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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-25 女王様と交渉する(注:カツアゲではありません)




 女王様のところへ向かう道すがら、エミリーちゃんからハチに関する説明を受ける。


 ハチ型の魔物には大きく分けて、花の蜜や果物などを集める草食タイプと、小動物や虫を狩る肉食タイプの二種類がいる。それぞれ女王を頂点とした、一種の社会を形成するところは普通の昆虫と同じ。後者に関しては今は割愛。


 蜜蜂タイプ――キングダムビーという――は基本的に攻撃的ではなく、自身と巣が攻撃された時に反撃するくらい。つまりこちらからちょっかいを掛けない限りは攻撃されることは無い。比較的安全・無害な魔物ってことね。


 ちょっと話は逸れるけど、キングダムビーの働きバチは反撃時に何度でも刺して来る。蜜蜂のように一刺しで死んでしまうことは無いし、刺すだけじゃなくて噛みついても来る。反撃されると意外と危険なので侮ってはいけません。


 さて、キングダムビーの好物がハチの木(の花の蜜)なのは前述の通りで、それは蜜蜂も同じ。もし縄張りが被った場合は、力関係から蜜蜂は邪魔をしないように採取する。キングダムビーの方もハチの木を自分たちで増やして量的に余裕があるから、端っこの方で採取するくらいなら殊更排除することはない。


 普通はそうなんだけど、稀に蜜蜂がキングダムビーの配下に入ることがある。こうなると、蜜蜂の働きバチはハチの木畑全域で活動するようになり、採取した蜜をキングダムビーの方にも届けるようになる。もちろん蜜蜂側にもメリットがあって、キングダムビーは蜜蜂の巣も含めて自身の縄張りと定義し、兵隊バチが護るようになる。


 この状態になると、キングダムビーの兵隊バチがかなり好戦的になる。具体的には巣やハチの木畑に近づくだけで攻撃してくるようになるのだ。


 ちなみにこれは性格が変化するのではなく単純に戦力の問題らしい。つまり蜜蜂が配下に入ることにより、キングダムビーの個体数(比率)が働きバチから兵隊バチにシフトしているってことね。


 蜜蜂の状況から配下に入ったことに気付いたエミリーちゃんが、ハチの木畑から離れた方が良いって言ったのはそういう訳。


 それにしても畑を作って、労働力を配下で確保して、軍隊を整えて領土(縄張り)を護る。なるほど、王国キングダムとはなかなかのネーミング。いや、ハチは必ず女王が頂点なんだし、女王国クイーンダムって言った方が良い? ちょっと語呂が悪いけど。


「ね、ねえ、怜那? 女王様に会ってどうするつもりなの?」


 私の背中に隠れてる舞依がひょこっと横から顔を出して訊ねる。舞依は虫が苦手だからね。極端に嫌いで見るのも嫌って感じじゃなくて、普通に苦手、できれば触りたくない、くらいかな?


 ちなみにエミリーちゃんも同じで舞依の後ろにさらに隠れてる。電車ごっこをしてるみたいでちょっと面白い。なお先頭車両はクルミ。シャーリーさんは殿でその様子を見て微笑んでるから大丈夫そう。


 害虫駆除もメイドの嗜み、らしいよ? ちょっと気になって「害虫(・・)ってもしかして……?」って訊いたらニッコリ笑顔が返事だった。うん、人間の害虫(・・・・・)も含まれるんだね、きっと。やはりメイドは奥が深い。


「挨拶して、ついでに交渉して、蜂蜜を分けてもらえたらいいなーって」


「ま、魔物と交渉するのですか?」


 舞依の奥からエミリーちゃんもひょこっと顔を出した。


 まあ交渉というか恫喝――げふんげふん、ちょっと威圧すれば差し出してくれるんじゃないかなーってね。魔物は全般的に知能があるし、女王バチなら人間が何を欲しがってるのかは理解してるだろうから。


