてしまうと、どうしても残念な印象が強くなってしまう。


 解毒魔法で酩酊状態を回復して――っと、これでも起きない。しょうがないなぁ、もう。冷水の大きな球をつくってと。ドラゴンの頭の上へ――


「ちょ、待っ」「まさか……」「怜那?」「ええっ!?」


 パチンと指を鳴らしたのを合図に水球が落下。バシャーンとドラゴンの頭に命中した。


「ギャウッ!?」


 目が覚めたドラゴンが首をもたげて、ブルブルと振る。鳴き声は思ってたよりも高い感じかな? もっとこう、お腹に響く重低音を想像してたんだけど。


「お目覚めですか、酔っ払いさん。取り敢えず、勝手に私たちの島に侵入した釈明を聞きましょうか?」


 意外とつぶらで可愛らしい目をパチパチと瞬きしていたドラゴンが、目の前に立っている私を捉える。フンッと鼻で笑い、ニヤリと口元を歪めた。


「このわらわに向かって、随分偉そうな口を利く人間じゃな。今ならまだ謝れば見逃してやってもよいのじゃ」


 ほほー、やっぱり普通に共通語を喋れるんだ。魔法で声を作ってるのかな? 若い女性の声――っていうか割と幼い感じ? 見た目とのギャップが凄いね。


「そういう口は、ちゃんと動けるようになってから言いなさい。そんな寝っ転がったままじゃあ、威厳も何もないですよ?」


「うん? なんじゃ、拘束魔法なぞ妾に効くとでも思うたのか? こんなものはこうすれば……、ちょちょいと……、解け……ない? な、なんなのじゃこれは!? 解けんぞ? お主、今すぐこの拘束を解くのじゃ!」


「って言われて素直に解くわけないでしょう……」


「なんと不敬な! 恐れを知らん愚か者なのじゃ。ええい、忌々しい! ふ、ふふん、まあ良い。仮に魔法を解除できなくとも、拘束を抜ける方法などあるのじゃ」


 ドラゴンの巨体が眩い光に包まれ、それが小さく凝縮されていく。――って、ええっ!? ちょっと小さくなり過ぎじゃない?


 あれよあれよと小さくなっていき、最終的にはエミリーちゃんと同じかちょっと年上くらい――小学六年生くらいの子供の姿になってしまった。


「どうじゃ、これで……うん!? う、動けん、じゃと!? ふんっ! ぬ、抜け出せない! 何なのじゃこれはーー!!」


 魔法で雁字搦めに緊縛――げふんげふん、拘束された少女が喚くという、かなりヤヴァイ絵面が……。


 いや、これは本当に予想外だったよ!







正解は、のじゃロリ枠でした!

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