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#03-03 邂逅

通算二六話目にしてやっと、主人公が初めて異世界人に出会います(笑)。




 初めての異世界人……。正直に言えば興味はとてもある。


 でも状況がね、あんまり良くない。この世界の人命救助のルールとか全然分からないし、下手に救助(・・)されて対価を要求されてもこっちは無一文だ。


 魔物の肉や素材があるし、増やしておいた調味料――ちなみに自作の瓶や甕に移し替え済み――もあるから現物で払えると思うけど、状況的に足元を見られかねないしね。さらに言えば、救助した恩を盾にして変に目を付けられても困る。


 そもそも商船や旅客船なら良いけど、海賊船っていう可能性だってあるか。それも黒地に髑髏ドクロマークの旗を靡かせた分かり易ーいヤツならいいけど(否、良くは無い)、外見だけなら普通の商人を装った海賊だっているかもしれない。


 ――っていうか、ファンタジー的な海賊船ってなんで「海賊船でござーい!」って主張してるのかな? 見た目から標的に警戒されちゃうよね。おバカなの? それとも海賊船って分かってるのに逃げない方が悪い、だから襲われても仕方ないっていう屁理屈?


 う~ん、合理的な理由が見つからない。


 ……おっと、話が逸れた。


 ま、少々疑心暗鬼気味なことを言ってるのは認める。悪い予測を立てて警戒しておくに越したことは無いからね。


 何にしても、向こうの出方次第かな。スルーしてくれればそれでも良し。救助してくれるとして、本当に善意の人っていう場合もあるからね。







 ほほ~。結構立派な船だね。


 二本のマストが立つ大型の帆船は全体がこげ茶色に塗装されていて、金色の金属板で縁が装飾されている。船首の女性像は女神様かな? あと小型のボートが片側に二艘吊るされてるのが見える。


 見たところ外輪とかオールを突き出す穴(窓?)とかは見当たらないから、普通の帆船かな。あ、でもこっちには魔法があるから、魔法使いが船尾でウォータージェット的な魔法を使うっていう手もあるか。


 印象としてはかなりゴージャス。少なくとも海賊船には見えないし、ただの商船って感じでもない。船尾楼に何かの紋章らしいマークも描かれてるし、これってもしかして……貴族の船?


 えっ、マジで? 最初に遭遇する異世界人が貴族なの?


 いやいや、まだそうと決まったわけじゃあ無い。貴族の所有している商船で、乗っているのはその貴族が経営している商会の人間っていう場合もある。


 そういえば日本に居た頃も、本物の帆船なんて見たことは無かった。どこぞの湖の海賊船はなんちゃってだしね。なかなかいいものを見れた。という訳で記念に一枚、パシャリと。


「おーーい! そこに誰かいるのかー!」


 おっと、声を掛けられちゃったか。なら腹を決めよう。


 取り敢えず釣り道具と椅子はトランクにしまって、フードを被ってと。


 考えてみると人に合うこと自体が一週間ぶりか~。ちょっと緊張するね――なんて言うと、舞依に呆れた顔をされちゃうかな。そんな性格じゃないでしょ、ってね。


 屋根の外に出て船を見上げる。


 縁に船員が一人……あ、さらに二人増えた。こちらを見下ろしている。


「いますよー。何か御用ですかー?」


 大きな声を出すのは面倒なので、魔法で少し音量を上げておく。短い筒というかリング状の魔法で、ここを通過する空気の振動を増幅するイメージ。名付けてメガホン魔法。


「女!? って、御用も何も……。安心しろ。今、助けるから!」


「いいえー。特に困っていませんので、お構いなくー」


「えぇぇ……」「そんな風には……」「遭難してるっしょ……」


 船員さんたちは困惑と驚きをミックスさせた何とも微妙な表情になった。


 そりゃそうだ。客観的にはどう見ても漂流中だからね。


 でもこの世界には魔法があるわけだし、魔道具っていうステキアイテムもあるらしい。私が魔法使いだとすれば、筏っぽいもので単独航海もそんなに無茶な話じゃないと思うんだけどな?


 そんなことを考えてたら、船員の一人が一旦引っ込んでからすぐに戻って来た。


「とにかく、一旦こちらに来るといい。困ってないのかもしれんが、不便ではあるだろう? ボートを下ろすから、そのまま少し待ってろ」


「……では一旦お邪魔します。あ、ボートは必要ないですよ」


「あ? 浮き輪とロープでいいの――」


 足に魔力を込めて、せーのっ!


 筏から大きくジャンプして、船員さんから少し離れた縁にひらりと着地。うん、バッチリ。力と魔力の加減もかなり上手くなったね。


 甲板へ降りてサッと視線を巡らせる。見たところ特に怪しい点は無い。武装も船員の内数人が腰の背中側に短剣を佩いているだけだ。護身用とかじゃなくて階級章みたいなものかな? 制服もちょっと立派だ。


 そう、制服。ここの船員さんは全員が統一されたデザインの服を身に着けていた。下級(っぽい)船員は膝下丈のパンツに襟の無い半袖のシャツとベスト。上級(っぽい)船員はパンツがくるぶし丈になって、シャツは襟付きで何かのマークがある。


 統率が取れてる組織、っていう雰囲気がある。


 むしろ全身をローブで隠した私の方がよっぽど怪しい。笑えないことに。


 ――っていうか皆さんちょっと呆気に取られ過ぎじゃない? 私が漂流者詐欺で船を乗っ取るつもりだったら、今頃大変なことになってるよ。


 ま、ちょうど良いから今のうちにトランクを回収っと。


「えーっと……、取り敢えず、ありがとうございます?」


「えっ!? ああ、いや、まあ……、どういたしまして?」


 最初に声を掛けてくれた船員に一応お礼を言うと、ようやく我に返った船員が返事をする。私の疑問形に釣られたのか、語尾が上がってたのがちょっと可笑しい。


 ちなみにこの船員さんは短剣持ちだ。さらに帽子を被ってて、見た感じ年齢も他の船員より高い。上級船員の更に上の階級かな。


「んんっ! あー、なんだ、遭難者を救助するのは船乗りとして当然のことだ。会頭からもそう指示されているから、何も心配はいらん。……まあ、あんたは本当に困ってなかったのかもしれんが」


 最後に付け加えたのは小声だったけどバッチリ聞こえてた。


 この人がそう思うようになったのは、私が船に飛び乗ったのを目の当たりにしたからだろう。つまり最初は魔法使いだなんて想像もしてなかったってことになるよね?


 もしかしてこの世界の魔法使いって案外少ない?


「君かな? たった一人、筏で漂流していたというのは?」


 おっと、新たな人物が登場した。








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