#13-19 神様にはなれません!(主に性格の問題で)
さて、ここまで聞いたら大凡見当が付いたんじゃない?
神気は元々神様の身体だった。まあ身体と言っても物理的な肉体とはちょっと違うかもだけど、要は魂が入る器だった。だからもし魂の器となれるほどの神気の塊を自分の中に保持して、魂をその中に移すことができたなら。
「……神様になれる、と?」
「とは、言い切れないけど、たぶん近い存在にはなる。少なくとも、その状態になったら不老不死にはなると思うよ。なにせ肉体としての身体には魂の器としての機能が不要になるから、本質的には無くても良いわけだし失ったとしても再生すればいいだけだから」
「要するに肉体はアバターみたいなもん……っちゅうこと?」
「相変わらずのゲーム思考ねぇ……」
「あはは。でも今回ばかりは、的を射ていると思うよ」
「「「そうなの(ん)!?」」」
久利栖の言うアバターってゲーム内で使用するキャラクター、自分の分身ってことでしょ? 神気の方に魂は移しちゃって、ある意味肉体の方は外から操作してるようなものだから。ね? 似てると思わない。
まあそんな状態になっちゃったら、確実に人間辞めちゃってるからね。積極的になりたいとは思わないし、神気の扱いに関してはそこそこで止めておいたってわけ。まあ予想外の事で結局練習する羽目にはなっちゃったけど、変換した神気は貯め込まないようにしてるし、問題は無い――ハズ。
どうしたの皆、深刻そうな顔して? ああ、向こうの世界樹とのリンクの事? その件なら気にしないで良いって。私だって連絡できる手段が有るなら確保しておきたいと思ったからそうしたんだし。
ほら、舞依もそんな心配そうにしないで
「それに言っておくけど、プロセスが分かった……って、それもなんとなくそうだろうって想像の話で、その上できるとは一言も言ってないんだからね」
「そう……なの?」
「うん。魂の器になる神気の塊なんて、一体どれだけの魔力が必要になるんだろうって話だし、時間もめちゃくちゃかかるだろうから保持し続けるのも大変だよ。仮にそれができたとしても、魂を肉体から引き剥がすにはある種の修行が必要だと思うんだよねぇ……」
「ええと、それはもしかして、いわゆる解脱っていうモノかな?」
「あー……、たぶんソレ。肉体に由来する欲望を捨て去らない事には、魂が肉体から離れようとしないと思うんだけど……」
パチン
ちょっ、舞依? 何故にここで手を合わせて満面の笑みになるの!?
「だって、それは怜那には無理だもの」
「断言!?」
「そうねぇ……、すぐにその、イチャイチャするし?(←性欲)」
「話題の美味しい店があると、結構遠くにまで出かけてたよね?(←食欲)」
「温泉とかも好きやったっけ?(←ある意味、睡眠欲?)」
「ちょっ、人を煩悩塗れみたいに言わないでよっ!」
「う~ん……」「塗れてるわね」「塗れてるねぇ」「事実は直視せな」
酷っ! みんな口を揃えて言わなくても……。
テシテシ ウンウン
なに、クルミ。慰めてくれるの? それはありがとう――って言いたいところだけど、食欲魔人のキミに慰められてもねぇ。ちょっとビミョ~な気もするけど。
ハァ……。まあ、いいでしょう。釈然としないけど皆の表情が明るくなったから良しとする。納得はして無いけどね(強調)。
精霊樹はまず二日間は六時間くらい、大丈夫そうだったので次の日には半日、四日目には丸一日外に出してみた。私的にはもう少し慎重に段階を踏む予定でいたんだけど、精霊樹が大丈夫だって主張するものだからね。
で、丸一に外に置いた次の日――つまり五日目の今日。朝一に皆で精霊樹の様子を見に来ている。ちなみに朝食持参。精霊樹を外に出してから、一日一回は精霊樹の傍でご飯を食べてるんだよね。空気が綺麗というか、美味しく感じるから。一割増くらい?
精霊樹の様子は――うん、問題は無さそう。ではでは、日課の魔力と水遣りを。
あれ、いつもより多く吸う感じ? やっぱりちょっと無理してるんじゃないの?
