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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-23 峡谷の自然を丸ごと頂き!




 お昼ご飯を食べた後、私たち精霊樹の泉チーム(仮称)は、浮島を出て大峡谷地帯を気球でのんびり巡っていた。


 デート? いえいえ、ちゃんとこれもお仕事です。デート気分(・・)ではあるかもだけどね。


 ちなみにクルミは浮島で緑地帯整備チームのお手伝い。こっちに来たそうにしてたけど、気球での移動メインになるよって言ったら、地面に手をついてガックリしていた。いろいろ成長著しいクルミだけど、なぜか気球だけは克服できないんだよねー。


 飛行船を使って大峡谷地帯の遊覧飛行は前にやったけど、気球を使っては初めてだ。飛行船と違って小回りが効いて高度の制限がなく、谷の間とか崖や地面スレスレを飛べるから、迫力と臨場感は飛行船に勝るかもしれない。舞依とエミリーちゃんが凄く楽しそう。シャーリーさんも冷静そうに見えて、いつもより目が輝いている――かも?


 おーいみんなー、本来の仕事も忘れないようにねー。


 本来の仕事とは何かというと、広い意味では――植林かな?


 現在城の周辺はワットソン夫妻の働きのお陰で庭園が結構整ってきていて、そこそこ見れる景観になっている。ちなみに植えてある植物は、王都や大峡谷地帯最寄りの街で買って来たものです。


 で、他の場所はというと――何も変わっていない。元々生えてた苔みたいな植物は若干増えたかも? いや、そうでもないか。ま、要するに荒野のまんまってことね。


 実は呪われた大陸を離れればその内鳥が飛んで来て、ついでに植物を運んで来て、緑が増えるんじゃないかなーって思ってたんだよね。でも想像以上に浮島の高度が高くて、魔物も含めて鳥が来ないんだよね~。いやー、誤算だった。


 単純な高度だけじゃなくて、空に浮かんでる得体の知れないものを警戒して近づいて来ないのかもしれないけどね。なんにせよ、放置するだけで緑が増えることは無さそうな状況だ。


 生活するには問題無いけど、やっぱり緑の無い荒野のまんまっていうのは殺風景だ。目にも心にも優しくない。


 かといって精霊樹が浮島の高度を調整できるようになるのを待っていたら、時間がかかり過ぎる。あんまり急かすような真似もしたくないしね。


 というわけで。大峡谷地帯の自然を――樹木だけじゃなくて草花や土も含めて――頂いてしまおう、ということになったのである。


 ちなみにこの大峡谷地帯は誰の領地でもない。区分としては王家の直轄地ってことになるのかな。自然環境的に街は造れないし、資源を得るにしても輸送に手間がかかり過ぎる。誰も開発に名乗りを挙げなかったが故に、結果的に自然保護区みたいになってしまったらしい。――放置しているだけとも言う。


 だからちょっと木やら草花やらを頂いてしまっても問題無し! 一応レティに許可も貰っておいた。自然破壊? そんな細かいこと気にしなーい気にしない。全体から見れば微々たる量だし、誰が見に来るわけでもないんだしさ。


「木の種類とかは何でもいいの?」


「うん。今回は実験的な側面もあるし、好きなのを選んでくれればいいよ。……強いて言えば、実が生る木があるといいかも?」


「木の実を収穫するのですか?」


「ある意味そうかな。収穫するのは私たちじゃないけどね」


 キョトンとして首を傾げるエミリーちゃんがカワイイ。


 実が生ると鳥や小動物が来るでしょ? それを目当てにもっと大きな動物や魔物も来るかもしれない。つまり色んな生き物が居そうって話ね。


 それだと魔物も浮島に連れて来ることになるんじゃって? うん、その通りだし、それで構わないと思ってる。もちろん強力な魔物が居るかは予め確認して、もし居たら排除しておくから。安全面にはちゃんと配慮します。


 将来的な目標としては、浮島の左右にある山の部分が狩りもできるような森になると良いなって感じかな。余り強くない魔物くらいなら、むしろ居る方がこっちの世界の生態系としては自然みたいだしね。


