#13-11 増える同行者
「世界との繋がりか……。そう言われてもあまりピンとこないけれど……」
「そう? むしろ秀とか久利栖には馴染みがあるんじゃない?」
「そらまた、どゆこと?」
向こうの世界にも精霊樹――っていうか世界樹があったんだよ。完全に概念的なものとしてだから、あっちはまさに集合的無意識とかアカシックレコードとかそういうものね。
で、人間って表層の意識からどんどん深くに潜っていくと、最終的にはそこに辿り着くとかなんとか――そういう話じゃなかった? それってつまり世界と繋がってるってことでしょ。
「なるほど!」「確かに!」
二人が納得したとポンと手を打つ一方、女性陣は頭の上に?マークを沢山浮かべてる。クルミは――我関せずと果物を頬張ってる。平常運転でむしろ安心するね。
まあその部分は流してもいいから。要は向こうの世界とのリンクが、まだ辛うじて残ってたってとこを分かってくれれば。
「で、夢から帰ってきた直後に、精霊樹にも力を貸りて意識の深くに潜って、そのリンクを確保したってわけ。神気を糸にして精霊樹と繋げる作業がそりゃもう大変で……。どうにかやり切って戻ってはきたけど、そのまま寝落ちして今に至ると」
いやもう、ホントにギリギリのタイミングでさー。リンクの糸を見つけた瞬間にプツンと切れちゃったんだよ、信じられる? まあでも間に合ったんだからファインプレーだよね。
…………
おかしい、反応が無い。今回はかなーり頑張ったんだから、リアクションプリーズ!
「ンンッ! ま、まあその、プロセスは理解できなかったけど……というか、あんまり理解したくないんだけど……。ともかく、向こうの世界とのリンクが永続的に維持できるようになった、ってことでいいのかな?」
「うん、正解。秀に一〇ポイント!」
「……っちゅうことは、や。精霊樹のお陰でスマホが使えるようになったことを踏まえて考えると……」
「向こうの世界と連絡できるようになるの?」
「大正解! 正解した舞依には特別に一〇〇〇ポイント~! アシストした久利栖はオマケで五ポイントね」
「ノォーーッ! 俺の一〇〇〇ポイントがーっ」
「ご、ごめんなさい、久利栖くん。つい……」
あっはっは。こういうのは最後に答えた人のものだからねー。
「あんまり期待させちゃうと悪いから正直に言うと、ハッキリと成功するとはまだ言えないんだ」
皆の表情が明るくなったのに水を差すようで申し訳ないけど。ここから先は手探りで、しかも精霊樹の成長任せの部分が大きいからね。
リンクが確立されたとはいえ遠いし、その遠く離れた世界樹に介入して連絡できるようにするとなると――うーん、どれだけかかるか分からないね。とにかく難しいことだけは確かだ。気長に、年単位で進捗するってくらいで考えてて欲しい。
「それでも向こうと連絡を取り合える可能性は残ったんでしょう? 今はそれで十分すぎるくらいよ」
「……そうだね、三~四〇年以内くらいにどうにかしてくれれば、まだ両親も健在だろうしね」
「その頃は私たちも五〇歳前後? 全然想像できないね」
「俺らは魔力量的に寿命が長いやろうし、老化も遅いんちゃう?」
「そうそう。だから二重の意味で想像できないって話ね」
「怜那さんなんて、今と全く変わらんかったりしてな。わははは……、は?」
「「「「…………」」」」
そういう怖いこと言うのは止めてよ……。いや、でも流石にそれは無いと思いたい。年相応の外見が無理っていうのは分かってるけど、せめて大人の女性ってくらいにはなりたい。
おっと、話が逸れちゃった。
あとは――そう、精霊樹関係で伝えなくちゃいけないことがあった。今回の件で精霊樹がまた少し不安定になっちゃったから、お外に出よう計画はちょっと先延ばし。それと成長に必要な魔力が増えたから、魔力供給の時に驚かないようにね。
なに、レティ? ああ、レティの魔力供給はまたちょっと先延ばしかな。今の状態で新しい魔力を吸わせるのは避けた方が良いと思う。あくまで念の為だから、しばらく様子見したらお願いするから。
っていうか、そんなにやってみたかったの? 魔力をあげるだけだよ?