無理はしてない? 本当に? でもお腹は空いたと。まあ大丈夫って言うなら信じるけど、何か異変があったらすぐに知らせるように。
――うーん、どうやら外の環境から得られるたくさんの情報に興味を持ったみたい。まだ不安定なところがあるのに、困ったものだね。
「困ったものだ……なんて、それはきっと怜那に似たのよ。一番多くの魔力をあげてるのは怜那なんだから」
「す、鋭い!」
「いやいやいや、全然、これっぽちも鋭くなんてないで? そんくらい、ここに居る全員が分かっとるがな。なあ?」
ウンウン×全員(クルミ含む)
……ま、まあその、私の影響も少なからずあるとは思うけど。でも、この子の元からの性格もあったんじゃないかな。
「元からの性格って、種になる前の精霊さんのこと?」
「うん。この精霊樹の種は普通に花が咲いて実を付けたんじゃなくて、残存する力を種に変換する形で生まれてるからね。精霊の意識が断片的に残ってたんじゃないかな。芽が出てすぐに意識を持ってたっぽいのは、たぶんそれが理由だと思うよ」
精霊樹が私の言葉に答えるように葉を騒めかせる。はっきり答える時はキラッと光るから、今のは「よく分からないけどそうかも?」みたいな感じかな。
さて、魔力と水遣りも終わったし、私たちも朝食にしましょう。いただきまーす。
今日の朝食はエミリーちゃんリクエストのフレンチトーストです。パンを甘い卵液に浸して焼いたもので、お菓子に近い感じ――みたいな説明をしたら勢いよく食いついたので(笑)。ちなみにレティもちょっとソワソワしていた。
女性陣とクルミはいわゆる普通の甘いフレンチトースト。男性陣はカリカリベーコンを添えたあまじょっぱいご飯系アレンジのものを。
うん、美味しい。やっぱり朝ごはんに卵は必須だよね!
ちなみにドードルはもう既に浮島で放し飼いにしている。まあ放し飼いと言ってもあんまり動かない鳥(の魔物)だからね。庭園の一角にある果樹スペースで、日がな一日のほほんとしていることが多い。たまにトマスさんの要請で庭園や、家庭菜園スペースに移動するくらいかな。なおドードルの誘導はクルミがやってくれる。意外とちゃんと仕事をするんだよね。
「怜那さん、今後精霊樹は外に出したままっていう基本方針で良いのかな?」
「うん。まだ暫くの間は魔力をあげる必要があるけどね。浮島は地上から大分離れてて、雑多な魔力とか瘴気が薄いからこの子を育てるにはちょうど良かったみたい」
「なるほど。……とすると、本来の設置予定場所に移すのかな?」
「徐々に根を……、というか地脈を伸ばしていくだろうから、そうした方が良いかな」
「……結構離れちゃうのね。こうして精霊樹の傍でご飯を食べるのは気持ちが良いから、少し残念かも」
「そうね。今はこうして城を出ればすぐだから、ちょっと庭でご飯にしようと思えばできるけど、泉まで出かけるとちょっとしたピクニックよね」
ま、私たちが本気で走ればほぼ一瞬で着くけどね。なんなら馬車モードでお出かけしてキッチンカーごっこっていうのもアリだと思う。
「そういう事でありましたら、実験をするであります!」
ガタンッ!
「どんなことをするんです!?」
勢いよく立ち上がったフランが宣言し、レティも目を輝かせてテーブルに両手をついて身を乗り出した。
二人ともどうどう、冷静に冷静に。ほ、ほら、ニーナ教官の目が物騒な光を放ってるから!
「城内に巡らせてある転移陣。アレを精霊樹の泉(予定)まで伸ばすのであります」
確かに転移陣の解析は完了しているし、複製も恐らく可能だろう。でも屋敷からテーブルマウンテンの中央辺りまでとなると、距離があり過ぎてラインの確保が大変だし、何より消費魔力量が実用レベルを超える。
精霊樹が地脈を張り巡らせるまで待って、それを利用する形で設置するのが現実的だと思うけど?
「確かに普通のやり方だと現実的ではないのです。なので……」
「方法があるの?」
「はい! 青スライムを使って魔力の伝達ラインを引くのであります!」