「王都の農村エリアの森みたいにするってことね?」


「ああ、王都には魔物も居るんだっけ。そうそう、そんな感じ」


 と、いうわけで。作業を始めて行くよ! あ、シャーリーさんも選んでくださいね。気になったところをドンドン頂いて行きますから、遠慮なくリクエストをどうぞ。


 具体的にどうやるかというと。


 リクエストされた場所を二~三〇メートル四方、地下は二メートルくらい、高さはそのエリアの一番高い木に合わせて。その範囲に物理結界を展開して隔離してしまう。で、その結界を一つのモノとしてトランクに収納、時間を止めて保管しておく。あとで浮島の山に同じサイズの穴を掘って、そこに埋め込めば移植は完了。


 かなり大雑把な作業だから、結界の境界線でズバッといっちゃう木や根っこもあるけど、それはゴメンナサイ。あ、空いた穴は土魔法で埋めておきました。ダンジョンじゃないから、時間経過ですぐ元通りとはいかないからね。


 実が採れる木のある場所や、花畑のようになっている場所なんかを次々とトランクに放り込んでいく。――うん、なんか四角い空白地帯が出来てるのが妙に目立つね。ちょっと罪悪感。跡地に水と、魔力を少し撒いておこう。早く再生しますように!


 場所の選定にはエミリーちゃんとシャーリーさんが大活躍だった。私と舞依は見た目と勘で選んでるだけだからね。ちゃんと知識のある二人には敵いません。一旦トランクに収納すれば私も分かるんだけどね~。


 二人が勧めてくれた木(植物)をいくつか紹介しましょう。


 まずはシャーリーさんお勧めの木。上から見ると高さもそこそこ、枝ぶりもごく普通で幹がちょっと太いかな? って感じの広葉樹。で、その幹なんだけど、何故かやたらとうろができるらしい。その洞を巣に利用する鳥や小動物が沢山いるんだとか。ネストツリー(巣の木)なんて呼ばれることもあるんだって。


 お次もシャーリーさんお勧め、リポスミルという木。これは見た目が特徴的で一目でわかる。一メートルくらいの背が低い木で、葉っぱの色がオレンジ~赤で季節を問わず紅葉している感じ。


 この赤くなった葉っぱを摘んで、蒸す→発酵させる→揉む→乾燥、という工程を経ると、お茶っぱとして使える。その名もリポス茶。柑橘っぽい香りとほんのり甘み――味というより、香りの甘み――を感じるお茶で、体を温めリラックス効果があり生理痛にも効くという、女性向けのどちらかと言えば薬草茶に近いものなんだとか。鈴音が割と重い方だから、戻ったら早速お茶を作ってみよう。


 エミリーちゃんのお勧めは、剪定されたトピアリーみたいにこんもり丸っこい木。高さは大人の腰の高さ位かな。通称、ハチの木。正式名称は別にあって、エミリーちゃんはそっちも知ってたけど、長ったらしく複雑な発音で覚える気が起きなかった。学者じゃあない私は通称で十分。それが割と集中して生えているところがあって、その一角を割と広め――五〇メートル四方くらいかな――に頂いてきた。


 通称から分かる通り、この木に咲く花は蜜蜂(又はハチ型の魔物)の大好物。特にハチ型の魔物は、受粉に種まき、雑草取りに間引きなんかもやって、ハチの木を自ら増やすんだとか。つまりハチの木の群生地があるということは、近くにハチの巣もある可能性が高いってことね。


 と、そんな感じで大峡谷地帯のあっちこっちから自然を頂戴し、浮島へと帰還。後は頂いた区画のサイズに合わせた穴を開けて埋め込めばいい。今回は浮島の左側にある山を使うことにする。


 作業中…… 作業中……


「ねえ怜那、いきなり高地に移植してしまって大丈夫なの?」


「それも含めての実験かな。ただこっちの世界の植物と魔物って、魔力さえ十分にあれば環境の変化には強いっぽいから、たぶん大丈夫なんじゃないかな?」


 という訳だから水と魔力を撒きます。ああ、今回は私だけで大丈夫だから。水魔法をシャワー状にして、飛行船から広範囲に撒いていく。地上から見たら雨に見えるだろうね。


 上から見ると基本荒れ地の山肌に、タイルを張り付けたように緑のある部分ができている。さてさて、この緑が拡がっていってくれると良いんだけど。


「あ、虹だ」「綺麗ね」「はい、素敵です」「美しいです」


 せっかくだから記念撮影をしよう。皆並んでー、ハイ、パシャリっと。







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