「レイナさん……、それは認識がズレています。成長過程の精霊樹に魔力を奉納するという経験は貴重ですし、栄誉なことでもあります。現代において、精霊樹とはそれだけ重要なものなのです」
真剣な表情のレティに窘められてしまった。「メッ!」って感じに指を一本立てるレティが先生っぽくてカワイイ――じゃなくって、ゴメンナサイ。
こっちの世界の人の精霊樹信仰は本物だからね。これは私の認識が甘かった。なんていうか、それこそ自由研究感覚で育ててたものだから、私にとっては特別って感じじゃあないんだよね。――ハイ、もちろん言い訳です。
うん? エミリーちゃんも何か言いたそうにしてるね。ああ、そうか。
「やってみたいのなら、エミリーちゃんにもお願いするよ。ああ、もちろんシャーリーさんも一緒に」
「ありがとうございます。レイナお姉様」「光栄です」
パァっと笑顔になるエミリーちゃんと、深々とお辞儀をするシャーリーさん。うん、たぶんこの反応がこの世界の標準なんだろうね。
「ダ、ダダ、ダメですっ! あ、いいえ、ダメじゃないですけれど、私が先です。こちらの世界の人間としては、私が一番に奉納するのですから。いいですね、これは王女として命令しちゃいますから」
「ハ、ハイッ!」「御意に」
レティが慌てて立ち上がって宣言する。いやいや、別にエミリーちゃんたちも先にやろうとはしないでしょ(笑)。何もわざわざ“命令”なんて言わなくても、ねぇ。
それだけ楽しみにしてたってことかな。ちょっと子供っぽくて面白い。流石に声に出してはいないけど、日本人組の皆は肩で笑っている。
「も、もぅ、笑わなくてもいいじゃないですかっ! 順番は守らないとダメなんです!」
あっはっは。まあ横入りはいけないですよね~。
私が寝過ごしちゃったから結局飛行船でもう一泊し、翌早朝に王都へ。こっそり帰りたいレティはそのまま王宮に送り届け、私たちは自分たちの屋敷へと帰った。
エミリーちゃんとシャーリーさんは日が昇った頃に王都のミクワィア邸に送り届けた。久しぶりの馬車モードにクルミが張り切ってたね。言うまでも無く目立ってた。
そこからはなんだかんだバタバタと。秀と鈴音は醤油開発の進捗状況の確認に行き、久利栖は王宮へレティに会いに――ではなく、呪われた大陸やマーメイド族の珊瑚礁に関する説明などをしに行き、私と舞依は屋敷の手入れやら買い物デートやら。ちなみにクルミはその時の気分で誰かにくっ付いて行ってる。
え? 私と舞依だけ重要度が低い? 誰ですか、そういう事を言う人は? 先生が優しく成敗してあげますから、正直に手を挙げなさい。
まあ醤油にしろ王宮にしろ、私たちも一緒に行っても良かったんだけどね。精霊樹の様子が心配で、頻繁に様子を見たかったからそっちを優先したって感じ。
エミリーちゃんとシャーリーさんは王都に来た日から数えて三日後には、私たちの屋敷へと戻って来た。お父さんの説得に成功したらしい。なお、動きやすい服装とかの旅支度も万端だった。
で、レティはどうするのかなーなんて思ってたら、その日の内に「一緒に数名連れて行きたいのだけど……」という打診があった。その内の一人はなんでも優秀な研究者で、信用できるし口が堅い――というか、ひたすら研究に没頭するタイプで成果を発表する気がそもそも無く、また交友関係も狭い(≒無い)為に情報漏洩の心配も無いのだとか。――それって別の面で心配になるね。
そういうことなら別に構わないけど――皆はどう? ああ、取り敢えず面接はしようと。オッケー。人柄の見極めは秀にお任せで。
――で、屋敷にやって来た人物はというと、
「はっ、はは、初めまして。わ、わたっ、わたくし、フランシス マドゲンスタインと、も、申すものでありますです」
ガバッ! カラーン
「はわわっ。メ、メガネメガネ……」
「「「「「…………」」」」」
いや、もうなんていうかね。
ボサボサ赤毛の二つ三つ編み、よれよれローブ、なんかモノがいっぱい詰まってる(はみ出てる)大きなカバン、瓶底メガネ、コミュ障っぽいオドオドした口調と、これほど記号を盛ったキャラはそうそう居ない。
更に言うと極端に背が低くて、たぶん一三〇センチ無い。比率的に頭が大きく、私たちの感覚的には、マンガとかアニメのデフォルメしたキャラみたいな印象だ。たぶん普通のヒューマン種じゃないよね。なんていう種族だろう?
この子、ホントに大丈夫? 口には出さないけど、この時ばかりは私たちの心が(たぶん)完全に一致した。
思わずレティを見ると、ススーッと目を逸らすし。
うーん、キャラとしては面白いし仲良くしたいけど、ちょっと不安だなぁ~。




