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トランク一つで、異世界転移  作者: ユーリ・バリスキー
<第十三章 浮島>
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#13-03 良い国作ろう?




 うん、そりゃあ悩むよね。レティは生まれながらの王女様だし、国に貢献することは義務――というか当たり前のこととして教育されているんだから。


 つい最近知り合ったばかりの私たちを優先して、重要な情報を家族に知らせないという選択肢は、少なくとも今までは無かっただろうからね。


 眉を寄せて俯くレティに、舞依と鈴音が気づかわしげな視線を送る。


 なお秀は静観、久利栖はしかめっ面で腕を組んでいる。久利栖も案外冷静だね。王女としてのレティの葛藤を理解できてるんだろうね。ただできればこっちサイドに来て欲しいっていう心情が表情に出てるってとこかな。


 うーん、想定してた以上に空気が重くなってしまった。どうしよう?


 キョロキョロ バチーン


 おっ? クルミちゃーん、視線があったね? いやいや、今バッチリあったでしょ。今こそキミの出番だ。空気を読めないフリでちょっと座を和ませて来なさい。いいからほら、重い空気がちょっと嫌だったんでしょ? 後で久しぶりにメロンを一玉あげるからさ、ね?


 ――みたいなことをアイコンタクトで伝える。


 果たして伝わったのかどうかは定かではないけど、クルミがピョンとレティの膝に飛び乗って、あざとカワイイ上目遣いで小首を傾げた。


「クルミちゃん……」


 ふっと表情を和らげたレティがクルミの頭をナデナデする。


「レティとは知り合ってまだ一年も経ってないからね。今の段階で王家よりも私たちを優先するっていうのは、正直難しいだろうなって思う。後戻りできないところまで来ちゃった後で『聴かなきゃよかった』なんて後悔するくらいなら、今はまだ知らないでいるっていうのも、賢い選択だと思うよ? 今を逃したらもう機会がないってわけじゃないだし」


「レイナさん……」


「ちょい待ち! 俺ら一体何を聞かされるん?」


「世の中、知らない方が良いことって、いくらでもあるよね」


 腕を組み、目を閉じてウンウンと頷いてみせる。


「何かしら? ちょっと用事を思い出しそうな気がするわ……」


「そうだね。僕も新しいレシピを思いついたような気が……」


「お、おお、俺も積みゲーをそろそろ消化せな……」


「残念! クランメンバーは逃げられませーん!」


「逃げ遅れたわっ!」「藪蛇だったか……」「ギャァー」


 人に話を振っておいて逃げようとするとは。まったく、御当主さん(タヌキ爺)がいたら一喝されて補修コースだよ?


 そんなコントめいたやり取りに暫くクスクスと笑っていたレティが、居住まいを正した。うん、決意は固まったみたいだね。


「皆さんと一緒に聴きたいと思います」


「いいの?」


「はい」


 考えてみれば研究の中には家族に話していないものもあるし、大きな話であればいずれ知ることになるだろう。速いか遅いかの違いなら、先に知っておきたい――っていうのが理由らしい。


「それと、知らない方が良いこと……というのに、興味が湧きましたので」


「なるほど。イイね、レティ。その好奇心!」


「ふふっ(ニッコリ☆)」「フフフ……(ニヤリ★)」


「あ、あかん。レティが……、レティが怜那さんに汚染されとる……」


 ちょっと! 汚染とは失敬な! レティは研究者だけあって、もともと好奇心も探求心も強かったんだよ。つまり、素養はあった。だから多少影響を与えたってくらいじゃないかな~。――責任転嫁じゃないよ? ホントの事だから。


 さておき、結論は出た。という事で、発表しましょう!