 問答無用で巣をぶっ壊すようなことはしないんだから、友好的と言っていいんじゃない? それに浮島は私たちの土地で、毎朝雨を降らせてるのは私。これは一種の税金みたいなものなのだ。


 誰ですか? 勝手に連れて来ておいて勝手なことを、なんて言う人は。フッ、権力者とはそういうモノなのです。よく覚えておくように。


 電車ごっこをしつつ森の中に入ると、程なくしてキングダムビーの巣に到着した。


「これが巣……」「というか、お城?」「実物は初めて見ます……」「立派ですね……」


 キングダムビーの巣は一本の木を中心に、雀蜂の巣のような塊が複数並び、積み重なった巨大なものだった。縦に重なって高い塔になっている巣が、木の幹の周囲に四本。それらと幹の隙間を埋め尽くすように巣があって、舞依が呟いたように城のようにも見える。塔のてっぺんが雨対策なのか尖ってて屋根のようで、その印象を強くしているんだろう。


 さて、では女王を連れて来るのだ、キミたち。クルミ、通訳は任せた。


 放した兵隊バチにクルミがこちらの要求を伝える――たぶん、伝わってるはず――と、二匹はチラッとこっちを見てから巣の中にそそくさと入って行った。


 せっせと働く働きバチを観察しつつ待つこと二~三分。


 まずは兵隊バチが二×二匹の隊列で現れて左右に展開、そしてその中央に女王様が現れた。女王様のやや後方左右に二匹のハチが控えている。侍女バチかな?


 女王様は働きバチよりもさらに大きく、触覚や翅を除いた体長が三〇センチはある。首回りや手首が白いフサフサの毛で覆われ、さらに頭にはティアラも乗ってて、なんというか凄くゴージャスだ。


 虫(魔物)がティアラ? って思ったでしょ。私も二度見しちゃったよ。でもこれはそういう形をした魔法発動体だった。まあカーバンクルの宝石みたいなのもあるしね。でも単体でアクセサリーになるデザインだし、かなりレアな部類だと思う。


「……(じ~っ)」「ジ、ジジ……」


 徐々に魔力で圧を掛けつつ女王様と睨み合う。ふむ、中々の胆力ではないか。女王様的にはアッサリ折れるわけにはいかない、ということかな? 虫(魔物)ながらあっぱれ。


 圧に耐えられずに侍女バチがプルプルし始めたところで、女王バチがスッと右手――ええと、右側の一番手前の手を挙げた。


 すると侍女バチと兵隊バチが二匹ずつ巣の中へと入り、働きバチを引き連れて帰って来た。働きバチは巣の一部というか蜜蝋を数匹で運んでいる。三〇センチ四方くらいのものが合計で一〇個余り。


 それらが揃ったところで女王様がこちらをじっと見つめて来た。


 単純にお近づきの印にくれるってわけじゃないのかな? ん? なに、クルミ? ええと、トランクを指差して――ハチの方へ? ああ、こっちからも何かあげるのか。物々交換ってことね。


 花の蜜だけじゃなくて果物とかも食べるんだよね。だったら無人島産のと、マーメイドの珊瑚礁産のトロピカルなフルーツ各種をあげよう。交渉だから出し惜しみして少な目でいいかな。決裂したら強引に採取(・・・・・)してもいいんだぞ、ってね。


 と、いう訳でトランクをシールドモードにしてサイズを変え、テーブル状にしてからその左半分にフルーツを並べる。


 意図を理解した女王様が手を挙げて指示すると、働きバチたちが空いている右半分に蜜蝋を並べていく。よく見ると色が三種類あるね。ちゃんと色別に積み上げてくれてる。


 もう一度女王様と見つめ合って互いに頷き、握手を交わす。おや、女王様ちょっと震えてる(笑)。案外虚勢を張ってたのかもね。女王様も大変だ。――お前が言うな! というツッコミはお控え下さい。


 働きバチがフルーツをすべて持って行ったところでトランク内に蜜蝋を収納。またねーと、フレンドリーに挨拶を交わして、私たちはハチの巣の元を去ったのであった。







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