#13-24 山の調査をしてみよう
一週間前「緑が広がってくれればいい」な~んて思ってた山なんだけど――
「いやいや、怜那さぁ~ん。広がるも何も、こっちの斜面緑でいっぱいやん。わっさわっさやで?」
「ねぇ? 一体何がどうなってるのやら、びっくりだよ」
「怜那……」「怜那さん……」「レイナさん……」
いやー、そんな「私が何かやったんだろう」みたいな視線を向けないで欲しいなぁ。ちなみに一緒に作業をした舞依とエミリーちゃんとシャーリーさんは、ちょっと気まずそうにススーッと目を逸らしている。そこは弁護して欲しいんだけど?
飛行船から見下ろす浮島左山(仮称)は、植林した箇所を中心に緑が広範に広がっていた。とはいえ、久利栖の表現はかなり誇張している。自然丸ごと移植したスペースは、それぞれかなり離しておいたし山は結構広いからね。緑の領域が繋がるほどではない。まあこの分だと、遠からずこっちの斜面は一面緑に覆われるとは思うけどね。
「っていうか、本当に水を撒いてただけなの?」
「うん。毎朝飛行船から若干魔力多めの雨をドバーッと降らせてただけ。その程度の雑な手入れで育つかの実験だからね」
「それで……、これ?」
まあ鈴音の疑問も分かるよ。なにせ侵略的外来種もビックリの繁殖力だ。雑草があっという間に広がるとはいってもこのスピードは速すぎるし、よく見ると育ちつつある若木もちらほらあるしね。
そうそう、例のハチの木は領域を着実に拡げ、なんかハチの木畑の様相を呈している。空から水を撒いてただけで確認はして無いけど、これは確実にハチ型の魔物がいるね。
「これは推測でありますが……、土壌改良スライムが原因でありましょう」
確かにスライムはあっちこっちにバラ撒かれてるし、実際移植する際に空けた穴の土からもスライムが回収できた。でも――
「スライムが復活できるほどの水を撒いたかな? 基本的に移植した部分に重点的にやってるし」
「実験で分かったのでありますが、青スライムは仮死状態から復活して活動を再開する前にも、水分を吸収し、周囲が乾燥し始めると水分を放出する性質があるのであります」
「つまり完全に復活してはいなくても、保水機能はあるってこと?」
「ですです」
「スライムを発見した時に秀が言ってた吸水ポリマーみたいなものね」
移植した領域を重点的に水撒きしてるとは言っても、仕切りを立ててるわけでもないし当然周辺にも水はかかる。その水をスライムが保水することで雑草が繁茂し易い状態になる。緑が拡がればその部分にも水を撒くようになるし――が繰り返すことでどんどん緑の領域が拡大したわけだ。
あとたぶんネストツリーの洞に、かなりの小動物――特に鳥が居たんだろう。その鳥が他の移植エリアに遠征して、その際に糞と共に植物の種をバラ撒いたってところじゃないかな。
何にしても移植実験は今のところ成功していると言っていいだろう。植物が枯れている様子は無いし、ここから見える範囲だけでも結構小動物や小型の魔物の気配を確認できる。
「さて、じゃあそろそろ降りてみようか。手分けして現状の確認をしよう。基本方針として、今回狩りはしない。あくまでも確認だよ。小型の魔物しかいないってことだから問題は無いだろうけど、それぞれ注意を怠らないように」
「シュウ様、リポスミルの葉は回収してもよろしいでしょうか?」
「ああ、お茶になるんでしたね。ええ、植物は大丈夫でしょう。他にはないかな? よし、それじゃあ怜那さん、よろしく頼むよ」
「りょうかーい。順番に下ろしていくよ」
グループ分けは、私・舞依・エミリーちゃん・シャーリーさん・クルミの四人+一匹、秀・鈴音・フランの三人、久利栖・レティ・ワットソン夫妻の四人、で三っつに分けた。
秀のチームはフランが主導してネストツリー、正確にはそこに棲みついている動物や魔物の調査を中心に、久利栖チームはリポスミルの調査兼葉を摘みに。
ちょっと話が逸れるけど、トマスさんによると、リポスミルは葉が有用なだけでなく見た目的にもガーデニングのアクセントになることから、そこそこの広さの庭がある屋敷では結構育てられているのだとか。増えて来たら緑地帯に植え替えてもいいかもね。
さておき。私たちが降り立ったのはハチの木が沢山あるエリア。ちなみに今回の調査は私たちの担当範囲が一番広い。ま、クルミを入れれば一番人数が多いし、移動手段があるからね。張り切っていきましょー!