「この島に独立国を作る」


「「えっ!?」」「……」「ファッ?」「国を、作る?」


「王様は秀がやってね。ま、私も手伝うからさ」


「「「「「…………」」」」」


 おやおや、みんなどうしたの? フリーズしちゃった? ええと、強制再起動は電源スイッチを長押し、だったっけ? なんて。電源スイッチってどこよ(笑)。


「ちょ、ちょお待ちや、怜那さん。国を作るて、なんぼ何でも俺ら六人――」


 ピョ~ン ゲシッ フンス


「アウチッ。すまんすまん、六人と一匹やったな。ちょっと間違うただけやん、蹴りを入れんでも……って、そうやなくて。俺らだけで国っちゅうのは無茶やないか?」


「そうよ。まあこの島より小さな国はあるし、国土は良いわ。でも国民は? 産業は? 憲法や法律のことまで私たちだけで? それはさすがに……」


「大丈夫大丈夫。潜水艦一隻とか会議室だけとか宇宙要塞とかで国家を名乗った前例だってあるんだから、立派な島があるだけマシってものでしょ」


「怜那さぁーん、その前例はどれもフィクションやねんで?」


「付け加えると、宇宙要塞のは政府であって、国家とは名乗ってないね」


 あっはっは。うん、知ってる。では、仕切り直して。


「この際、実態が集落だろうが村だろうがそれはどうでもいいんだよ。なんなら私たちの住む家……っていうか、この城があるだけでもいい。ただ、対外的には“国”ってことにした方がいいと思ってね」


「つまり便宜上、クランという看板を国に架け替えるだけ、と?」


「うん、そう。もちろん王様になった秀が国を大きくしたいって言うなら、それは好きにすればいいし協力するよ」


 差し当たりは重く考える必要なんて無いよ。国なんて所詮、どこかの誰かが「ココからココまでの土地は俺たちのモノだ。無断で侵入するのは許さない」って言ったのが始まりでしょ? そういう意味では、自力で島を手に入れた私たちが国を名乗ることに、何ら問題は無い。


 この世界は基本的に国家間の戦争が起きない形で安定してるから、安全保障的な意味でも問題無いしね。というか、そもそもこの浮島は一般的な飛行船よりも大分高いところにあるから、制空権は常にこっちにある。攻め込むのはかな~り難しいだろうね。


 まあ国を大きくするなんてそう簡単にはいかないだろうから、当面は狩りとかキッチンカーとかで稼ぎつつ、並行して浮島の開拓を進める感じになると思うよ。


「でもそれなら、敢えて国を名乗る必要は無いでしょう? 浮島だって普段はトランクに放り込んでおけばいいんだし」


 鈴音の疑問に対し、久利栖とレティとクルミが頷く。舞依は保留、秀は考え中ってところかな? なお、クルミが内容を理解しているのかは不明。


 当面はまあ今のままで良いと思う。向こう五年くらいはね。


 大図書館にも行ってみたいし、東の方の大陸は文化がだいぶ違うみたいだからそっちも興味あるしね。キッチンカーをやりつつ世界一周をするつもりで旅するのもいいんじゃない? そうやって旅してるうちに、他にも何かやりたいことが出来るかもしれないしね。


 そうやって世界中をフラフラしていれば、所属が曖昧なままでいられるから問題無いんだろうけど……、遠からずどこかに落ち着く必要は必ず出てくる。


「断言するのね?」


「そりゃあするよ。だって鈴音、やっぱり秀の子供が欲しいでしょ?」


「(ボンッ!)そっ、そん、こ、こここ、くぁwせdrftgyふじこlp……」


 おっと、鈴音が熱暴走を起こしちゃった。意外と不意打ちに弱いというか、ストレートに訊くと上手に躱せないところがあるんだよね。


「コホン、その、怜那さん。あんまり鈴音をいぢめないでくれるかな? まあ、でも確かに出産・子育てとなると、旅をしながらっていうのは難しいだろうね」


「トランクを活用すれば容易いことではあるけど、あんまり地に足の付いてない生活を子供に見せるのもねぇ……」


「子供に同年代の友達も作ってあげたいしね?」


 そうそう。あと私たちにはこっちの世界に両親が居ないからね。子育てに関して、頼れる大人が側にいる環境は欲しいと思う。その為にはやっぱり、地に足を付けた生活もしないとね。たまには冒険もいいけど。


 誰ですか? 冒険メインで地に足を付ける方がたまに(・・・)だろう、なんていう人は? 先生が成敗してあげますから手を挙げなさい。


 お、鈴音が復活した。え? 勝手に他人の子育て計画を立てるな? あっはっは。いや~、でも私たちはもう家族みたいなもんだし、いわば初の甥・姪だからね。無関係じゃあないのですよ。


「……まあ、真面目に考えてくれるのは嬉しいわ、ありがと。でも、だったらメルヴィンチの拠点でいいでしょう?」


「それだと完全にメルヴィンチ王国の民になっちゃうからね」


 私の言葉にレティがピクリと反応した。そして恐る恐るという風に口を開いた。


「あの、怜那さんはわが国の民になるのは嫌……なのでしょうか?」








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