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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-04 異世界政府




「ううんレティ、嫌ってわけじゃないよ。ノウアイラと王都は過ごしやすい街だったし、ミクワィア家の人達や王家の方々とも仲良くなったしね」


「むしろこれは政治的な問題……と言うべきかな。なるほど、怜那さんの真意が分かったよ」


「どういうことでしょうか?」


 双子ちゃん救出の一件で王家と深く関わって、王都に拠点も貰った私たちだけど、その後すぐに旅に出ちゃったから、今のところは上手い具合に所属は宙ぶらりんのままなんだよね。


 一方で一緒に転移してきたクラスメイトは、無事であれば(・・・・・・)もう既にメルヴィンチ王国に根付いている頃だろう。勇者パーティーの五人は言うに及ばずね。


 その上で私たちまで取り込んじゃったら、メルヴィンチ王国はただでさえ世界最大国家だというのに、軍事的にも経済的にも数段飛び抜けた存在になる事だろう。


 この世界は現状戦争の起こりにくい状態で安定してるけど、それは絶対じゃあない。暴走の鎮圧に駆り出されるくらいは別に構わないけど、争いの火種にはなるのは御免被りたい。


 争いの火種と言えば秀のキッチンカーも。本格的に営業を始めたら、これまで食文化の中心だったコルプニッツ王国の立場を木っ端微塵にしそうな予感がするでしょ? エリザベート殿下が嫁いでることだし、両国間の関係が悪化――まではいかなくともギクシャクさせるのは忍びない。


 ――とまあ要するに、私たちは形式的にでも“別の国の人間”ってことにしておいた方が、いろいろと言い訳が立つってわけなんだよ。


 誰ですか? 詭弁だの屁理屈だの言う人は? 形式っていうのは、無駄のように見えて案外意味があるんですよ。汚い大人には重要な事なので、よく覚えておくように。


 なおメルヴィンチの拠点については、建国したら大使館ってことにしてそのまま活用しよう。ついでに治外法権ももぎ取っておければベター。いろいろ便利そうだし。


 さて、皆は納得できたかな~っと、ん? なに、舞依? ニコニコして。


「ふふっ、今日はちゃんと建前から説明するんだなーって」


 そうでしょうそうでしょう。褒めてくれてもいいんだよ? 頭をナデナデ――って、それも嬉しいけど、ほっぺにチューくらいして欲しいな? それは後で二人きりの時に? オッケー。


「た、建前……ですか?」


「そそ。今のはレティ向けの説明を兼ねた建前……というか、もっともらしい理由付けかな。実のところ、私としてはあんまり重要視してない」


 目と口で三つの〇を作るレティがオモシロカワイイ。


 ぶっちゃけ今並べた理由って、私たちを取り込むつもりならメルヴィンチ王国側で考えてくれって話だからね。面倒事を避けるために先手を打つ意味はあるけど、言ってしまえばその程度でしかない。


「それじゃあ怜那さんの本音はどのあたりにあるのかな?」


「逆に訊くけど、秀と……それから鈴音はさ、やってみたいとは思わないの? 一から自分の好きなように国を作れるんだよ? しかも民主主義なんていう迂遠で不完全なシステムを使わずに、一〇〇パーセントフリーハンドで」


「んっ! そ、それは……」「う、うーん……」


 うんうん、二人とも悩み始めたね。


 秀のキッチンカーをやりたいっていう夢も本当なんだろうけど、一方で政治家一族の血が確実に流れてるのも事実だからね。鈴音も表舞台で活躍する秀を、傍らで支える自分っていう未来図を描いてたんだろうし。


「久利栖はもっと単純。本気でレティを迎える気があるなら、キッチンカーの売り子より一国の重鎮って方が良いに決まってるでしょ? 今なら公爵だろうが軍務尚書だろうがBBQ奉行だろうが、何でも名乗り放題だし」