「わぁー、すごい、いい香り……」「お花がいっぱい咲いてます……」
ハチの木畑は今や花畑となっていたのであった。
こんもり丸いトピアリーみたいなハチの木には、一つ五センチほどの大きさの花が沢山咲いていた。花の形は桜に似てる。五枚の花弁で先っちょに切り込みがある感じ。色は白・黄色・藤色・若干紫がかったピンク色の四種類。木ごとに色が違ってて、黄色が一番多いかな? 他は同じくらいでばらけてる。
私たちはそのハチの木畑をちょっと遠巻きにして見ている。甘く華やかな香りが風に乗って来てちょうどいい感じ。畑の中に踏み込んだら、噎せ返るくらいかもね。
なんで遠巻きにしているかというと――飛んでいるのですよ、ブンブンと。無数のハチさんたちが。せっせと蜜と花粉を運んでいる。社畜から崇拝されるレベルの働きぶり。
「あれ? 普通の蜂と、魔物のハチが混じってる。共存してるのかな?」
よーく見ると、私たちも良く知る蜜蜂と、それより一回り大きくて色も黄色の部分がオレンジ色の個体がある。後者は魔力も感じるし、たぶん魔物のハチだと思う。なお魔法発動体はここからではよく見えない。
「同じハチの木畑を共有していることも稀にありますけれど……、その場合は入り混じって行動はしない……はずだったと思います」
ふむふむ。ハチの木を勧めてくれただけあって、エミリーちゃんはハチ型の魔物に関する知識もちゃんとあるらしい。では、入り混じって――というか、普通の蜜蜂の方がせっせと働いているように見えるこの状況は?
「たぶん蜜蜂が配下に入っているのだと思います。あの、お姉様。もう少し畑から離れた方がいい――」
ブォーン!!
エミリーちゃんが警告を発すると同時に、ハチの木畑と一緒に確保してきた森の中から、二つの影が矢のように飛んできた。拳を二つ並べたくらいのサイズはあるハチ型の魔物だ。それがダーツのようにお尻の針を前にしている。
「キシャーッ!」
ピシューン フォン バシンッ!
いち早く察知したクルミがセイバーを抜き、片方を叩き落とす。もちろん私も察知してたけど――折角だからこういう時にやってみたかったアレをやってみよう。
「ほいっと」
左腕を伸ばし、人差し指と中指の二本で針をはしっと掴む。敢えて利き腕ではないところ、そして横目でチラッと見るくらいにするところがポイントね。
「クルミ、大変よくできました」「キュッ!(ドヤッ)」
ふふっ、まあ今回は手放しでファインプレーだったから、そのふんぞり返ったドヤ顔も良しとしましょう。
さて、じゃあじたばたしてるハチの首根っこを掴んで、それとクルミに叩き落されて目を回してる方も拾ってと。
ちょっと魔力を開放して威圧しつつ、二匹のハチに顔を近づけてニッコリ笑顔で圧を掛ける。
「さーて、じゃあ君たちの女王に合わせてもらおうかなぁー?」
「「ジ……、ジジッ……(ブルブル)」」
言葉が通じるとは思ってないけどね。取り敢えず殺す気はないこと、私たちには敵わないことは伝わっただろう。で、毎度おなじみ、クルミの身振り手振りの通訳でなんとなく意思疎通を図り、ハチに案内させることに。
え? 探知魔法で分かるんじゃないかって? うん、大凡の巣の位置はね。ただどうもこのハチって、女王だからって特段魔力が強いってわけじゃあ無いみたい。大体上位と下位に分かれてて、働きバチは下位、襲って来たのとかは上位で多分女王も大差ない。
というわけで、女王を呼び出すには結局この二匹を利用することになるから、今の内に従わせておこうかなってね。




