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#03-05 貴族と商談




 ワインの代わりと言っては何だけど、会頭さんから情報を得た。


 ミクワィア商会は貿易を中心に手広く商いをしている商会で、私が向かっている国――メルヴィンチ王国という――でも十指に入る規模らしい。


 そして予想通り貴族で、爵位は子爵。貴族社会は基本的にピラミッド構造で、下級貴族に行くほど数が増えるから、全体としては真ん中辺りの地位くらいかな。


 日本で学んだ知識からそう思ったんだけど、どうもちょっと違うみたい。


 ミクワィア家は商会で財を成し、王国への貢献も大きいということで貴族の位を得たいわゆる成り上がりで、新興貴族と言われるグループらしい。と言っても貴族になったのはもう四〇〇年も前の話で、新興貴族の中でも古参の部類。


 新興なのに古参とはなんぞや? そんなに続いてるなら、もう伝統的な貴族ってことで良いんじゃない? と思った私の感覚は、日本人としては正常だと思う。


 じゃあ新興じゃない貴族っていうのは何なのかって言うと、千年以上昔から――つまり例の大規模な暴走より前から存続している貴族の事を指す。これを門閥貴族と呼ぶ。


 ミクワィア家も何度か門閥貴族から奥方を迎えたことがあるから、一応端っこくらいには足を踏み入れているんだとか。でもやっぱり伝統とやらを重んじる門閥貴族の結束は固く、ついでに頭も硬くて、結局は今も成り上がりの新興貴族扱い。


 ただ商会の規模が巨大で、王家とのパイプも持つミクワィア家は新興貴族の中でも別格で、表立っては(・・・・・)門閥貴族からも侮られることは無いらしい。


 ちなみに会頭さんはそういった話を、冗談を交えて軽~く話してくれた。巨大な商会を取り仕切ってる自負と誇りがあるんだろう。


「ところで、旅に出たと先ほど言っていたね。良ければ事情を聞かせてくれないか? 力になれることがあるかもしれない。勿論無理にとは言わないが……」


「いえ、それほど複雑な事情があるわけでは無いので」


 まあ話すのは微妙に本当のことを織り交ぜた捏造――ゲフンゲフン、カバーストーリーだからね。っていうか「異世界から飛ばされてきましたー。千年ぶりの異世界人なんですよー」なんて本当のことを言えるわけが無い。


 実はこういう状況は予期できたから、予めストーリーは考えておいた。


 私は小さな島国の割と良い家柄出身で、自然災害で大きな被害を受けた際に外に出されることになった。その際、ちょっとした騒動があって仲間とは別々に旅立つことになってしまった。向かう国は決めていたから、今は合流を目指して旅をしている。


 ――と、こんな感じ。多分、秀や鈴音なんかも似たような話をでっち上げてるんじゃないかな?


 ちなみにもう働ける年齢の上に魔法も使えるのに、どうして口減らしのような扱いを受けたのかという問いには、曖昧に言葉を濁しておいた。そこまで設定を考えてなかったからね。


 ただ会頭さんたちは少し同情的な表情で納得したようだから、お家騒動とかそんな感じの事を想像したんじゃないかな。


「しかし王国は広い。何か手掛かりはあるのかい?」


「差し当たっては王都に向かうつもりです。王都には必ず行ってみようと話していたので」


 打ち合わせをしたわけじゃないけど、舞依たちが王都に向かうことを私は確信してる。


 リーダーの秀とブレーンの鈴音。あの二人なら合理的に考えるから、闇雲に動き回るんじゃなくて人と物と情報が集まる王都に向かうだろう。


 それに舞依ならきっと私の考えを読んでくれる。


 久利栖は……アホ、じゃあないんだけど割と行き当たりばったりのところがあるからな~。ま、方針決定には基本口を出さないから問題無し。


「王都か。我が商会の隊商にも王都へ向かう隊がいる。もし良ければ紹介するが……」


「ありがとうございます。ですが折角初めての地を旅するのですから、ついでに色々見て回りたいので」


「それもそうか。しかし、せっかくこうして珍しい出会いをしたんだ。私に何か出来ることがあれば、なんなりと言ってくれ」


 う~ん……


 会頭さんがここまで親切にしてくれる真意はどこにあるんだろう? でもまあ結局船にも乗っちゃったし、悪い人では無さそうだよね。勘だけど。


「……では、お言葉に甘えて。実は王国で使える通貨を持っていません。手持ちに魔物の素材やお肉があるので、それを買い取って頂きたいのです」


 だから自分の人を見る目を信じて、ミクワィア商会と取引してみよう。どうせ相場なんてわからないんだし。毒を食らわば皿までもってね。――それはちょっと語弊があるか。


 極論、ここで私を騙すようならそれはそれで別に構わない。縁を切るだけだ。


 こっちの世界の人と出会って分かったことがある。こっちに来た地球人はポテンシャルが上がるって話だったけど、そんな生易しいもんじゃない。同じ人間という括りで語れない程の差がある。


 これって私だけ別格ってこと? それとも他の皆も?


 ま、そこは考えてもしょうがないか。


 なんにせよ、相手が貴族だろうが軍隊だろうが、逃げるだけならどうとでもなりそう。戦うとなると物量で押し切られる可能性はあるけど。ゲームの無双アクションのようにはいかないよね、現実では。


「魔物の素材か。……どういった物があるんだい?」


 会頭さんの雰囲気が変わった。商談となれば話は別ってことね。


 でもそれは商人として魔物の素材に興味があるってことになるから、むしろ都合が良いとも言える。


 会頭さんに許可を取ってから、コーヒーカップを端に寄せたテーブルの上に魔物素材のサンプルを並べていく。


 毛皮でしょ、骨でしょ、角に、牙に、爪に、肉……はちょっとテーブルには出しにくいからパスで。ちなみに元の魔物はウサギ型、シカ型、イノシシ型、オオカミ型で、ウサギが一番多かった。


 そういえばあの島にはトラ型とかヒョウ型とか猫科系統の魔物は居なかったな。もし居れば、トラの毛皮の敷物を作れたのに。ちょっと残念。


「会頭、俺にはどれもかなりの上物に見えるんですが……」


「私にもそう見えるな。バスティアーノ」


 会頭さんが執事さんらしき人に声を掛けると、彼は懐からルーペを取り出して詳しく素材を調べ始めた。会頭さんも見る目はあるけど、より詳しい鑑定は専門家に任せるっていうスタンスなのかな。


 ちょっと意外だったのは、エミリーちゃんがテーブルに身を乗り出して目をキラキラさせているところ。魔物の素材――要するに死体の一部だ――なんて怖がるんじゃないかと思ってたんだけど、流石は大商会の娘。大したものです。


 なかなかの好感触じゃあないですか。ついでにちょっと爆弾――ではなく、目玉商品を出してみよう。面白そうだし。


「あとこれは数が少ないのですが……」


 ゴトリ


 セブンソードカリブーの膝に生えていた角を一本取り出す。額に生えている角よりも小ぶりだけど、魔物の大きさが大きさなのでかなりのインパクトがある。


「「「なっ……!!!」」」


 会頭さん、船長さん、執事さんが揃って目を剥いた。


 うん、ナイスリアクション! これが見たかった。








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