「そりゃまあ、確かにそうやけど……って、BBQ奉行ってなんやねん! そんな役職聞いたことあらへんで!?」


「あはは。ええと、式典とかお祭りとかを担当するなら、役職的には総務大臣……なのかなぁ? よく分かんないけど」


「……もうええわ。まあそれはそれとして、確かになんぞ地位か役職は欲しいとこやけど……」


「そういう怜那はどうなのよ? あなたのメリットは、目的は何?」


「それはもちろん、法的に同性婚を認める国を作ることに決まってるでしょ」


「あ~……」「なるほどね……」「せやろうなぁ……」


 隣に寄り添う舞依が、私の手をそっと握る。


 祝福の予約はしたけど、どうせなら制度的にも認められた関係が良いからね。ある意味それを望んで異世界転移を引き寄せちゃったんだから、目的は果たさねば。


 隣の舞依を見ると視線が絡み合う。えへへ……。もうちょっと待ってね、舞依。ちゃんと結婚できる(・・・・・)体制(・・)を整えてからプロポーズするから。


「……で、どう? 国を作った方が面白そうな気がしてきたでしょ?」


「面白いって……。創作料理じゃないんだから、そんな理由で作るわけには……」


「とはいえ、興味をそそられるのもまた事実なんだよね……」


「せやけどこう……、怜那さんの口車に乗せられてる感じなんがどうも……」


 うーん、乗り気になって来てはいるけど決め手には欠ける、って感じなのかな? なかなか手強い。最初は形式的なものでいいんだから、もっと軽いノリで良いと思うんだけどね。


「怜那、形式的とは言っても“国”だよ? 普通はそんなに軽くは考えられないでしょう?」


「そういうもの? じゃあ最後にとっておき。もうこれを見ちゃったら国を作る気になる事請け合いのものを披露しよっか」


「な、なんやそれ? ホンマ、不安を煽るのが好きやなぁ~」


「浮島以上に衝撃的なもの、ということになりますよね?」


「だろうね。なにせ怜那さんのとっておきだから……」


「えぇー……、本当に一体何を隠してたのよ……」


「(ウンウン)皆が期待してくれてるみたいで、私はとても嬉しいよ!」


「期待してない!」「ないわ!」「してません!」「してへんから!」


 おー、息ピッタリのナイスツッコミ!


 ではでは、口ではそう言いつつも内心では期待している(希望的推測)皆に応えて、トランクの中にご招待しましょう。


 やって来たのはいつもの乳白色の世界。今回は固定空間の方じゃなくて、ただただ何も無い無限の空間が広がってる方。居住空間の方には精霊樹用のスペースを作ってないし、まだドードルも居るしね。


 ちなみに精霊樹には近い内に仲間も紹介すると伝えてある。私と舞依、それからクルミの魔力にも慣らしたし、成長して大分存在が安定してきたからね。


「皆に見せたいのは……、これですっ!」


 パチンと指を鳴らして、精霊樹の巨大植木鉢を呼び出す。うーん……、こういう時、音もなく特殊効果も無く出現するのはちょっと味気ない。何かそれっぽい魔法を開発しようかな?


 植木鉢と真ん中に立つ精霊樹を見た瞬間、鈴音たち四人がビシリと硬直した。最近は風格というか神々しさというか、そういうオーラが感じられるようになってきたからね。一目見ればそれと分かるだろう。


「なんやろなぁ? 屋上庭園付きの小屋?」


「いやぁ、建物に窓もドアも無いから、一応植木鉢……なんじゃないかな?」


「そうねぇー。スケール感がおかしいけど、その、観葉植物? も、あるみたいだし……」


「あ、あの……、皆さん? 現実逃避をするのはその……」


「いやいや、待つんやレティ。なんとな~くアレがなんなんかは分かっとるよ? 分かっとるけど、認めてしまったらお終いっちゅうか……」


「まったく……、皆揃って往生際が悪いなぁ。あれは正真正銘、私が育てた精霊樹でーす! はい拍手ー、パチパチー」


「わー(パチパチ)」「キュー(パチパチ)」


「「「「…………」」」」


 うんうん、舞依とクルミはちゃんとノッてくれて嬉しいよ。ありがとー。


 それに対して皆はダメだなぁ~、反応が鈍いよ? 特に久利栖はそんな事じゃあエセ関西人失格だよ。もうちょっとこう「どひゃー!」って感じの、派手なリアクションを期待してたのにね。







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